第3話 そのとき、女勇者たちは

さっき仕上がりましたので本日2回目の更新です







◆他の勇者たちが復讐に燃えていたころ。


アレクの前には、膨大な書類の山があった。

そのタイトルは――


《各国による勇者への不当行為まとめ(初級編)》その厚さ、30センチ。


初級編でこの厚さである。

中級・上級編は存在を想像しただけで胃が死ぬ。


アレクは深呼吸し、女勇者三人と他の勇者たちに向けて話し始めた。


「では――各国のお前らへの仕打ち…の一部を公開する」

アレクの声に勇者たちの背筋が伸びる。


 ✴︎サザーラ帝国の例


「魔王討伐後、勇者は維持費が高いので回収不能物扱いとして砂漠に放置。そのまま帰還魔法も没収」


「え、私これ……!!砂嵐に埋まりかけたんですよ!? 死ぬかと思いました!!」

炎の勇者エルナは身震いする。


「帝国の言い訳は、砂漠は自然が豊かだから問題ないだそうだ」


その他勇者

「自然が豊かじゃねぇわ!過酷すぎるわ!!」




 ✴︎アクアル王国の例


「風勇者シルフィを飛行税の滞納者として逮捕。理由が、『空を飛ばれると王国の景観を損ねる』だそうだ」


「わたし空中散歩してただけなのに……」


「なお、シルフィの逮捕時の国王の発言は…勇者は空気を読めば税金は払わずに済んだだろう、だとさ」


その他勇者

「空気読めってなんだよ!!風勇者だからって!!」




 ✴︎ノスティア神聖教国の例


「闇勇者ルナの闇を『闇の倉庫に保管するには神聖加工が必要なので維持費が高い』と言い、即追放」


「……倉庫扱い。私、倉庫……?」


「さらに神聖教国側はこうも言っている。闇の管理費と神聖加工費用を支払えば戻って来て良い、とな」


その他勇者

「戻す気ゼロの癖に金は取る気満々か!!」




勇者たちは怒りで震え、中には涙ぐむ者までいた…突っ込んでるだけじゃないよ?



◆女勇者三人、修行の成果を披露する


「王さまっ!」

炎の勇者エルナが勢いよく手を挙げる。


「わたしたち……少しでも恩返ししたいんです!だから! 王城の仕事、手伝わせてください!」


風の勇者シルフィも両手を上げる。

「我々、今まで働かされたことないですけど!

心だけはやる気満々です!」


闇の勇者ルナは胸元で祈るように言った。

「……役に立ちたい……」


アレクは苦虫を噛み潰したような顔をした。

(嫌な予感しかしないけど断れない……)


アレクは諦めた。

「よし。じゃあ簡単な手伝いからだ」


◆勇者たちの簡単な手伝いが簡単ではなかった件


炎勇者エルナ → 王城厨房の手伝い

料理長が指示を出す。

「じゃあ、玉ねぎを炒めてくれ。弱火でな」

エルナは声を張った。

「任せてください! 炎の勇者の力……見せます!」


次の瞬間。


ゴォォォォォッ!!!


全食材、瞬時に炭化。


料理長のコック帽が少し焦げた。

「弱火って……知ってる……?」


エルナはしょんぼりと肩を落とす。

「火は……全部仲間なので……区別が……」


アレクは影から見ていた。

「火属性って、便利なんだか不便なんだか……」




 風勇者シルフィ → 書類運び

ラグナは大量の資料のうち、ひと束を手に取る。

「この資料、執務室に――」

シルフィは指示の言葉を遮る。

「風の力で一瞬です!」


スパァァァァァァ!!


烈風が吹いた。

書類は舞った。

全方位に。

渦高く。

千切れながら…。


その瞬間、城内に紙吹雪が発生。


ラグナ

「ぎゃああああ!!一年分の帳簿が天に舞い上がったぁぁぁ!!」


シルフィはアワアワしている。

「ご、ごめんなさいぃ!!風が……喜んじゃって……」


アレクは執務室の窓から見ていた。

「ある意味、パレードだな」




 闇勇者ルナ → 倉庫の掃除

倉庫番が指示を出す。

「この棚を整理して――」

ルナは当然のように言葉を切った。

「……闇よ……整理を……」


倉庫が黒い霧に包まれる。


その瞬間、消えた。


棚も。

物資も。

倉庫番の希望も。


倉庫番は理解出来なかった。

「な、何処へ……?」


ルナはモジモジしている。

「……わからない……闇が片付けたので……」


アレクが駆けつけた時には遅かった。

「片付けるって、消す意味じゃないからぁぁぁあ!!」




◆結果まとめ


厨房:全滅(消し炭)

執務室:雪景色(紙クズで)

倉庫:虚無(何も無い)


アレクは頭を抱えた。

「………………」


エルナは土下座している。

「ご……ごめんなさい……」


シルフィも土下座している。

「ごめんなさいぃ!!!」


ルナは、隅っこで存在感を消している。

「……しゅん……」


アレクは深く息を吸った。


そして――笑った。


「いいよ。初日だし、人間なんだから失敗して当然だ」


勇者たちは目を見開いた。


エルナはアレクを見上げた。

「……道具扱いじゃない……?」


シルフィは逃げる態勢から振り向いた。

「怒られなかった……?」


ルナは顔を赤らめた。

「……優しい……」


アレクは腕組んで鼻を鳴らす。

「その代わり、今度は普通の方法でやろうな」


勇者三名

「はいっ!!」


こうして、

他国にブチ切れた王と、やる気はあるが壊滅的に不器用な勇者三人による王国の日常は、今日も大いに(物理的に)動いていた。


王城内は荒れたままだ。


「……これは、国王の住む場所ではないよな?」


アレク=ブレイブは、半ば現実逃避気味に呟いた。


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