第二章:第1話

 季節は巡り、五月。

 美しい緑の木々が風に揺られ、ゆさゆさと耳に気持ちい音を立てるのを横目に見ながら秀、涼介、そして鈴の三人は手に弁当袋を持ち、渡り廊下を歩いていた。

 秀はあまり乗り気ではなかったが、仲良くなって以来、涼介と鈴により無理やり中庭まで連れらて一緒に昼食をとるようになっていたのだ。

「いやぁ、今回のテストも難しかったな。」

「そうだね。特に数学。あんな問題、解き方が分からないよ。」

 彼らは午前中まで定期テストを受けていた。

 今日は全四日の日程の最終日。

 重いプレッシャーから解き放たれた二人はすっきりした顔で、足取り軽く進む。

 秀はと言うと、普段と変わらない仏頂面。

「テストなんて普段やっていることからランダムに出るだけだ。あんなのは難しくもなんともない。」

 普通の、秀のことを知らない人が聞いたら(こいつやべぇな)と思うこと間違いなしのことを言う。

 が、ここにいるのは秀との関係が三年もある涼介。そして、最近急速に親密度が高くなった鈴。

 だから誰も気にしない...

「ええ!?何を言ってるの???」

 はずだったが、残念ながら鈴はまだ秀の異様な発言になれるほど慣れてはいなかったようだ。

 涼介はまたいつものか、という顔をしているが。

「今日の問題。大問1はまだ解けても大問2、3はかなり厳しくなかった?」

「あの問題はだな。

 ―大問2は示したい命題を変形していく。命題は1+1/xのx乗と1+1/xのx+2乗の間にネイピア数が存在すること。これを示すにはlogで置いて変形して微分する。微分するとx>0で単調増加が分かるから極限でおくと仮定を利用できる。この式をg'(x)とするとg(x)も単調増加が示される。これによって命題の証明が完了するというわけだ。大問3の小問1は帰納法で示すだけだからまだ簡単だが、小問2については仮定を利用しするためにちょっと強引に変形。aを場合分けしてF(t)を微分。その一部をG(t)と置いて微分。そしたら増減表を書いてG(t)について0より大きい時を調べる。F(x)についてに直して成立するaの範囲を確認。そうしたら答えが出る。」

 秀の数学の問題に関する説明を聞いたが、いまいち理解のできていなさそうな顔をする鈴。

「うん?わからなかったのか?」

「…」

 なんとも言えない表情で固まり、何も返さない鈴。涼介がその様子を横目で見ながら歩いていると、廊下の角に至った。

 その角には小さな鏡が置かれているが、非常に見通しが悪く出会い頭でぶつかるということが多々あった。


 ドーン


 そしてその例にもれなく今ここでも衝突事故が発生した。

 ぶつかったのは涼介と大柄な男子生徒。

 男子生徒は転んでしまい、ついでに頭をぶつけてしまったようで頭を押さえている。

「大丈夫ですか?」

 怪我をさせたかもと慌てて駆け寄る涼介。

「あぁ、大丈夫だ。すまないね、前を向いて歩いていなかったもので」

「いえいえ、こっちも不注意だったので…っていうかこの顔どこかで見たことがあるような。」

 鈴も男子生徒の顔を見てみると、その顔が誰かわかったらしい。

「あの、ひょっとして笠原かさはら生徒会長ですか?」

「いかにも。僕はこの八宮高校の生徒会長、笠原かさはらなぎだ。初めまして。」

 そう言われて、涼介が改めてその顔をみると、確かに入学式で挨拶をしていたような気がする。

 明るい茶の髪色だが、ちゃらく見えない。真面目そうな雰囲気が全身から溢れ出ているからだろうか。

「そこにいる黒髪の子は新入生代表の中川くんだね。」

「そうですが。」

 名前を呼ばれて、あまり関わりたくはなかったが仕方なく返事をする秀。

 そんな秀に光り輝く笑顔で続ける笠原。

 その笑顔は大抵の人との壁を取り除くような表情なのだが、秀の顔はほぐれるどころか余計に訝しむような表情になった。

「ちょうど会えてよかったよ。ちょっと君の頭を借りたくてね。いや〜偶然会えてよかったよかった。」

 その発言を聞き、秀は静かに告げる。

じゃないですよね?」

「うん?」

「狙ってましたよね、この出会い方を。」

 笠原の顔が固まる。

 涼介と鈴はよく状況が呑み込めておらず、頭の上に『?』が並んでいる。

「この廊下、そこに鏡がありますよね。誰も見ませんが。」

「そうだね。」

「大方俺が中庭で昼食をとるという情報を聞きつけて、ここで待ち伏せしていたのでしょう?

 できるだけ偶然を装ってエンカウントできるように。」

 そう断言すると、笠原は大声で笑った。

「はっはっは...その通りだよ。さすがの推理力だ。

 君の言う通り、最初から君に相談事をするために待ち伏せをしていたというわけだ。それで今から僕の話を聞いてくれるかい?」

「いやと言ったら?」

 心底嫌そうな顔で秀が尋ねる。

「そしたら...」

「そしたら?」

 笠原がパチンと指を鳴らす。

 すると、廊下の角の奥から屈強な男子が三人出てきた。

 とても秀たちでは力で勝てそうにないほど立派な体つきをしている。

「強硬手段をとるしかないねぇ。」

 先ほどまでとは違う意味でいい笑みを浮かべてそう言った。

 笠原に加え、屈強な男子三人のガードは突破できそうにない。

 秀はため息を吐いて、仕方なさそうに言った。

「はぁ。わかりました。五分だけなら。」

「十分だ。」

 笠原の要求に秀は眉をぴくぴくさせながら答える。

「いいでしょう。勿論それだけの価値がある話なんですよね?」

「ああ。それじゃあ生徒会室に行こうか。」

 笠原に呼ばれたのは秀だけなので、

「私たちはどうしようか。」

「仕方ないから俺たちは俺たちだけでご飯を食べるか。」

 と二人が話していると、

「君らも来てくれてかまわないよ。優秀な頭脳の持ち主は何人いてくれてもいいからね。」


 笠原についていき、生徒会室に到着した秀たち一行。

 そこにあった椅子に座り、弁当を食べながら話を聞くことになった。

「さて、今回君に頼みたいのは暗号の解読だ。」

「暗号?」

 屈強な男子生徒らが冷蔵庫から出してくれたオレンジジュースを飲みながら尋ねる。笠原と違って心が綺麗に違いないと秀は思った。

「そうだ。」

 そう言ってたくさんある引き出しのうち、一つを迷いなく開けて何かがプリントされたA4の紙を三枚取り出して秀たちに渡した。

 その紙には黒い丸が、三つ角を除いた正方形状にプリントされていた。


    .........................

    .........................

.......................................

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    .............

    .............


(上図はあくまでイメージです。どんな感じで黒点があるのかなぁくらいでお願いしますby筆者)


「これが君らに解いてもらいたい暗号だよ。」

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