みにくいのこわい
小笠原涼乃
第1話
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。また、整形を推奨するような意図はありません。
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可愛いものを素直に可愛いと思えなくなったのは、いつからだっただろうか。
芽依は憂鬱な気持ちで携帯の画面を眺めていた。この時間が何も生み出さないことを彼女はわかっている。しかし、その意思に反して、彼女の指は画面をスクロールすることをやめられなかった。
『この通りにしてから人生変わりはじめた』
そんな言葉と共にSNSに投稿されているのは、1日の過ごし方を円形に表した画像だった。その画像によると、23時から6時は睡眠のゴールデンタイムだった。メラトニンという成長ホルモンが最も多く分泌され、心身に質の良い睡眠を促してくれるらしい。画面の端の時刻表示に目を向けると、時刻は午前一時四十分だった。睡眠のゴールデンタイムとやらが本当にあるとすれば、芽依のそれは着々と削られていっていることになる。
芽依は口元に自らへの嘲笑を滲ませて、画面をスクロールする作業へと戻った。次にその指が止まったのは、若い女の目元をアップにした写真の上でだった。十数秒の間、真剣な表情で写真を見つめると、写真フォルダに移動して、彼女自身の目元が写った写真と見比べる。その動作を何度か繰り返すと、芽依はごろりと寝返りを打って大きくため息をついた。
芽依のゴールデンタイムを奪う犯人がいるとすれば、それは紛れもなく、彼女が自身の顔面に抱くコンプレックスだった。SNSにアップされた美容整形の症例や、インフルエンサーの自撮り写真。そんな画像を見て自分と違うところを分析しては、埋められない差に心を蝕まれて、気づいたら眠りについている。ここ数ヶ月、芽依の夜は全く同じように更けていった。
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