31 レファリア帝国動乱⑩

 ――アリア達が皇帝の座する部屋の前で戦い始めて、1時間が経過した。アリア達は何とか、皇帝親衛隊を含む兵士達を倒していた。ケガをして、血を流していない者は、誰もいなかった。アリアも、満身創痍であり、剣で斬られたため、左腕からは血が流れていた。


(……皇帝の座する部屋から、音がしないな)


 アリアは目の前の皇帝親衛隊と思われる兵士を倒しながら、そう思った。皇帝親衛隊というだけあり、一般の兵士より圧倒的に強く、近衛騎士団の面々は、相当、苦戦していた。ブルーノは、苦戦しながらも、何とか倒せていたが、マグヌスは、先ほどから同じ人とずっと戦っていた。他の近衛騎士団の者も、同様の状況であり、アスローン城の守備兵をアリアとカレンが即座に倒して、何とかしている状況であった。


 そのような状況で、アリア達が戦っていると、皇帝の座する部屋から、レオンが出て来た。


「第1皇子フィンは、第2皇子レオンが討ち取った。これ以上の戦いは無意味だ! 武器を捨てろ!」


 レオンは、そう叫んだ。どうやら、フィンとレオンの決闘は、レオンが勝利したようだ。レオンの体には、無数の切り傷があった。その様子からも、相当な激戦であったのが伝わった。今までアリア達と、戦っていた兵士達も、フィンが倒されたことを察したようであった。


 アリアの周りの兵士達は、次々に、武器を捨てていった。そして、レオンは、通路の窓から、身を乗り出すと、先ほどと同じ内容を叫んだ。そうすると、中庭で戦っているレリフとダリルの周りにいた兵士達が、武器を捨てていった。


 レリフと戦っていたダリルも、動きを止め、魔槍ゲイボルグを地面に放り投げていた。それを確認したレオンは、アスローン城のレファリア帝国軍の指揮所へ向かった。到着すると、部屋の中には、アランがいた。


「……レオン皇子がこの部屋に来たということは、陛下が倒されたようですな」


「そういうことだ、アラン。レファリア帝国軍の全軍に武装解除をさせよ。そして、皇都アスローンの門を開け」


「陛下が倒されたのでは、もう戦う意味がありませんな。承知しました」


 アランは、指揮所にいた指揮官達に武装解除を命じた。指揮官達は、命令を受けると、すぐに指揮所になっている部屋を出て行った。こうして、レファリア帝国の次期皇帝を争う戦争は終了した。






 ――レファリア帝国での動乱が終結してから、1ヶ月が経過していた。その間、レオンに貸し出されたアスール王国軍は、レファリア帝国の各所で復興作業を行っていた。そして、アスール王国からは、莫大な食料が提供された。そのおかげか、レファリア帝国の各都市では、急速に治安が回復し、復興の途中ではあるが、少し活気が戻っていた。


「それにしても、結構、復興してきたね!」


 アリアが近衛騎士団に、復興作業の指示を出している横で、レリフはそう言った。


「そうですね。ですが、まだまだカダスの復興には遠そうです。師匠も暇なら、手伝って下さい」


「いや、まだ、本調子じゃないから、無理!」


 そう言ってレリフはどこかへ行ってしまった。相変わらず、自由だなとアリアは思った。アスローン城でレオンがアランに武装解除を命じた後、アリアが急いでアスローン城の中庭に向かうと、そこには、血塗れのレリフとダリルが立っていた。一応、生きてはいるようであったが、どちらも、相当な深手を負っていた。


 アリアが来ると、レリフはそのままアリアの方に倒れてしまった。ダリルも、レリフが倒れると同時に倒れてしまった。そこから、3週間ほど、レリフはベッドの上で生活していた。最近、ようやく、復活したようであった。ダリルも、今は復活して、皇都アスローンの復興作業を行っているらしい。


 アリアが少し、カダスの様子を見ると、1ヶ月前に比べて、だいぶ復興したなと感じた。やはり、激戦地というだけあり、損害も相当であったが、カダスの兵士達が頑張って、復興作業をしているため、復興の速度自体は早かった。


 そんなこんなで、アリアがカダスの復興作業を近衛騎士団に指示していると、カレンが近づいて来た。


「アリア殿、少し、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


「はい、何ですか?」


「レファリア帝国の復興も、ある程度、進んでいますので、1ヶ月後にアスール王国の王城で同盟を結ぶ式典が開催されます。その前に、陛下から、アスール王国軍の活躍した方々に勲章をお渡ししたいということで、日程の確認に参りました。ご都合の悪い日時はございますでしょうか?」


「いえ、特には大丈夫だと思います」


「それでは、1週間後に勲章の授与式を行いますので、それまでには皇都アスローンに近衛騎士団とともに、お越し下さい」


「分かりました」


「では、それでお願いします。それでは、失礼します」


 カレンはそう言うと、どこかへ行ってしまった。アリアは引き続き、カダスの復興作業を近衛騎士団に指示していた。




 ――それから、1週間後。アリアと近衛騎士団の面々は、レファリア帝国の皇帝の座する部屋で、横に列を作り、並んでいた。その列には、今回、活躍したレファリア解放軍の将兵とアスール王国軍の将兵が並んでいた。その中には、当然、リカルドとロナルドもいた。


 レリフは、『授与式に出るのは面倒だな~』と言って、断ったらしい。カレンがアリアに教えてくれた。そして、勲章の授与式が始まった。それぞれ、一人ずつ、レオン本人から、勲章を渡されていた。もちろん、アリアにも手渡された。


 ブルーノもレオン本人から勲章を渡されて、誇らしげであった。マグヌスは、レオン本人から勲章を渡される際に、泣きながら、受け取っていた。こうして、勲章の授与式が終了した。そして、退場するロナルドの後に続いて、アリアと近衛騎士団の面々も退場した。


 退場してから、アスローン城の廊下を歩いていると、前からカレンが歩いて来た。そして、アリアに近づいた。


「アリア殿、陛下がお呼びですので、ついてきて頂けますか?」


「はい、分かりました」


 アリアは何だろうと思いながら、カレンの後ろをついて行った。そして、カレンがある部屋の前で止まり、扉を開けた。そこには、レオンが椅子に座っていた。


「アリア、遠慮せず、そこの椅子に座ってくれ」


「分かりました」


 アリアはそう言うと、レオンと向かい合うようにして、椅子に座った。机には、紅茶とクッキーが置かれていた。カレンも部屋の扉を閉めると、レオンの傍に移動した。


「いや、済まないね。呼び止めてしまって。この前の約束を果たそうと思って、ここにアリアを呼んだんだ」


「約束ですか?」


 アリアはレオンと約束なんてしたかなと思い出そうとしたが、何も思い出せなかった。


「アリアは忘れているかもしれないけど、ミナスから無事に帰還して、私と話したときに約束をしたんだよ。君の活躍に何か報いる方法を考えるってね」


「……?」


「どうやら、本当に忘れているみたいだね。まぁ、いいよ。とりあえず、アリアにはこれを渡しておくよ」


 レオンはそう言うと、机の上に、一目で貴重なものだと分かる時計を置いた。


「これは、何ですか?」


「これは、皇族が自分の身分を示すときに出す身分証代わりの時計なんだよね。皇族の一人一人が微妙に違う時計を持っていて、これは私の時計なんだ」


「そんなに、貴重なものをくださるのですか?」


「うん。僕は皇帝になったからね。皇帝には皇帝専用の時計があるからいいんだ。その時計を見せるだけで、私に縁のある者ということが、レファリア帝国のある程度以上の役職を持っている人間だったら、分かるはずだから。何か、この帝国で困った時は、それを見せると良いよ」


「ありがとうございます。ですが、本当に私が頂戴しても良いのですか?」


「うん。私の救出、ミナスの奇襲、アスローン城潜入においてのアリアの活躍は、カレンから聞いている。君がいなかったら、私は皇帝になることが出来ず、レファリア帝国もいずれ滅んでいたと思う。だから、君にこの時計を送らせて欲しい」


「分かりました。ありがたく、頂戴します」


「うん、受け取って」


 こうして、アリアはレオンの時計をもらった。凄く高そうだからなくさないようにしようと、アリアは思った。そして、部屋から出ると、近衛騎士団に合流しようと、アスローン城から出て行った。



 アリアが、出て行った部屋で、レオンは紅茶を飲んでいた。


「カレンは、彼女をどう思う?」


「どうと、言いますと?」


「私は、彼女をそれなりの時間、観察していて、一つの結論に至ったんだ」


「結論ですか?」


「そう、結論。彼女は、将来、アスール王国、いや、パリ―スト大陸中にその名を轟かせる軍人になるという結論に、僕は至ったよ」


「そうですか? 確かに、アリア殿の能力の高さは疑いようがありません。ですが、そこまで傑出しているとは思いませんでした」


「今はね。だけど、将来的には、僕が言った通りになると思うよ。彼女からは、それだけの資質を僕は感じた。彼女を敵に回さなくて良かったと思う日が来るかもしれないね」


「……そうですか」


 レオンは、カレンの返事を聞きながら、紅茶を飲んでいた。






 ――レファリア帝国に派遣されたアスール王国軍が帰還した。派遣されたアスール王国軍は、レファリア帝国皇帝レオンが、アスール王国と同盟を結ぶために、訪れるのに合わせて、レファリア帝国から撤収した。


 そして、アスール王国の王都レイルで、皇帝レオンの訪問と派遣されたアスール王国軍の帰還は、大歓声をもって迎えられた。王城の王の間で、アスール王メギドとレファリア帝国皇帝レオンが同盟を結ぶ書類に署名をし、ここに、ミナス同盟が成立した。


 ミナス同盟という名前は 、レファリア解放軍の反攻の契機となった、ミナスの奇襲から名前をとったのが由来であった。同盟を結ぶための式典が終了すると、次に、派遣されたアスール王国軍の勲章の授与式となった。


 王の間に、一人ずつ並ぶと、アスール王メギドから直接、ここでも手渡しで渡された。レリフはレファリア帝国での勲章の授与式と同様に、『面倒だから、僕はいいよ』と言って、出席をしていなかった。今頃、どこかの池か湖で釣りでもしているのだろうと、アリアは列に並びながら思った。


 そして、今回、活躍をした近衛騎士団の面々は、全員がこの授与式に出席していた。アスール王メギドは、一人一人に勲章を手渡した。ここでも、ブルーノは誇らしげであった。その様子を見ていた財務大臣のダモンは泣きながら、拍手していた。意外と、子供思いの良い親なのかなとアリアは思った。


 アリアがマグヌスの方を見ると、『ありがとうございます!』と言いながら、ここでも泣いていた。そして、勲章の授与式が終わった。王の間を出て行くと、ルビエがアリアに近づいて来た。


「良くやった!」


 ルビエはそう言うと、アリアの頭を撫でまわした。力が強かったので、髪の毛が抜けるかと、アリアは思った。そうして、ルビエと少し話した後、サラと一緒にサラの部屋へ行った。サラの部屋に到着して、入ると、机の上に、豪華な料理が所狭しと並んでいた。サラが王城の料理人に、料理を作るように頼んでいたようだ。


「さぁ、約束通り、食べて下さいまし!」


「嬉しいですけど、一人では食べきれないので、サラさんも一緒に食べましょう!」


「分かりましたわ!」


 そして、二人は机に載っている料理を勢いよく、食べ始めた。久しぶりの豪華な料理であったので、アリアは、幸せな気持ちになった。机の上の料理はみるみるうちに減っていき、1時間後にはなくなっていた。


「……もう、食べられませんの」


 サラはそう言うと、自分の部屋のベッドに寝転がってしまった。


「私も、お腹いっぱいです。サラさん、ありがとうございました」


「お礼は、良いですの! 私もアリアと久しぶりに食事を食べられて嬉しいですわ!」


 サラはアリアにそう言った後、ベッドに寝転がったままで、椅子に座ったアリアと楽しく談笑をし始めた。

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