第32話 過ぎ去った嵐

____________本部襲撃の翌朝____________


アテナが小さな足で欠伸をしながら食堂に入室する。


ガラガラ


アテナ:「ほわぁ〜。まだ5時半か。ちょっと早起きしすぎたな。って...あれ?」


食堂には昨日の本部襲撃の対応に向かったゼラノス以外のメンバーが冴えない顔で朝ごはんを食べている。


アテナ:「みんな早起きだな!もしかして早起きしか取り柄のないニワトリにでも憧れてるのか?ハハハハッ」


自分はチンチラの癖にニワトリを馬鹿にする。


ライナス:「しゃーないっすよ。昨日本部があんなことになって。しかも、副隊長達はその現場にいてそれを止められなかった」


アテナ:「あ〜、昨日大騒ぎになってた件か。

それで大して寝れてないのか。それは分かったけど、お前はなんで起きてるんだ?」


アテナは昨日本部に行っていなかったライナスが何故こんな朝早くに起きているのか疑問が湧く。


ライナス:「そりゃ俺だけ寝てる訳にはいかないでしょ」


ライナスも緋縅の仲間として今回の件の重大さに責任を感じているのかと、アテナは改めてライナスのことを見直す。


アテナ:「お前も立派になっ」


アテナの言葉を遮り、ライナスの不満が暴発する。


ライナス:「寝れる訳ないでしょ!だって俺が朝ごはん当番なんだから!」


アテナ:「へ?」


ライナス:「昨日の任務で疲れたから俺だってぐっすり寝たいですよ!なのにバブルの野郎が寝れないから朝飯作れって朝の4時に起こしてきたんですよ!正気じゃねぇ!」


せっかく褒めてやろうと思ったのに、まさかの理由でアテナの顔が崩れる。


バブル:「だってしょうがないじゃん。お腹空いたなんてこの空気感で言い出せるわけなかったし...」


ライナス:「なら自分で作ればよかったろ!俺を巻き込むな!」


ライナスの怒責に次第にバブルも昂る。


バブル:「うるさいわねチンピラ切り取り線!」


アテナ:「ほう、ライナスの髪の毛がギザギザだから切り取り線か。なるほど」


ライナス:「てめっ、せめて切り取り線チンピラだろ!チンピラ切り取り線だとチンピラな切り取り線で人間でもねぇじゃねぇか!」


アテナ:「いや、キレるポイントそこか?」


バブル:「切り取り線だからキレやすいわね」


アテナ:「これはバブルに座椅子1個だな」


ライナス:「座布団でしょ!てか、俺早起きして朝ごはん作ってんすよ!アテナさんも言い返してくださいよ!」


3人は朝からしょうもない会話で盛り上がっているが、リーフ、ヴォイド、アルバ、レイスはまだ顔が死んでいるままだ。


ゼラノス:「ん〜。朝からうるさいなぁ」


目を擦りながらゼラノスが食堂に入ってくる。


リーフ:「ゼラ、お前よくこんな状況で寝れたな」


ゼラノス:「ウジウジするぐらいなら寝て回復してる方が賢いだろ」


誰もがゼラノスが寝る理由を正当化しただけだと分かったが、同時に珍しくその言い訳が正しいとも感じた。


ゼラノス:「てか、なんでお前らがなんでウジウジする必要がある?」


ヴォイド:「...それはミーたちがあの場にいたのに、あそこまでの被害を出してしまったからですです」


ゼラノス:「逆にお前らがいなきゃドロルって奴は倒せてないし、本部の人間は皆殺しだった。だろ?」


ゼラノスが淡々とアルバ達の功績を褒めるため、全員『まぁ、たしかに』と心の中で納得し始める。


ゼラノス:「まぁ俺は一人で倒しちまったけどな!ハハハハッ」


リーフ:「でも取り逃しただろ」


機嫌よく笑うゼラノスの胸にリーフの一言がザクリと刺さる。


アルバ:「ひとつ聞いていいすか?」


場が和み始めた今がチャンスだとアルバが切り出す。


アルバ:「今回黎明調査の資料が敵の手に渡って、全員大慌てだったじゃないすか。ただの紙切れでそんなやばいことなるんすか?」


たかが調査の資料が盗まれたくらいで大の大人達が何故そんなに騒いでいるのか、アルバには疑問で仕方なかった。


リーフ:「黎明調査のことは知ってるだろ?」


アルバ:「国内の能力者の名前と"目覚め"とかを調べたんすよね?」


リーフ:「あぁ。けど、それは資料に記載されている情報のうちのほんの一部だ」


レイス:「能力者の名前と"目覚め"がバレるだけでも結構マズイ事態だから大騒ぎになってると思ってたんですけど少し違いそうですね」


アルバ:「他に何が載ってるんすか?」


ゼラノス:「住所、人間性、使える業、弱点、その人間の経歴に、好きな俳優まで。"目覚め"持ちのあらゆる情報がびっしり詰まってる」


バブル:「え?そんなの知らないんだけど!めちゃくちゃ嫌なんですけど!」


アルバ:「でも、そんな昔のデータなら大したことないんじゃないすか?」


レイス:「確かに。"目覚め"が発現したばかりの時に業を記録されても、業を使える人間の方が圧倒的に少なかっただろうし...」


やはりゼラノスやリーフの話を聞いても、たかが一時いっときのデータにそこまで恐怖を感じることはない気がする。


リーフ:「恐らく君たちはあの資料に対しての考え方が違う。黎明調査は16年前行われた大規模な調査だ。そして今回奪われた資料には、その時に記録された情報だけが載っていると思っているだろ?」


レイス:「えっ...それって...」


リーフ:「資料は今日までずっと更新され続けている」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る