第5話

 まりが家を出てから、早いもので一ヶ月が経とうとしていた。心配ではあったが、毬の居場所は、俺はもちろんのこと風紀ふうきも知らなかった。百合ゆりの親族は郊外だし、俺の親族はもう遠縁だしと、どこでどうしているのか。唯一分かっていることは高校には通っているということ。居間で一人思い悩んでいると、珍しく冬紀ふゆきが顔出す。そして、

「毱は大丈夫ですよ ボクの知り合いでシェアハウスを営んでいる方に頼んでおいたので今そこに居ます」

毬に関する情報を告げた。

「えっ!どういうことなんだっ?」『いつそんなに親しくなったんだっ』

「毬が困っていたので勧めました」

俺は冬紀が本当は頼りになる好青年だということを改めて認める。そんな冬紀に微笑んでいた。

「なんですか」

冬紀が少しムッとして俺に放った。

「いや 君は引きこもりだって聞いていたからさ」

「あの人は自分のことだけでいっぱいいっぱいの人だから」

父親を「あの人」か、これは和解には苦労しそうだなっと思いながら目を丸くした。

「別にボクは母と一緒で良かったんですけど母が義父親ぎりちちでもいた方がいいから一緒になったって言ってましたけど」

「っ!義父ぎりちち

俺が声を張り上げた。俺の声に少しびっくりしながら冬紀が後ずさりした。

「あっごめん 再婚ってことなのかな?」

冬紀にそのことが気になり問いかけた。

「母は本父親のことを教えてくれませんでした多分言えない相手だったのかも知れません それか本当に知らないかボクがお腹にいた時に事情を話してあの人と一緒になったって母は言ってました」

俺はそれを聞いて複雑だなと苦笑いした。風紀は冬紀の実の父親じゃなかった。ならなぜ一緒になったのだろうか。俺と同じで一目惚れで一緒になったのだろうか俺はこの世にいない風紀の妻に嫉妬していた。

「あっ ところで 毬とはいつそんなに親しくなったんだ?」

毬から話しかけたのかもしれないが、この疑問の方が不思議だ。

「ひとつ屋根の下です 出くわすこともあったので人懐っこい子ですよね」

俺は冬紀の返答に納得しながら、ふっと笑った。

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