第9話

 そうして、都築と会う日がやってきた。芽依は時間をかけてメイクをして、お気に入りの洋服を選んだ。芽依は外出するときいつも、精一杯自分が可愛く見えるように意識しているが、その日はより一層こだわった。しかし、それが初対面の男のためだということを思い直すと、芽依は途端に虚しい気持ちになった。

 母親には服を買いに行くと嘘をついた。久々に外に出てみる気になったから夕飯もいらないと伝えたら、嬉しそうに送り出してくれた母に胸が痛んだ。

 家を出てバスに乗る。都築に会ってどんなふうに振る舞えばいいのか、そもそも向こうが来てくれるのか、来たところで危ない場所に連れ去られたりはしないか、不安な気持ちと共にバスに揺られていると、すぐに目的の停留所についた。

 バスを降りたタイミングで、都築からメッセージが届いた。もうすでに到着した旨と、服装を伝えるメッセージだった。小走りで目的地に向かうと、メッセージにあった通りの服装の男性がいた。あの人だ、と思った。プロフィールで感じた清潔感は本人からも感じ取れて、顔もどこにでもいそうな普通のサラリーマンといった感じだった。芽依はおずおずと彼に話しかけた。

「あの……都築さん、ですか?」

「あ、そうです。りかちゃん、だよね」

 都築は芽依がアプリ内で使っている名前を口にした。物腰の柔らかそうな男だった。芽依はひとまず都築と落ち合えたことに安堵して、

「はい、よろしくお願いします」

と言った。

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