第10話 記録者たちの横顔
【記録編集者による註釈 I】
最初の二つの証言記録。
これを読んだ時、私は、この調査が単なる都市伝説の検証に過ぎなかった頃の、先輩たちのプロフェッショナルな顔を思い浮かべた。だが、彼らは単なる記録者ではなかった。家族を愛し、仕事に誇りを持ち、そして、ささやかな日常の習慣を大切にする、ごく普通の人間だった。
次に示すのは、彼らのありふれた日常の断片である。
▼水野渉のプロフィールと記録
水野 渉(みずの わたる)/ 42歳 / ディレクター
大手テレビ局の報道部出身のジャーナリスト。体制の中で描きたいものが描けないことに限界を感じ独立、小さな番組制作会社「スタジオ・アーク」を立ち上げる。専門は社会派ドキュメンタリーと、都市伝説の背景を追う調査報道。私生活では妻と一人娘(7歳)がいるが、仕事に没頭するあまり、家庭を顧みない日々に内心では罪悪感を抱えている。
習慣・験担ぎ:
新しい調査取材を始める日の昼食は、必ず天丼と決めている。たとえ金欠で懐が寂しくとも、他の食事を抜いてでも、この験担ぎだけは欠かさない。「高く“揚がって”、いい“ネタ”が“獲れる”ように」というのが、彼の口癖だった。
個人用ICレコーダー音声日記より抜粋 [2025.06.13]
「……午前2時。ようやく帰宅。また、娘の寝顔を見るだけか。机の上に、俺の似顔絵が置いてあった。『ぱぱ、いつもおしごとごくろうさま』。この仕事は、一体何のためにやっているんだろうな。この子のために、より良い社会の真実を記録するため? ……だとしたら、あまりに格好つけすぎか」
「……明日から「坂女」の本格的な取材に入る。昼は、いつもの天丼屋で景気づけだ。絶対に、最高のドキュメンタリーにしてやる」
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