存在しないものが存在しないことを証明せよ「えっ?それって無理じゃないですか??」
@Seirya
第一章:第1話
季節は春。
暖かい陽光が大地を照らし、数々の生物が活動を始める季節。
人間も例外でなく、新しい年度が始まり学校では入学式があったり、クラス替えがあったりで、新しい人脈が生まれる季節である。
そんなある日。県立八宮高校にて。
一年二組の窓際に座る少年、
すでに入学からおよそ二週間がたっており、クラスの人間関係が固まってきたころであるが、秀は全くクラスに溶け込めていなかった。
そもそも溶け込もうとしていないのだ。
一週間前の事である。
「ねえ、中川君。今からクラスのみんなでカラオケに行くんだけど、一緒に行かない?」
これから一年間、仲良くしようという意味で開かれたカラオケという集まりに、クラスのほぼ全員が行こうとしていた。
もちろん秀も誘えば来るだろうと、この女子は思い笑顔で声を掛けた。
しかし、それは大きな間違いであった。
「え?なんでカラオケなんて行くの?」
この空気を読めない(正確には読もうとしていない)発言によりクラスの雰囲気は、それまで和やかだったが、一転、南極のような凍える空気になったのは言うまでもない。
「カラオケ行くぐらいなら勉強した方がいいと思うんだけど。そう思うのは俺だけ?」
さらなる爆弾投下で教室の温度は絶対零度を突破した。
受験を終えたばかりの彼らはしばらく勉強から逃げたいと思っていたのに、冷や水を掛けられたような格好だ。そんな奴にいい感情を持つはずがない。
結果、秀はクラスの全員を敵に回し、誰からも話しかけられることはなくなった。
ただ、秀は(友達なんていらない)と強がりでも何でもなく、本心からそう思っているので、特に気にしていなかった。
むしろ、好都合とすら思っていたのである。
こんな秀だが、県立八宮高校にトップで合格しており、新入生代表も務めた。
これがどれほどすごいことかと言うと、八宮高校は毎年、T大学やK大学、他にも医学部医学科への進学者を多数輩出しており、全国でも指折りの進学校。
当然、入試を受けるのも頭のよろしい人ばかり。
そんな中でトップをとる彼の頭脳の優秀さは言うまでもあるまい。
とはいえ、残念人間である彼は三度の飯より勉強が好きと言う、何というか、凡人からすれば頭がおかしい部類の人間であるため、遊ぶことの魅力が分からないのだ。
今日は授業がすべて終わり、残すは帰りのSTのみ。
授業が終わった開放感からか、クラスにいる多くの生徒は楽しそうに話している。
そんなクラスメイトとは対照的に、(帰ったら何をしようか)とひとり秀が考えていると、担任が教室に入ってきた。
さすがと言うべきか、皆聞き分けがよく、入ってきた瞬間に話すのをやめて各々席に戻って行った。
「やあやあ、遅れてすまんね。早速STを始めようか。」
一年五組の担任は特にこれと言った特徴のないおじさんだ。
四角いフレームの眼鏡に、薄くなった後頭部。
街へ行って360度見渡せば視界に一人や二人、いや、何十人も見つかるかもしれない。
「さて、連絡だが、来週の月曜日に部活動の登録を行う。
見学期間は今日までだから、興味があるところは今日中に行っておくこと。」
用件は以上と言わんばかりに、担任はこれだけ言って教室から出て行った。
担任がいなくなったら再びクラスはざわめき出す。
耳に入ってくるのは、今から遊びに行こうという話題であったり、週末の予定だったり。
皆、高校生という一生に一度だけの、青春を謳歌しようとしている。
(一体青春の何がいいんやら。)
そんなクラスの様子を横目に見ながら秀は荷物をさっさとまとめて出て行く。
すると、隣のクラスからちょうど同じタイミングで赤茶の髪の男子が出てきた。
顔が合うと、その男子はにやりとして秀に近づいていく。
秀も、どうやら知り合いのようで、近づいていき、声を掛ける。
「
涼介と呼ばれた男子はうなずき、
「ああ。ちょうどお前を迎えに行こうとしてたところだ。」
と言った。
その男子の名は藤井涼介といった。
整った顔立ちとさわやかな性格の持ち主で、女子からの人気が非常に高い。
今も、廊下を歩いているだけで熱い目線がいくつも彼に向けられている。
そんな涼介だが、これだけ注目を集めているのに実は秀以上に親しくしている友人はいない。
二人の関係は中学からだが、仲良くなったのは二年の途中。
涼介を、巻き込まれていたトラブルから秀が助け出したのがきっかけだった。
そのトラブルを解決する手際の良さや頭の回転等々、目を輝かせながら聞いていて恥ずかしくなるような賛辞を真正面から送られた記憶はいまだに新しい。
「それで、秀は部活決めたのか?」
「ああ。帰宅部だ。」
「おいおい、ちゃんと先生の話は聞いてなかったのかよ。」
下駄箱で靴を脱ぎ変えながら涼介が説明する。
なんとこの県立八宮高校には帰宅部がないそうな。
というのも、学校の方針が”記憶に残る三年間”を過ごさせることだそうで、少なくとも一年は部活に入らなくてはならないという。
(なんだその面倒なシステムは)
そう思うが、ここで文句を言っても仕方がないので口には出さないが、納得いかない思いを抱える秀であった。
「まあ、そんな秀君に朗報です!」
「なんだ?涼介の朗報は大体ろくでもないんだが。」
「失敬な。」
そんな軽いやり取りをしながら先を促す。
ちなみに、涼介の朗報は三個に一個は秀にとって凶報である。
これは涼介と秀の陽の度合いであったり価値観だったりが異なっているから仕方がないところもないわけではない。
「ふっふっふ。俺、先輩に聞いちゃったんだよ。」
駐輪場への道すがら、歩きながらリュックを開け、部活動の一覧が載っている冊子を取り出し、格好つけてある一ページを開ける。
「これだよ、これ。図書部!」
「はぁ。」
涼介の細い指で指した先には、ポップな字で『
図書部と言われると、読書を楽しんだりビブリオバトルなどのイメージがあるが、その図書部と帰宅部どうこうに何か関係があるのだろうか?
「実はだな、この学校の図書部、一番幽霊部員になりやすいんだってさ。」
「...ほう。」
幽霊部員になれれば確かにそれが一番である。
考えていなかった視点に感心しつつ、秀は涼介に先を促す。
「顧問の先生がかなり緩くて、部活に来なくても許されていたらしい。
今年から顧問が変わるらしいけど、よっぽど方針は変わんないでしょって話。」
「確かに...それは魅力的な話だ。」
「だろ?どうだ、ちゃんと朗報だっただろうが。」
「うむ。今回ばかりは認めざるを得ないようだな。」
素直に感心する秀の顔を見て、涼介は、はっはっはっは、と高笑いし、機嫌よさそうに別の話題を切り出した。
「ところで、秀は聞いたか?五組の美女の話。」
「五組の美女?」
そう尋ね返すと真面目な顔でうなずく。
「そうだ。なんと五組には絶世の美女がいるといううわさがあってな。
名前は
「クレオパトラは実際はそれほど顔がよくなかったんじゃないかっていう説もあるぞ。」
「細かいところはいいんだよ。それで、その山下さんとお前が噂になっていてな。秀の耳にも入ってるんじゃないかと思ったんだが。」
「全く知らないな。どんな風に噂になっていたんだ?」
涼介は”こほん”と咳ばらいをし、詩を口ずさむかのように言った。
「五組の山下さんは今世紀一と言っても過言ではない。それどころか小野小町やクレオパトラ、楊貴妃を超える美しさ、気品があり、何人もの男子が今日まで果敢に告白をしたがいまだその壁を乗り越えた者はおらず。
二組の中川くんは整った顔立ちに上品な振る舞い。何よりその非凡な頭脳。これほど神に愛された存在はいるだろうか?しかしながら何人もの人が彼とお近づきになろうとしたが氷のように冷たい対応しかとられない。あの氷を溶かす者が現れるか。
ってな。」
全く聞き覚えのない噂に言葉が出て来ない秀。
その固まったままの秀に、うらやましそうに涼介が続ける。
「いいよなぁ、何でも持っている男は。自分から行かなくても相手から近寄ってくれるんだから。」
「そんなことを言ったらお前だって顔立ちは整っているだろうが。」
そう返すと、涼介はため息を吐き、自転車に乗っていなかったらお手上げのポーズで首を振っていそうな調子で言った。
「秀は自分の顔がどれだけ端正なのかを理解していないんだよ。
美しい黒髪、透き通った瞳、キリリとした眉毛にかっこよく見える鋭い目つき。
それから体はざっと見ただけでも八頭身はあるだろう?それから...」
「もう大丈夫だ。」
ここらへんで止めなければ無限に続けそうだったので、流石にむず痒くなってきた秀は涼介を止める。
「まあ、とにかく、秀は注目される存在なんだ。その自覚は持っておいてくれよ、じゃないと昔の俺みたいに敵を作っちまうんだから。
まあ、秀は敵ができて攻撃してきても気にせず叩きのめしそうだがな。」
「叩きのめすだけじゃあ生ぬるいな。再起不能になるまで精神を削ってやる。」
「おっひょ。それはそれは、怖いな。」
「だろう。せいぜい俺を敵に回さないことだな。」
そう言って、秀が不敵な笑みを見せると、
「っは、ははは。俺が秀の敵になるなんて世界線があったら見てみたいものだ。」
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