NTRエンドから始まる異世界転生。~ひたすら修行して最強になったけど、自覚がないままヒロインたちに溺愛されているらしい~
月影 朔
第一部:英雄の目覚め
第一章:絶望の転移と始まりの誓い
第1話:午前4時の裏切り者
ズキッ、と。
こめかみを殴られたような鈍い痛みが、俺の意識を現実へと引き戻した。
「……っ、クソ……」
深夜バイトの帰り道。時刻は、午前4時を少し回ったところ。
だらしない街灯が照らすアスファルトの上で、俺は思わず足を止めた。
全身を襲う悪寒。ガタガタと震える体を、薄っぺらいパーカー一枚で抱きしめる。
(風邪かよ……最悪だ)
コンビニの深夜シフトは、思った以上に体に堪える。
特に今日は、やたらと酔っ払いの相手が多くて精神的にも疲弊していた。
店長に頭を下げて、一時間早く上がらせてもらったはいいが……このままだと本格的に熱を出しそうだ。
スマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
トーク画面の最上段には、愛しい恋人の名前。
『ごめん、体調悪いから先に帰る』
一時間ほど前に送ったメッセージには、まだ既読がついていなかった。
電話もかけてみたが、コール音が虚しく響くだけ。
(……もう寝てるか。だよな、こんな時間だもんな)
俺のアパートで同棲を始めて半年になる彼女――ミサキ。
いつもなら「大丈夫?」の一言くらい、すぐに返してくれるはずなんだが。
胸の奥に、小さなトゲが刺さったような違和感が広がる。
(いや、考えすぎか。あいつも仕事で疲れてるんだ)
俺は無理やり思考を打ち消し、再びアパートへの道を歩き始めた。
ミサキとは、二つ年上の優しい恋人だ。
しがないフリーターの俺とは違い、ちゃんとした会社でOLとして働いている。
俺が「いつか正社員になって、ミサキを楽にさせるから」と言うと、彼女はいつも困ったように笑って、「冬夜は頑張りすぎだよ」と俺の頭を撫でてくれた。
あの笑顔が、俺の唯一の支えだった。
あの温もりがあるから、どんなに辛いバイトだって乗り越えられた。
「……早く、会いてぇな」
呟きながら、古びたアパートの階段を上る。
203号室。俺とミサキのささやかだけど幸せな城。
ポケットから鍵を取り出そうとして――手が止まった。
(あれ……?)
ドアノブに鍵が差しっぱなしになっている。
ミサキのキーホルダーだ。彼女が気に入っている猫のマスコットがぶら下がっていた。
「……不用心だな、あいつ」
苦笑しながらそっとドアノブを回す。
カチャリ、と軽い音を立てて扉が開いた。
(ただいまって言うのは……やめておくか。起こしちまうもんな)
靴を脱いで静かに廊下を進む。
玄関には見慣れない男物のスニーカーが雑に脱ぎ捨てられていた。
サイズは俺のものより二回りはデカいだろうか。
ズキッ!
再び、頭痛が俺を襲う。
さっきよりもずっと強い痛みだ。
心臓が嫌な音を立てて脈打っているのが自分でもわかった。
(なんだ……? 誰か、来てるのか……?)
ミサキの友達か?
いや、だとしても男物の靴は――
思考がまとまらない。
熱でぼーっとする頭のまま俺はリビングを通り過ぎ、寝室のドアに手をかけた。
半開きになったドアの隙間から微かな光が漏れている。
ベッドサイドの小さな間接照明の明かりだ。
そして、光と共に俺のものではない男の声と……ミサキの甘い声が聞こえてきた。
「……ん、もう……タカシってば、しつこい……」
「いいじゃんか、ミサキ。あいつ、まだ帰ってこないんだろ?」
「……うん。でも、そろそろ……」
ガタガタと体の震えが止まらない。
寒さからじゃない。
腹の底からせり上がってくる得体のしれないナニかが俺の全身を支配していた。
俺は震える手でゆっくりとドアを押し開いた。
ギィ……、と。
軋む蝶番の音がやけに大きく部屋に響く。
「「――っ!?」」
ベッドの上の二人が驚いたようにこちらを振り返った。
乱れたシーツ。
散らばった服。
そして――俺の知らない男の腕の中で肌を
時間が、止まった。
頭の中が、真っ白になる。
自分が呼吸をしているのかどうかすら、わからなかった。
最初に沈黙を破ったのはベッドの上の男だった。
舌打ちを一つすると気だるそうに体を起こす。
「……チッ。なんだよ、帰ってくんの早ぇじゃん」
筋肉質のがっしりとした体。日に焼けた肌。
いかにも、といった感じの男だ。
ミサキは慌ててシーツで体を隠しながら、青ざめた顔で俺の名前を呼んだ。
「と、冬夜……!? なんで……」
(なんで……?)
その言葉が、俺の思考のスイッチを入れた。
なんで、だと?
おかしいだろ。
なんで、って言うのは、俺のセリフのはずだ。
「……なんで、こんなことになってんだよ」
掠れた声が自分の喉から絞り出される。
怒りなのか、悲しみなのか、自分でもわからない感情が渦巻いていた。
「説明しろよ、ミサキッ!」
俺が声を荒げると、ミサキはビクッと肩を震わせる。
だが、隣の男が彼女の肩を抱き寄せ、俺を睨みつけた。
「うっせぇな。見てわかんねぇの? こういうことだよ」
「お前は黙ってろ!」
「あぁ? んだよ、テメェ……」
男がベッドから降りようとするのをミサキが慌てて止める。
「待って、タカシ! ここは私が……」
彼女は何かを決心したように俺をまっすぐに見つめ返してきた。
その瞳には、もうさっきまでの動揺の色はない。
そこにあるのは、冷え切った侮蔑の色。
「……冬夜」
「……なんだよ」
「もう、終わりにしよ」
淡々としたあまりにも軽いその言葉に、俺は耳を疑った。
(終わり……? 何が……? 俺たちの関係が……?)
「ふざけるな! 半年だぞ! 俺たち、半年間、一緒に……!」
「半年、ね。……もう限界だったのよ」
ミサキは、ふぅ、と大きなため息をついた。
「いつまで経ってもフリーターのまま。口先ばっかりで正社員になる気なんてないんでしょ?」
「そ、それは……! 探してる! ちゃんと探してるんだよ!」
「いつ? 深夜バイトで疲れたって昼間はずっと寝てるかゲームしてるだけじゃない!」
その言葉に、俺は何も言い返せなかった。
確かに、そうだ。
『アークス・エンデ』――俺が唯一ハマっているPCゲーム。
それに没頭するあまり、就職活動を疎かにしていたのは事実だった。
「タカシは違う。ちゃんと将来のこと考えて、仕事も頑張ってる。それに比べてアンタは……」
ミサキの言葉が、鋭いナイフのように俺の胸に突き刺さる。
隣の男――タカシと呼ばれたそいつは、勝ち誇ったように鼻で笑った。
「だ、だとしても……! 裏切るなんて、ひどすぎるだろ……!」
俺が絞り出した悲痛な叫びを、ミサキは冷たく一蹴した。
「ひどい? ひどいのはどっちよ」
「……え?」
「期待させるだけさせといて、いつまでも行動しない。そんな甲斐性のないアンタが全部悪いのよ」
甲斐性がない。
アンタが、悪い。
その言葉が、俺の世界を完全に破壊した。
足元から、ガラガラと何かが崩れ落ちていく。
支えだったものが、信じていたものが、全て。
「……そっか」
気づけば、俺は力なく笑っていた。
もう、怒りも悲しみも感じなかった。
ただ、空っぽだった。
「……俺が、悪かったんだな」
「そ、そうよ! わかったなら、さっさと……」
「……じゃあ、もういいや」
俺は二人に背を向け、ふらふらとリビングへと戻る。
背後でミサキが何かを言っていた気がするが、もう何も聞こえなかった。
ドンッ、と。
壁に背中を預け、そのままズルズルと床に座り込む。
(終わった……なにもかも)
ミサキを失った。
信じていた未来を失った。
生きる意味すら、失ってしまった。
冷たいフローリングの感触だけが、俺がまだここにいることを伝えてくる。
暗いリビングの中で、唯一、色を持つものが目に入った。
つけっぱなしにしていた、パソコンのモニター。
そこに映し出されているのは、見慣れたゲームのタイトル画面。
『アークス・エンデ』
それは、俺が現実から逃避するための、ただの遊びだったはずだ。
だが、その青く輝くロゴだけが、今の俺にとっての唯一の光のように見えた。
まるで、俺を誘っているかのように――。
――――――――――――――――――――
★★あとがき★★
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
いきなり恋人に裏切られるという、胸糞の悪いスタートで申し訳ありません。
しかし、これは壮大な「ざまぁ」への序章に過ぎません。
絶望のどん底に突き落とされた主人公・冬夜が、これから異世界で最強へと成り上がり、かけがえのない仲間と出会い、そして――。
タイトルにある通り、朴念仁な彼が無自覚のうちにヒロインたちから溺愛される甘い展開も待っていますので、ぜひご期待ください。
これから毎日、最低1話は更新するように頑張りますので、どうか長い目でお付き合いいただけると嬉しいです。
「面白かった!」「続きが気になる!」「はよ、ざまぁしろ!」と思っていただけましたら、ぜひ画面下の★や作品フォローで応援していただけると、作者の執筆速度が爆上がりします。
皆様の応援が何よりの力になりますので、何卒よろしくお願いいたします。
【追伸】
作者の近況ノートにて、第1話の制作裏話(ボツネタ供養)を公開しました。
今後も時間があれば少しずつ投稿していこうと思いますので、もしご興味があれば、そちらも覗いてみていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます