第12話 再会1

 勇者を背中におぶって地下一層フロアへ戻る。

 結界もあり、ホームベースとしているここに彼女を寝かせておく。


「ユーリ、まだ勇者は起きぬか」

「ああ」


 ずっと氷漬けの状態だった勇者様。

 とはいえ今は体温も感じるし、呼吸もしっかりしている。

 待っていれば、じきに目を覚ましてくれると思うんだが……。


「……ん、ん」

「「お」」


 そんなことを二人で話していると勇者の反応があった。

 ごしごしと目を擦ったあと、慎重に目を開いて上半身を起こす。


「目覚めたか、勇者様よ」

「あ、貴方は一体……」

「俺の名はユーリ」

「ユーリ、様?」

「様なんて付けるほどの身分じゃない」

「は、はぁ……えと」


 まだ少し警戒の混じったイールスの視線。


「そう心配せずとも怪しいものじゃない、いきなりは信じられないだろうけどな」


 警戒心をできるだけ解すように優しく語りかける。

 俺は初対面の相手には優しいんだ。

 ゆっくりと立ち上がり、不安そうに周囲を見回す勇者。


「自分の身に起きたこと、思い出せるか?」

「え、えぇと」


 額に手を当てて思い出そうとする勇者ルールス。


「た、確か私は魔王シェラルクールをなんとか倒して封印して、それで……あと少しで地上というところまで来て、凍って……意識が消え、そうだ!」


 我に帰り、走り出そうとする勇者。


「すみません! 私は急いで国に戻らなければならないのですっ!」

「待て待て! 慌てて行動しても意味はないぞ」

「意味がない……とは?」

「えぇと、驚くだろうがしっかりと聞いてくれ」


 勇者に俺の知る事情を説明する。

 千年、彼女が氷漬けにされていたことを……。


「わ、私は、そんなに長い間あのダンジョンで氷漬けにされていた、と」

「そうだ」

「はは、あははは……そんな馬鹿なことあるわけないじゃないですか」

「いや、本当だぞ」


 だが言っても本人は信じない。


「やれやれ、助けた恩人の言葉すら素直に信じられんとはな、これのどこが勇者か……勇者の名が聞いて呆れるわ」


 ここでさっきまで黙っていたシェラが口を開く。


「あ、貴方は……」

「ふん、ようやく我に気づいたか」


 シェラを見て目を大きく開く勇者イールス。

 魔王と勇者の千年振りの会合がついに始……。


「ユーリさんの妹さんですか? すいません、その……ご挨拶が遅れて、小さくて気づきませんでした」

「どいつもこいつも言ってくれるわ!」


 ……始まらなかったようだ。


 怒り吠える魔王様。

 なんかややこしくなりそうな予感。


「勇者はこの場所に見覚えはないのか? 【嘆きの城】の入り口だぞ、外を見ればわかる」


 一緒に地上への階段を登る俺たち。

 勿論、魔物が来ないことを確認して。


「なるほど、確かに似ていますが、私が入った時と風景が大きく違いますね、外は平地で鬱蒼とした森ではなかったはずですし」

「それは千年が過ぎたからだ」

「うぅん、ですが」


 説得しようと頑張る俺だが、それに対して勇者が口を開く。


「知人の森の賢者のハイエルフでしたら、数日あればこれぐらいの森は作れますよ」

「…………」


 やべぇ。

 めんどくさいぞ、ファンタジー世界。

 物理法則超えてくるから証明が難しい。

 シェラは時樹とかいうので時間を把握したそうだが、今すぐ地下に向かう手段はないし。


「まったく、なんでも否定から入りおって……。ま、仕方あるまいか。この女、基本的に知性からして低いしな」

「な、さっきから聞いていれば一体なんなのですか? 初対面なのに凄く失礼な女の子です!」

「事実だろうが……姿は違うとはいえ、話してもまだ我の正体にまだ気づかないしな、ふんっ!」

「……正体? 姿は違う?」


 訝しげな顔を見せる勇者。

 シェラ、勇者に気づかれず少しショックだったみたい。

 昔からのライバルが自分のことを忘れていた感覚なのかな。


「ま……ド基礎の生活魔法すら使えん、武器で殴るだけの超脳筋勇者だしな」

「つ、使えないのではなく、聖剣に集中するためにあえて無駄を極限まで削ぎ落としたのですよ! そう、浮気しないだけなのです! 極めた美といって欲しいです!」

「ほう魔法式でしょっちゅう足し算引き算間違えて暴発させるから、使用を止められていたと聞いたがな」

「うぐ」


 そうなんだ、勇者様。

 納得いかないと、大きい声で反論する勇者様。

 なんか場が騒がしくなってきた。

 俺の中の勇者像が少しずつ壊れていく。


「だ、だったらなんですか、魔法が使えないのがそんなに問題なんですか! そういうのはよくないです! 差別です! 凄くよくないです! マジックハラスメントです!」

「ですです、うるさいのう。こうして脳筋なのを自分でも気にしているのか、物腰柔らかな口調や丁寧語を使うが、それは少しでも頭良さそうに見えるようにするためなんだろう? 違うか? のう、違うか?」

「な、ななっ、何故それ貴方が知っているのですかっ!」

「汝は我らの一番の敵だ、全部調べさせたからな。しかし……その女もこの体たらくだ、まったく、……まさか『世界の行く末を見届けてくれ』という我の最後の言葉を無視して、氷漬けになっているとは思いもしなんだ、何が『約束します』だ! このたわけが!」

「な、それは私と彼女しか知らないやりとりのはず……え?」


 ここでようやく、少し気づいたようで。

 シェラの顔を観察するようにじっくりと見る勇者イールス。


「まさか、まさか……いえ、ですがっ、た、確かに面影が……」


 口を大きく開け、確認するように小さく呟く。


「シェラル、クール?」

「ようやく気づいたか、この馬鹿者が」


 ため息を吐くシェラが印象的だった。

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