第2話 召喚
「ふふ、ふふふ……」
幼女が俺を見下ろし、不敵な笑みを浮かべている。
年齢はギリギリ一桁といったところか。
腰まで伸ばしたピンク色の髪が印象的だ。
頭の左右にはどこで売っているアクセサリーなのか、山羊の角みたいなのが生えている。
不釣り合いに大きい黒いマントを手動でバサリと翻す幼女。
俺にもあんな頃があったなぁ、懐かしい。
自宅のシャッター棒を剣がわりに振り回して、親に怒られたっけ。
しかし、この状況はどういうことか。
俺は車に轢かれたはずなんだが……。
最後に覚えているのはエロゲーを買いに行って跳ね飛ばされたこと。
全然現状が理解できず、目をゴシゴシしても景色に変化はない。
頬を軽くつねるが痛いだけだ。
(ほ、本当にどこだ、ここは?)
再度周囲を見回す。
薄暗い二十メートル四方の部屋の中に一人立つ幼女。
壁に配置された赤い光を放つ光源が怪しげな雰囲気を演出する。
マジで夢なら早く覚めて欲しいんだけど。
「困惑しておるようだな、くく……まぁ無理もない。我は魔王シェラルクール」
挙動不審にキョロキョロ見ていると幼女が口を開いた。
とても偉そうだ。
「汝は我により異世界から召喚されたのだ」
「し、召喚?」
「そうだ、汝にはこれから我を助けるために粉骨砕身の精神で働いてもらうぞ。偉大なる魔王の側近として病める時も健やかなる時もなっ!」
よくわからんが、それ結婚式の時使うフレーズでは?
そんな突っ込みをする間もなく、幼女は怒涛の勢いでしゃべり続ける。
「喜ぶがいい、汝は光栄にも我に選ばれたのだっ! この幸運を噛み締めるがよい」
「……」
「ふふ……どうした? さっきから黙りおって、我を前にうまく言葉がでないか?」
そりゃ、うまい返しなんて無理だよ。
いきなり言われても普通は混乱するに決まっている。
ちょっと待ってください。
できれば一分ぐらい。
「なんだ? 怯えているのか? 我が纏う覇気に恐れおののいておるのか? くく、心配するでない。我は寛大である。歯向かうものには容赦ないが、味方には慈悲と深き愛を持って接するつもりぞ」
尊大な態度の幼女がゆっくりと近づいてくる。
だが……。
「ふぇ? ……へぶぁっ!」
「……あ」
小さな足がマントを踏んづけてしまった。
顔面から転倒してしまう幼女。
「い、痛い、痛いぃ……」
(う、うわぁ……)
身の丈に合わないダボダボのマントを着ているからこうなるんだよ。
と、口を開きかけたが、鼻血も出てるし、泣いている幼女相手に追撃は可哀そうなので黙っておく。
「もう、やだ……せっかく復活したのにぃ、さっきから何故我がこんな目にぃ」
「…………」
「でも泣かないっ、泣かんぞおおぉ! 我は魔王なのだからああっ!」
涙声の自称魔王様。
よくわからんが、今に至るまでに色々とあったらしい。
てかこの子、よく見ると格好ボロボロじゃない?
顔が汚れているし、なんか涙の跡みたいなのも……。
大変そうなのが伝わってくる。
「ほれ」
とりあえず手を貸して立ち上がるのを手伝う。
見ているのもなんだしな。
「ふぇ? ……あ、ありがど」
「いや……」
手を貸すと顔を赤くし、照れ臭そうに礼を言う幼女。
一先ず彼女が落ち着くのを待つ。
「ご、ごほんっ! 見苦しいところを見せたな」
「それより鼻血、大丈夫か?」
「ああ、血は止まった」
再び立ち上がる幼女。
今度は裾を踏まないように注意しながら……。
「え~ごほん、ごほん」
空気を変えようと、誤魔化すように小さく咳をする。
細い腰に手を当てて威厳を出そう頑張っているが、今更取り繕ってもな。
かえって微笑ましく思える。
まぁ幼女がドタバタしたおかげというか、なんというか。
ちょっとだけ気持ちを落ち着かせることができた。
とにかく、もしこの状況が夢でないのなら、情報収集だ。
俺はメンタル不安定な幼女に優しく語りかける。
「え~と、魔王様? でいいのかな?」
「うむ、そうだ」
「まず確認、そっちの話した言葉が真実であれば、ここは俺が住んでいた場所ではない、異世界ということでいいのかな?」
「信じられぬか?」
「まぁ……な」
突然の事態、荒唐無稽な話すぎる。
何か、地球ではないという証拠が欲しいところ。
「それに、世界が違うのに言葉も通じているぞ」
「召喚対象が空間超えの際に言語を理解できるように、召喚魔法陣を組んだからな」
まったくわからん。
だが、このままでは話も進まないので続ける。
聞くだけ聞いて後で考えよう。
「なんで俺を選んだんだ?」
「最も波長があったからだろう。我を一番助けてくれそうな魂を求め願い、召喚したらお主が来た」
「助けてくれそうな……魂?」
「ああ、質量を持つ肉体を外から呼ぶのは今の我では不可能だからな。だが魂だけの存在になっていた汝なら呼び寄せることができる、心当たりはないか?」
「……」
車に跳ねられ、俺の肉体は確かに死んだ。
だけど、魂だけはその場に残っていたということか。
んでこの幼女が、その魂をこの世界に呼び寄せたと。
「あれ……でも俺、今肉体あるぞ」
「魂を呼んだあとに、向こうの世界の肉体と同じ容姿に再構築させたのだ」
まだよくわからないが、凄いことしてそうなのは理解できた。
「ま……直接見れば異世界のことを信じられるだろう」
再びバサリとマントを翻す魔王様。
後ろを付いて来いと言われたので、素直に従うことにする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます