どすこい探偵の事件簿 一人相撲密室殺人事件

さわみずのあん

発見よーい

 七月。母校が甲子園地区予選を順調に勝ち進む中。

 特に誰からも応援されない部活動連合会のメンバー五人。

 水泳部の平。

 相撲部の関。

 柔道部の友枝。

 バレー部の羽田。

 陸上部の岡上。

 は、和気藹々ビーチで遊んでいた。

 地元は海開き前。プラスバレー部の羽田のプライベートビーチという閉じた海。

 誰彼はばかることのないバカンス。

 高校二年生ということもあり、遊びそびれのないよう、ひたすらたすひ。

 平日社会人は働いているのに、高校生は夏休み。

 ひたすら遊び遊び遊び。

 水泳部の平は平泳ぎのみで、他の四人はメドレーでの水泳対決。

 ビーチ相撲で関のまわしが取れてしまったり。

 ビーチ柔道で友枝の巴投げが炸裂したり。

 ビーチバレーで羽田の長身からのサーブを誰も取れなかったり。

 陸上部の岡上が持ってきた棒高跳びのポールを使っての、棒高跳び高飛び込み。

 ただし最後の遊びは体重制限で相撲部の関は出来なかったため。

 関は小兵力士でもないのに、八艘飛びで飛び込んだ。

 東の太陽が西に送り吊り落とし、夕暮れ。

 五人は泊まっている、バレー部羽田の別荘に戻っていった。

 夕飯に、相撲部の関と柔道部の友枝の作った、脂過多豚肩ロースちゃんこ鍋を食べ終わり。

 他三人が片付けを終えたところで。

 友枝が口を開いた。

「さて、腹ごしらえもしましたし、肝の方もこしらえますか?」

「嫌だよ。飯を食った後は寝るんだよ。相撲部の寝るの掟を破るわけにはいかねえ」

 と関は寝っ転がりながら言う。

「ぼぼぼ僕も嫌だよ。別に怖いわけじゃないよ。肝試し」

「でかい図体しといて、肝の方は小せえな」

 と岡上が羽田をからかう。

「行こうぜ。関。羽田。デザートは別腹。寂れた洋館」

 平は寝っ転がった関の脇の下に手を入れ、ぎゃくおくとしをかけようとする。

「はいはい。三人対二人。多数決だ。決まり手は。おら、行くぞ」

 友枝は、懐中電灯を手にした。


 別荘の裏手は切り立った崖になっており。

 さらにその上には、洋館が建っている。

 膝がガクガク震える怪談。

 何百もの固い石の階段を上り。

 五人は洋館に着いた。

 虎やライオンのレリーフで飾られた、扉を友枝が開く。

「交番は警察です」

「こんばんは軽率ですだろ」

 岡上がツッコミ、友枝についで中に入る。

「ほら入れよ羽田。呪いの避雷針。人柱」

「ののの呪いってそんな、馬鹿と煙みたいな」

「ああ、違う違う。木偶の坊。字が違う。呪いが好きなのは、他界と殺し」

 羽田の背中を平がとんっと押す。

「ああ、入っちゃった」

「可哀想な羽田。訃報死ぬ」

 羽田と平が入った後、

「不法侵入だな」

 最後に関が館に入った。


「なーんもねえ」

 五人が一通り館を見回った後、友枝が肩を落としながらつぶやいた。

「いやー、何も無くて、やかったやかった」

「良かっただろ」

 平のボケに関が短くツッコむ。

「よよよ良かったよ。本当に何もなくて。かかか帰ろうよ」

「まあそうだな。肝試しという俺らの用完了したし」

「友枝、そのボケは指導だな」

 羽田と友枝、岡上が帰ろうとする。

 すると、すうと、五人の間を。

 冷たい風が吹き抜ける。

「なーんかヤバくね」

「寒シング起きてるね」

「いや、この風は、」

 岡上、平、関、が。ぽつりポツリと言うと。

 ぽつぽつポツポツポツポツ。

 館の外の木々の葉に、雨粒がぶつかる音。

 そして。

「わわ、わっ」

 雷光雷鳴と羽田の叫び。

「やっぱり、降って来たか、湿った風だったからな」

「さすが、関。名探偵」

「やめろ。俺は探偵なんかじゃねえよ。平。どうするよ。外。どしゃ降りだろ。お前だけ、泳いで帰るか?」

「冗談。まあ行けるかとはならないでしょ」

「ふふふ。なら、泊まりだな」

 友枝が嬉しそうに言う。

「まあ、仕方ねえか」

「ややや、やだよ友枝、岡上」

 怯える羽田。

「ちっ、鬱陶しい。おい、廊下の窓から雨入り始めたぞ」

「OK上。岡上。二階に確か、五部屋あったろ、廊下の反対側の方。あそこなら、雨入ってこないだろ」

「ととと友枝君、それ本当に言ってる?だって、あそこ、外、断崖絶壁じゃないか」

「そりゃそうだろ羽田。海風ってのは、夜は、陸から海に向かって吹くんだ」

「んん。ああ、なるほど、関は頭が良いな」

「なんだ? 平。どういう意味」

「ああ、だからな友枝、二階の五部屋は、廊下側がドアで、反対側が窓。海風が陸から海に吹くということは、雨は陸側から降っていて、」

「長えよ、平。俺は先行くぜ」

「あああ、待ってよ岡上」

 岡上、羽田の二人は、先に二階に上がった。

「つまりは、二階の部屋の窓側は、海側。僕らが昼遊んでいたときに見ていた、切り立った崖の、」

「平、俺も先行くぞ」

「俺も、飯食った後は寝なきゃならねえし」

「崖の高さは、目測で十メートルは、って。ちょっと待ってよー」

 友枝、関の後を追うよう、平も二階に上がった。

 二階では、岡上と羽田が揉めていた。

「いいい、一緒に寝ようよ、岡上くーん」

「やだよ、気持ち悪い。せっかく五部屋あるんだから、一人一部屋でいいだろうよ。おっ、友枝、関に平。んじゃあ、俺寝るから、帰るとき起こしてくれよ。俺、朝起きられねえから。もし、返事なけりゃ、ドア蹴破って、チッ、鬱陶しいぞ羽田。はいってくんじゃっ、ねえっ。おやすみっ」

 と岡上は扉を閉め、そして、鍵も閉めてしまった。

 羽田は、扉をがちゃがちゃと開けようとするも、

「おいおい、羽田寝かせてやれよ」

「ととと友枝君、だって、怖いよう」

「だから、良いんだろうが、ほら寝ろ寝ろ」

 友枝は、羽田を。岡上の隣の部屋に押し込む。

 羽田を押し込んだ後、友枝は、その隣の部屋の扉を開けて、

「んじゃ、おやすみ。はあ、さすがに俺も少し眠くなってきた。んじゃ、朝、何時にする起きんの」

「今何時か分かるか? 平。」

「さあな? 関。俺も誰もスマホ持って来てねえからな。うう寒。着替えてくるんだったな。ちょっとぶらりっていう感覚だったのに」

 関と平が言う。

 すると友枝が、

「ああ、今一時ちょい前だな」

「なんだ、友枝時間分かんのか?」

「ふふふ、関君。なんと、この懐中電灯は、時計付きなのだ」

「別にそんな自慢するような機能かよ」

「まあま、いいじゃん。関。アラームも付いてんのそれ?」

「スヌーズも付いてる」

「えばんな。そんなんで。じゃあ、五時くらいでいんじゃね。日も出てんだろ」

「んじゃあ五時な。しかし、部屋。なんもねえな。せめて、窓ガラスだけでもあれば」

 格子だけ残った窓を見て、友枝が愚痴る。

「まあ、仕方ねえ。草木も眠る格子見つ時。あっ、そうだ、二人とも、ちゃんとヘソ隠して寝ろよ。雷さまに取られちゃうぞ」

 ぞのとき。また、雷光雷鳴。

「おお、怖こわ。そんじゃ、おやすみ」

 友枝は、左手でおヘソを隠して、右手でドアを閉めた。

「んじゃ、関、俺も寝るわ。お前、一番奥の部屋で良い?」

「ああ、どこでも、いいだろ。んじゃ、おやすみ」

 関は、一番奥の部屋に入っていった。

「おやすみ」

 最後に平が部屋に入った。




 翌朝五時。

 友枝の部屋から、爆音アラーム音が鳴る。

 隣の部屋の羽田が目を覚まし、友枝の部屋の扉をノックする。

 岡上、関の二人が自分の部屋を出てきて、友枝の部屋の前に集まる。

「うるせえな、羽田」

「ぼぼ僕じゃないよ。友枝君の」

「あいつ、アラームセットするって言っていたけど、こんなにうるせえとは」

「さささっきから、ノックしてるのに、出てこないんだよ」

「まさか。おい、関」

「まじか。ちょっと待て」

 関が扉から後ろに退がり、立ち合い前の仕切りの姿勢をとる。

「いや、関。普通に鍵開いてるから」

 岡上が普通に扉を開いた。

「……発見用意はっけよーいをしただけだ」

「はいはい。じゃあお前は、のこったのこった。それじゃ、俺の押し出しで、羽田。先入れ」

「ちょっ、ちょっと、押さないでよ。うわっ。うわああああ」

 部屋の中で、友枝が、まばゆい光に。包まれていた。

「まぶっ眩しいっ。天使かっ? お迎えか?」

 羽田が目を覆う。

 友枝が光の中から答え、

「悪い悪い。この目覚ましさ、爆音と強い光で起こすタイプのやつでさ。ちょっと、止まらなくなっちゃって。岡上。どうにかしてくれ」

 友枝が、大音量と閃光発する非致死性兵器を。

 岡上にパス。

「うわっ。こっち投げんなよ。うおっ、眩しっ。なにやってんだ友。電池抜きゃ良いだろ。うっ。うるっせえ。眩しっ。くそっ。おい、電池どこあんだよ。見えねえよ」

「いやあ、それ、プラスドライバーで開けるタイプだから」

「くそがっ。関。ぶちかませ」

 岡上は閃光手榴弾を投げ上げる。

 仕切りの姿勢を取っていた関が、頭から突っ込む。

 フラッシュバンに。

 ぶちかまし。

 関と壁に挟まれた懐中電灯は、粉々になった。

「おお、さすが関、親譲りの鉄砲」

「坊ちゃんです。じゃねえよ。友枝。頭痛え」

「さすが、名探偵の頭の使い方は違うな」

「岡上。てめえ。鯖折るぞ」

 三人が笑う中。一人羽田だけが、不安な表情をしていた。

「ねねねえ……。おかしくない? こここんなに、騒いでいるのに、平君。起きてこないんだけど」

「そういや。そうだな」

 岡上がつぶやく。

 四人は顔を見合わせ、平の部屋の前に。

 岡上が扉をノックし、

「平あ。開けんぞ。あれ、鍵かかってら。おい関」

 ドアノブをガチャガチャ捻りながら、関に頼む。

「その手はもう食わねえよ」

「いや、そうじゃねえ。本当に、おい友枝」

 岡上から、ドアノブを指でさされた友枝が。

 数回、ノブを捻り、くるっと回って一本背負の格好をし、

「あん。ああ、本当だ閉まってる。おおい平あ」

「どどどどうしよう。本当に、」

 あたふたとする羽田は、すがるように関を見る。

「本当だな? 仕方ねえな。あたらぬもはっけ。あたるもはっけ。よーい」

 グッと体を沈め。

 右手を地面に。

 左手を地面に。

 着くやいなや。

 稲妻のごと。

 下からのかち上げ。

 張り手張り手張り手。


 関が扉を破ると。

 平が部屋の真ん中に倒れていた。

 首には絞められた跡があり。

 そして、脈がなかった。



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