限界オタクちゃんは推しに認知されたくない。〜私が壁になる、お前たち遠慮なくイチャつけ!!という気持ちでいたのに何故か推しが仲間になりたそうにこちらを見つめている〜

蒼星白炎

プロローグ ドキ☆運命の曲がり角!

 とある世界に存在する、『永久の大陸アルブ』。

 その片隅に位置する名門学園都市『ルカナ』。学ぶ意志持つ者全てに門扉を開く学び舎であり、学園を中心にして経済を回すひとつの街である。種族年齢関係なく、古今東西の人々が集うこの街は、今年も新入生を迎え入れていた。



「キター!!鼻の、じゃなくて華の学園生活!!今年からルカナで寮生活だ〜たーのしみぃ!」


 薄紅色の花弁が舞い散る季節。

 私───サクラ・ヴァニーラは兎人族の女子である。この日をどれほど心待ちにしたことか!

 天にも跳躍する気持ちでルンルンと通学路、もとい学園へと至る街路を歩いていた。

 お家に残してきた兄弟姉妹、お父さんお母さん。そしておじいちゃんおばあちゃん天国のひいじいちゃんひいばあちゃんその他たくさんの御先祖様たち。

 サクラは今日から高校生です!学園都市での生活、頑張りたいと思います!


「おはよー新入生かい?入学式頑張ってな!」

「おっ!?おはようございます!あ、ありがとうございます……!」

「緊張しないで行っておいでねぇ、ルカナの子達は皆優しいからね」

「っ、はい!ありがとうございます!」


 お店を出す準備をしているおじさんやお散歩しているおばあさんに声をかけてもらい、びっくりして声が裏返りそうになった。

 いい人たちだぁ……。この都市大きいから、最初はビビってたんだけど。怖い人たちの街だったらどうしようと。

 ルンルンである反面、同じくらい内心不安もあるんだ。おばあさんが言うように、素敵な先輩方に出会えるといいな。

 あと、友達もできたらいいな。小さい頃はあまり目立たず静かな子だったから、友達は少なかったもので。かわりに、テレビの中のキラキラしたアイドルとか、アニメのヒーローヒロインたちに憧れ、支えられていた。

 帰ったら推しグッズ部屋に並べよ。私の城を作るんじゃい!!

 あ、相部屋だったら自重しよう。ぬいと抱き枕位で。


「さってとぉー!にゅっうがっくしーき♪にゅっうがっくしーき♪たーのしーみだーぞっ!るんるn」

「前見て歩けバカ兎」

「ぐほあーっ!!!?!?!?」


 気分最高でぴょんぴょん飛び跳ねていたら、前方の曲がり角から何かが飛び出し衝突した。

 訂正。正確には私のスピードが早すぎて、私が突っ込んだのだ。さながら自転車(私)と歩行者(相手)だ。

 ドンッ、とぶつかった反動で尻もちをつく。イテテ……と尻をさすりながら相手を見ると、幸い相手は倒れて居なかった。顔は見えない。


「す、すみません浮かれて前方不注意で……。」

「そうみたいだねー。俺が年寄りじゃなくて良かったねー?」

「ハイホントにおっしゃる通りです……。土下座をかまさせて頂きたく……。」

「いやいいよやめてくれ。ほら」


 土下座をする1秒前の姿勢で固まる私の前に、スッ、と男の人の手が差し出される。


「いつまで蹲られると、俺がなんかしたみたいだろ。立てる?」

「あ、ハイすみま」


 せん。その2文字が音になることは無かった。

 なぜなら、見上げた先に居た人物があまりにも。


「何固まってんの」


 そう、あまりにも『刺さり』すぎた故。

 ルカナの学生であることを示す制服に、寝癖っぽい、赤茶と毛先が黄土色の髪。頭に生えている耳はふさふさとしており、今は若干斜め後ろに倒れている。いわゆるイカ耳状態。可愛良かわよ

 髪とおなじ色の瞳は、光を閉じ込めたガーネットのよう。今はジト目になってる。とてもハオ

 そして彼の腰から伸びたふわふわとした赤茶色の尻尾は、不満げに膨らみ左右に揺れている。

 見惚れていたら、ぐいっと右手首を引かれ、強制的に立ち上がらせられた。


「ったく……。なんか俺の顔についてるわけ?新入生なんだろ、早く行かないと入学式遅れるぞ」

「お……」

「あ?」

「推し〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!」


 その日、ルカナのとある街角の一角で、窓ガラスにヒビが入ったらしい。

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