第11話 時間がもっとゆっくり流れてほしい
私は手すりにもたれかかる華森を見つめた。手すりの外では川の水が静かに流れ、かすかな水しぶきが街灯の下で雪のようで、間もなく訪れる冬を思い起こさせる。
「中学生の時も同じことを言われたんだ。『私の心にはもう誰かがいるから』…今になってやっと分かったよ」彼は髪の水しぶきを払いながら、「その人こそ、傘織だったんだ」と続けた。
それを言い終えると、華森は長い間沈黙し、深く記憶の中に沈んでいった。私はいらだちを感じた。
「もういい! 回想はそこまでにして、華森くん」
街灯の下で、私は華森の語る物語に耳を傾け、大体どういうことなのか理解した——彼は何と中学時代の話から始めたのだ…重要なのは、彼が傘織を選んだということだ。
「つまり、傘織に告白したのは君なのか?」
「ああ。」
「じゃあ、どうして人から告白されたって言ったの?」
華森と私は気まずそうに視線を合わせた。
「それはさておき」彼は話題をそらした。「君の方でも何か良いこと、あったんじゃないか?」
「どうしてそう思う?」私は首をかしげながら彼を見た。きっと不自然な様子も見せていなければ、特別なことも起きていないはずだ。
「なんていうか、君は今とても楽しそうに見えるんだ」
友達が恋愛を実らせて、そのことを喜ぶのは当然のことだ。しかし、私のこの喜びはそれだけではないことを理解していた。
「確かに、何か良いことが起きましたね」あの温もりを感じた手は、今も記憶に残っている。すぐに記憶を捨てずにいて良かったと、自分にしか分からない微笑みを浮かべた。
華森は納得したように笑い、空を見上げた。
「アイス、食べに行かないか?」
「行こう」
それからあっという間に数週間が過ぎた。青春の悩みは相変わらずで、高梓梨は相変わらず時折魏華森に話しかけに来た。彼女の言うところによれば——「ただ先輩と友達でいるだけですから」
華森と傘織は常に一緒にいるようになった。むしろ、これが最初の状態に戻っただけなのかもしれない。そう思うと、私は原葵のことを思い出さずにはいられなかった。手を離して以来、彼女は頻繁に病院に通うようになり、最近は検査で入院している。これで私は再び現実に向き合わなければならなくなった…やはり彼女を見舞いに行こう。
「チリンチリン」病院から出てくる自転車を避けながら、枯れ葉を踏みしめてさらさらと音を立てる。私は見上げた。
「沈星市第十二病院」
ため息をつき、少し冷たくなった手をこすりながら「着いたか」と呟く。
閑散とした長い廊下を抜け、薄黄色の木製の扉の前に立つ。そっとノックした。傍らの名札にははっきりと――「821号病室 斎原葵」と書かれている。
「どうぞ」ドアを開けると、原葵は病床で背筋を伸ばして座り、片手で文庫本を抱え、名前の知らない歌を口ずさんでいた。ベッドサイドの棚にはひまわりの花が一輪、飾られている。
「元気そうで安心した」そう言いながらベッドサイドに歩み寄り、手に持った袋を上げて見せる。「ケーキだけど、食べる?」
小皿を差し出す。「来てくれてありがとう」彼女は文庫本を閉じ、静かにベッドの上に置いた。
「何を読んでるの? 小説?」そう言いながら、ケーキを彼女の皿に分ける。
「ありがとう」原葵は髪を整え、文庫本を胸の前に掲げた。「太宰治の『人間失格』」表紙のデザインはとてもシンプルで、白い地色に黒い文字だけだ。
「月が綺麗?」
「うんうん、よく知ってるね」
私たちは息を合わせたように笑顔を見せた。しばらくそんな風に雑談をして、彼女のケーキはほとんど無くなりかけていた。
「おかわり? ケーキ」うつむきながら尋ねる。
彼女はそっと首を横に振った。「お医者さん、食べ過ぎはよくないって」
ケーキの跡をきれいに片付け、原葵の隣に座る。二人で並んで座ると、背中から陽が差し込み、体がポカポカと温まる。部屋中が太陽の香りに満ちていた。
「早いものね、時間って」
「そうだね」
「もっとゆっくり過ぎてくれたらいいのに」
「そういうわけにはいかないよね」
「そうね」
私たちはバカみたいに笑い、しばらくしてようやく落ち着いた。私は何かを思い出した。
「実は、本当にありがとうって言うべきなのは私の方なんです」ゆっくりと口を開く。
彼女は困惑したように私を見つめ、口を少し開けたが何も言わない。
「原葵がいなかったら…今のこんな気持ち、絶対に感じられなかったと思います」彼女の横顔を見つめる。
「ありがとう、原葵」
原葵はさわやかに笑った。目尻に涙の粒をいくつか浮かべて。
「あなたに出会えて、本当によかった」
私は少し照れくさそうに顔を背けた。穏やかな陽射しの中、病室全体が活気に満ち、ひまわりは独特の香りを放っている。『花言葉』によれば、「ひまわりの花言葉は太陽と希望」だそうだ。振り返って原葵を見ると、彼女はうつむきながら何かを考えているようだった。
今、何て言おうか。そう考えているとき、手の甲に懐かしい感触が伝わってきた――原葵の手だ。振り返って見る勇気はなく、ただ前方を緊張して見つめるしかない。二つの手が絡み合い、やがて指を組んだ。私はこの手を通して、彼女のもう一つの側面――おびえ、不安な彼女の姿を見たような気がした。
それからの十分間、私たちはただ座り、手をつなぎ、一言も発しなかった。誰もがこの貴重な雰囲気を壊してしまうことを恐れているようだった。
「パタン」と、本が時宜を計らなかったように落ちた。絡み合っていた手が「さっ」と離れる。
顔が熱い……
「あの…傘織さんの方、何か良いことがあったみたいだね~」原葵は緊張した拙い話題そらしをする。
「ああ、そうみたいだね」私も同じく拙い演技で胸の高鳴りを誤魔化す。
「素敵な人が結ばれてよかったね」
「うん」私は立ち上がり、落ちていた本を拾い、もう落ちないと思う場所に置いた。
「ねえ」原葵の声が背後から聞こえる。「もし私、あなたと永遠に一緒にいたいって言ったら、なんて答える?」
私は振り返って彼女を見る。陽射しが背後からまつげに降り注ぎ、心臓は狂ったように鼓動を打つ。この問題をどう理解すべきか、どうすべきか、分からなかった。
私が立ち尽くしたまま動かないのを見て、原葵はベッドの上に跳び乗り、恥ずかしそうに布団で顔を覆った。髪は少し乱れていた。
「わがまま言っちゃった、気にしないで……」
「あ…うん」私は呆然とした状態から抜け出し。「もう遅いから、そろそろ帰るよ」
原葵は力なく「さようなら」と返事をした。
ドアを閉め、私は安堵の息をついた。様々な感情が絡み合っている。
顔が熱い……
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