私達の心は、美味しい

深見双葉

プロローグ「platform」ーカラスからの手紙ー

プロローグ「platform」


―カラスからの手紙―


ツバメの雛は、柔らかすぎて、最初は美味しくない。

だからカラスは待つのです。

ふくふくと、脂が乗り、声を覚え、世界に向かって「かわいい」と鳴く、そのときを。

一番美味しく喰らえる、瞬間を。

そう聞いたら、あなたは、カラスを「悪」だと言うのでしょう。


ならば、なぜこの街にはカラスがこんなにもいるのでしょうか?

山の実りより、街のゴミを漁る方が、ずっと楽に生きられるからです。

そんな世界を作ったのは、あなたたち、人間じゃないですか。


それでも、あなたは声を荒げるのでしょう。

「ツバメの雛は、罪のない命だ」と。


では、なぜツバメは、わざわざカラスのいる街に巣を作るのですか?

山奥の木陰に隠れればいい。誰にも見つからずに済むでしょう?


いいえ、ツバメは知っているのです。


人間は、弱いものに同情し、強いものを憎むということを。

だから、わざと、ツバメの雛を、人々に見せつけるのです。


ツバメは、あどけない命を、人のすぐ近くに置く。

でも、自分の羽では守らない。

人に守らせるのです。

人間の「正義感」で、カラスを追い払わせるのです。


それでもあなたは、こう言うでしょう。

「カラスが悪くて、ツバメはいい子だ」と。

「カラスは醜い。ツバメはかわいい」と。


だからカラスは悪者で、ツバメは守るべき存在。

その思い込みこそが、あなたの“platform(思考の土台)”なのです。


今、この瞬間も、

わかりやすい善悪に囚われたまま、スクロールし続ける。

それがこの世界の、システムです。


私は、かつて「カラス」と名乗り、memoというSNSの片隅で、言葉を書いていました。

そして、ツバメと名乗る彼女と出会いました。

これは、あのツバメのこと。

そして、私が何をしたのかの話です。


……読み終えたとき、どうか思い出してください。

カラスがツバメの雛を、美味しそうに喰らう姿を。


これは、あなたがいま見つめる、そのスマホの画面で起きた、どこにでもある話。


誰かにとっては、とても美味しいあなたの心の、すぐそばで、指先一つで始まる記録です。


そして、その画面の向こうで、私は静かに羽ばたきながら、あなたを見つめるカラスです。


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