第四章:第1話
とある六月の頭の休日。
秀、涼介、鈴の三人の姿はテーマパークにあった。
そのテーマパークの名はキャッピーランド。秀たちの住む県の隣に位置しており、日本有数の絶叫系遊園地として全国的に有名である。
そんな場所になぜ涼介と鈴はともかく、遊びに興味のない秀がいるのか。
この事情を説明するには一週間前に遡る必要がある。
一週間前。
予算という大仕事を終えて、のんびりと生徒会室でご飯を食べていた三人。
しばらくは仕事がないそうで、たわいのない会話を広げていた。
「そういえば、来月のレポートの案を決めたか?」
「来月か。」
入ったばかりの頃は、レポートを書くことに拒否感があった涼介だが、それほどテーマをこだわらなくても顧問である曽谷は許容してくれることが分かり、今ではすっかりレポートを書くことが定例化していた。
「決まってないならさ、鈴と話していたんだが。」
涼介が秀に提案してくる。
隣で鈴もニコニコと秀の顔を見ている。
「良ければ恐怖に関するレポートを書いてみないか?」
「恐怖?」
「そうだ。」
恐怖―それは秀にとって最も理解しがたい感情の一つだ。
非科学的な存在を信じることのない秀からすれば『幽霊が出るかも』とか言って暗い所を怖がることはない。
命の危機を感じる恐怖、つまり事故やヒヤリハットといった事象も、そのようにならないための最大限の行動をとっているため、少なくとも秀はこれまでの人生で感じたことはないのだ。
「日本のジェットコースターで五本指に入るやつがキャッピーランドにあるんだ。
乗ってみれば秀も恐怖と言うものを体験できるかもしれないぞ?」
「確かにそれは興味深いな。」
なぜか涼介と鈴はにやにやしているが、秀はそれをいったん無視して、提案の内容について考える。
(恐怖という感情を理解することができれば、これまでに理解できなかった心理学関係の本を理解できるようになるかもしれない。)
そう結論を出し、
「分かった。その、キャッピーランドとやらに行ってみよう。」
「「やった!」」
二人はハイタッチをして喜んでいる。
よほど秀と行けることがうれしいようだ。何か邪念が混じった笑顔な気もするが。
その様子を、生徒会のパソコンを開けて、その画面を見ながらご飯を食べていた笠原が見て、
「おっ。だったら俺が持ってるこのクーポンをやろう。」
と言って、ポケットに入っていた財布から三枚の紙を涼介に渡した。
「どれどれ、って『週末割引:半額券』!?なんでこんなものを会長が?」
「実は、うちの親がそこの運営会社の株主でな。
それでこのクーポンをもらって、今週末に彼女と行こうと思っていたんだがな。」
「ちょっと待ってください。会長、彼女いたんですか?」
鈴が笠原が何気なく言った言葉に反応する。
すると、鷹揚にうなずき、
「ああ。世界一かわいい僕の彼女だよ。写真を見るかい?」
「「「いや、結構です。」」」
おそらく写真を見せられたらのろけと言う名の自慢が始まり昼休みが終わってしまう。
そう考えた三人は息ぴったりに笠原の提案を拒否した。
「ふむ。残念だ。まあ、近いうちに紹介することがあるだろう。」
とつぶやき、
「それで、そのクーポンの期限が今週末までなんだ。
残念ながら僕は予定が入ってしまっていけないから君らで使ってくれ。」
話題をもとに戻した。
三人は顔を見合わせ、うなずいて、
「そういうことならありがたくいただきます。」
笠原はその白い歯を見せて笑顔で、
「そうか、しっかり恐怖について学んで来いよ。」
そして、涼介に近づいて、耳元で、
「それから、秀の写真、しっかり写真撮ってくれよ。」
どうやら、笠原は涼介と鈴の真の目的である、秀のビビった顔が見たいということを理解しているようだ。
まだ付き合いが浅いのによくわかったものだ。
というわけで、彼らは遊園地に来ているのである。
朝早くにシャトルバスに乗り込み、ほぼ開園と同時に到着した三人のうち二人は、そこに広がる景色を見て早くも心が折れかかっていた。
キャッピーランドで特に有名なのは、日本一の高さを誇るジェットコースターである『キャッピー153』と、そのバランスの取れた速度・落差・コースの組み合わせで人気の高い『ホワイトウェール』の二つ。
シャトルバスから降りた時点で、そびえたつ『キャッピー153』の姿を見て、そしてそこから聞こえてくる叫び声を聞き、涼介と鈴の顔はもうすでにこわばってしまっていたのだ。
この二人、秀に恐怖を教えたいということで意見が合致してキャッピーランドに行くことを決めた者の、恐怖体制は高くない。
というかむしろ低い。
そのため、二人の内心は、『俺、もう帰りたい。秀の仏頂面を少しでも崩せればいいと思ってたけど、俺が漏らしそう。』『私、ここまで来ちゃったけどどうしよう。本当は怖いから乗りたくないなんて...』という感じである。
しかし、まさかそんなことを口には出せないので、足をがくがく震わせながら、
「た、楽しみだなぁ。あ、あの、『キャッピー153』に乗るのが。」
「ほ、ほんと。私も、ずっと楽しみにしてたんだよねぇ。」
と強がるしかなかった。
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