第26話 修了試験
クオン殿と言葉を交わした後、私は先ほどまでクオン殿が騎乗していた
私の専属飛竜であるサリアと異なり、私は自分専用の
だが、目の前の
この
「今日もよろしく頼む。クライス。」
目の前の
クライスとは、古代エルフ語で“輝く水”を意味する。
その白銀の体毛は、湖から飛び跳ねた水滴を浴びて輝いており、まさに名は
クライスは無言で、私に体の側面を向けてきた。
そのまま、
そして、修了試験の開始を待った。
私は、
私もクオン殿も、そのことがよく分かっているので、実質的な修了試験となる基本動作から始めることになった。
「――――――――」
私は、これまで落第し続けてきた原因に思いを
これまで、なぜ私は一向に合格できないのか分からなかったが、今日の試験では、私なりに答えを用意してきた。
私の落第の原因――それは、私の心の内に常に貼り付いている、焦りが原因だと。
私は、このまま人族によるエルフへの迫害が続くことで、もはや何をしようが滅びの運命を
私の予想では、このまま何も動かなかった場合、“その日”は遅くとも50年以内に必ずやって来る。
そのため、一日でも早く
しかし、よくよく考えてみると、そこにあるのはクオン殿に対する想いだけで、肝心の一角獣に対する想いというものが、含まれていなかったのではないだろうか。
飛竜と同じく、
自らの背中に乗せたエルフが、心ここにあらずで、別のことばかり考えていたら、誇りが大いに傷付くだろう。
私は、少し視野が狭くなっていたようだ。
「これまで、すまなかったな。クライス。」
私は、クライスに話しかける。
「私は、お前の
そのまま続ける。
「今日は、お前と試験を乗り越えることだけを考える。だから、どうか力を貸して欲しい。」
だが、クライスは私の言葉を受けて、まるでため息を付くかのように、鼻から息を吐いた。
それはまるで、『ようやく分かったか、
私は3回深呼吸をした後、クオン殿に目を向けた。
クオン殿は頷いて、声を発する。
「――それではこれより、リヒト=ローネル・アドランシェの修了試験を始めます。」
いよいよ、私の10回目の修了試験が始まった。
私は、
そして、次に
跳ね上げられた水滴が空中に舞い、キラキラと輝いた。
ここまでは、いつも通りだ。
次の
私は、心から焦りを完全に取り払うため、もう一度、ゆっくりと深呼吸をした。
これまで意識したことのなかったクライスの体温を、鞍を通して太ももに感じる。
私は、クライスの首筋にそっと手を当ててから、手綱を振るって、
「――――――――っ!!」
一気に速度が上がり、頬を切る風の音が大きくなる。
前世で乗ったことのあるモーターボートを遥かに上回る速度だ。
だが、いつもに比べて、体幹は安定している。
事実、こんな考えごとをしているくらいの余裕があるのだ。
飛竜に初めて騎乗した時にも思ったが、
我々エルフを守ってくれる、良き隣人なのだ。
「――――ありがとうな。クライス。」
私の言葉が聞こえているか分からないが、クライスは少しだけ速度を緩め、そのまま規定の時間に達するまで
「人馬一体の、素晴らしい騎乗でした。」
私がクライスと共に湖畔へと戻ると、クオン殿が声をかけてきた。
その顔は笑顔で、声にも嬉しさが表れている。
「――――っ!では!?」
私は思わず、結果を尋ねた。
すると――
「もちろん、合格です。この3年間、とてもよく頑張りましたね。」
「ありがとうございます。クオン殿のご指導のおかげです。」
私はクオン殿に深々と頭を下げた。
「――これで、私も安心してリヒトさまを信じることができます。」
「――――――では……?」
顔を上げると、そこにはクオン殿の優しい笑顔があった。
「私は、リヒトさまの提案を受け入れ、殺傷目的による風魔法の行使を禁止する戒律について、氏族長会議で廃止に賛成します。そして、
そう、はっきりと宣言してくれた。
「――――っ!あ、ありがとう、ございます……!」
私はこの3年間の努力が報われ、顔が熱くなるのを感じた。
これで、17氏族のうち、クオン殿を含めて10氏族を味方にすることができた。
もう少し、あともう少しだ。
あと少しで、私は我が種族の――エルフの未来を指導するだけの立場を得ることができる。
私は決して諦めない。
必ず築き上げるのだ。もう誰にも
私の――この手で。
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■あとがき
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