橘莉緒の霊物語

白雪 愛琉

第1話 霊縁師 -木の章・芽吹き-

◆主要キャラクター


莉緒(主人公)

• 属性:時空・土・雷・光・魂など複合属性

• 役割:霊縁師チームの指揮、全体調整、縁の選択


• 口調:タメ口(「私が行く!」「皆集まってくれる?」等)


• 属性:闘・火

• 役割:前衛・防御・戦闘補助

• 特徴:瞬間的判断力と攻撃力が高い

• 口調:砕けた口調で男勝り


• 属性:木・命・癒し

• 役割:治癒・支援・霊縁の維持

• 特徴:安定感、仲間の精神面サポート


花守

• 属性:水・魂

• 役割:縁の結び手・支援・精神安定

• 特徴:冷静、敬語で仲間をサポート(「莉緒さん」「皆さん大丈夫ですか?」等)



◆契約霊・主要霊縁


かぐや

属性

月霊(げつれい)/静寂・治癒・未来視の象徴

凛たちが扱う霊の中でも最古級に位置する“月の理”を司る存在。


冥花

• 属性:死・美・循環

• 役割:妖華界の王女、死と生の縁を調整

• 特徴:死を芸術として昇華する力、莉緒と共鳴


獄羅

• 属性:死・闇

• 役割:妖魔界の支配者、莉緒に興味を抱く

• 特徴:生者を拒むが、戦いの中で仲間と接触


ベノム

• 属性:毒

• 役割:莉緒が一人で契約した毒霊

• 特徴:絶望・堕落・命の境界の力を持つ


リヴ

• 属性:知・封印・魔法

• 役割:創命の塔に封印されていた魔女

• 特徴:全ての真実の管理者の役割を持つ、契約で覚醒


フロスト

• 属性:氷・冷静

• 役割:戦闘補助・結界形成

• 特徴:氷編で活躍


ガイアリオン

• 属性:大地・防御

• 役割:土の章での守護霊

• 特徴:大地の力を操る


ヴァルヴェシア(王)

• 属性:理・運命

• 役割:理の章で莉緒が契約

• 特徴:運命と法則の鍵、真実の扉を開く


黒の総装束

• 属性:無・虚・暗

• 役割:地獄編以降の対立勢力

• 特徴:世界の秩序や莉緒を手中に収めようとする、個々に下位から中核まで存在


あの方

• 属性:未知・全属性に影響

• 役割:人間界編で登場

• 特徴:正体不明、莉緒を利用して完全体化を目指す



序章 ──声のない声


第一章 ──見える少女


第二章 ──初めての契約


第三章 ──黒装束の影


第四章 ──守護の炎、癒しの樹


終章 ──芽吹く縁

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序章 ──声のない声


 雨が降っていた。

 しとしとと、夜の校庭を濡らす細い糸のような雨。

 街灯の光が滲み、世界の輪郭が曖昧に溶けていく。


 ──助けて。

 ──ねぇ、誰か。


 その声は、耳ではなく“心”に直接響いた。


 橘莉緒(たちばな・りお)は傘を差したまま、校門の前で足を止めた。

 誰もいない。

 聞こえるのは雨の音と、自分の呼吸だけ。

 なのに、確かに聞こえた。泣き声のような、か細い声が。


 「……また、だ。」


 莉緒は静かに息を吐く。

 この現象は小学生の頃から続いていた。

 人の“影”に混ざるようにして、見えてはいけないものが見える。

 誰にも話せない秘密。

 それが、橘莉緒という少女の“日常”だった。


 ──そこに、少女がいた。


 校舎の二階。割れた窓の向こう。

 白いワンピース姿の少女が、ずっとこちらを見ている。

 顔はぼやけ、瞳だけが闇の中で淡く光っていた。


 「……あなた、見えるの?」


 莉緒の喉がひとりでに動いた。

 その瞬間、冷たい風が吹き抜け、雨粒が横殴りに頬を打つ。

 気づけば──白い少女は目の前にいた。


 『やっと……見つけた』


 涙のような光が、少女の頬を伝い落ちた。

 莉緒は震えながらも、差し出した手を止められなかった。

 その手が霊の頬に触れた瞬間──


 胸の奥に、熱いものが流れ込む。

 見知らぬ記憶。途切れた声。消えた想い。

 莉緒の瞳が淡い緑に光った。


 「……あなたの声、聞こえる」


 霊の少女は微笑んだ。

 そして、雨の中に溶けるように消えていった。


 その夜から、莉緒の“霊縁師”としての運命が静かに動き出す。

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第一章 ──見える少女


 朝。

 雨上がりの空はどこまでも澄んでいて、昨日の夜の出来事がまるで夢のようだった。


 橘莉緒は制服の袖を整え、鏡の前でため息をつく。

 目の下には少しだけクマ。

 夜中まで、あの“声”のことを考えて眠れなかった。


 ──あれは確かにいた。

 ──でも、どうして私にだけ見えるの?


 そんな疑問を胸に抱いたまま、彼女は学校へ向かった。



 昼休み。

 校舎裏の桜の木の下、莉緒はひとりで弁当を広げる。

 その木は古く、いつの間にか「幽霊が出る」という噂が流れていた。

 だが莉緒にとっては、唯一“落ち着ける場所”でもあった。


 「……誰もいない、か」


 そう呟いた瞬間。


 ──風もないのに、桜の枝が揺れた。


 莉緒は箸を止め、息を呑む。

 何かが、近づいてくる。

 見えない“気配”が、確かに存在している。


 「……出てきて」


 そう言うと、桜の影がゆらりと形を変えた。


 ひとりの青年が、そこに立っていた。

 淡い木漏れ日のような髪色。深緑の和装。

 目はどこか憂いを帯びて、けれど優しい。


 「……やっと話せたな、莉緒」


 「え……? 私、あなたを知ってるの?」


 青年は微笑んで頷いた。


 「俺は樹(いつき)。

  お前の“守護霊”だ。ずっとお前を見守ってきた」


 莉緒は言葉を失った。

 昨日の出来事、あの光、あの声。すべてが繋がり始める。


 「守護霊……? それって……」


 「お前は“霊縁師(れいえんし)”。

  人と霊を結ぶ存在だ。見えるだけじゃない。話し、触れ、導くことができる。

  だが、その力は諸刃の剣。己を蝕むこともある」


 その時、背後から鋭い声が響いた。


 「説明が長い」


 振り向くと、今度は黒髪の少年が腕を組んで立っていた。

 凛とした空気を纏い、瞳は冷たい蒼。


 「俺は凛(りん)。樹の弟みたいなもんだ。

  守護霊、もう一柱。……お前、随分危なっかしいな」


 「え、二人も!?」


 凛はため息をつき、莉緒の額を軽く突く。


 「昨夜、霊の気配に触れたろ? 本来なら死んでてもおかしくねぇ。

  だが……お前の中に“特別な霊力”が眠ってる」


 樹が穏やかに続ける。


 「霊と縁を結ぶ者──霊縁師は、霊界と人間界の境を歩く存在だ。

  お前は、選ばれたんだよ。莉緒」


 莉緒の胸がざわめいた。

 “選ばれた”──その言葉が、重く響く。


 「……もし、見えることで誰かを救えるなら。

  私は、逃げない」


 その決意を聞いて、樹は静かに目を細めた。

 凛も僅かに口角を上げる。


 「ようやく始まるな」


 ──この瞬間、橘莉緒は「霊縁師」としての最初の一歩を踏み出した。



夜、莉緒の部屋の窓辺。

月の光が差し込む中、彼女の手の甲が一瞬、緑色に光った。


それはまだ、誰も知らない“契約の印”の予兆だった。

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第二章 ──初めての契約


 春が終わりに近づく頃、町は桜色から新緑に変わっていた。

 橘莉緒は放課後、いつものように校舎裏の桜の木へ向かった。

 そこは彼女にとって、樹や凛と会話する“結界のような場所”だった。


 今日も、樹は木漏れ日のような姿で彼女の隣に立っていた。

 「どうした? 顔色がよくない」

 「……最近、ずっと夢を見るの。泣いてる花の夢」


 莉緒は胸に手を当てた。

 夢の中で、白い花畑がゆっくりと枯れていく。

 その中心に、少女の姿をした霊が膝をついて泣いていた。

 “助けて”と何度も繰り返す声──。


 「それは“呼び声”だ」

 凛が言った。

 「霊が、お前を選んだんだ。行こう、莉緒」



 夢に導かれるように、莉緒たちは町外れの廃神社に辿り着いた。

 鳥居は崩れ、境内には花の枯れた痕跡が無数に散っている。


 「……ここ、空気が重い」


 風も吹かないのに、花びらのような光の粒がふわりと舞った。

 そして、その中から現れた。


 白い髪、淡い桃色の瞳──花の精霊のような少女。

 だがその体はひび割れ、花弁が散るように崩れている。


 『……人間? ここに、何の用……?』


 莉緒は息を呑む。

 「あなた、泣いてた。夢で……私に助けを求めたよね?」


 霊は驚いたように目を見開く。

 『……私の声が、届いたの?』


 「うん。私、霊縁師……霊と縁を結ぶ者。あなたを救いたい」


 その言葉に、凛の眉が動く。

 「おい莉緒、まだ契約は──」

 「構わん」

 樹が静かに言った。

 「彼女の“本心”があれば、それでいい」


 少女──花の霊は微笑んだ。

 『私は“花守(はなもり)”。この地に咲く命を護る者……でも、

  人の争いで神社が壊れ、花々が枯れて……私もここに縛られたまま……』


 その声には、深い悲しみと孤独が混ざっていた。


 莉緒は迷わず一歩踏み出す。

 「じゃあ、私と契約して。もうひとりじゃない」


 『……契約?』


 「あなたと私の霊力を繋ぐ。あなたは自由を取り戻せる」


 花守は少し考え、静かに頷いた。

 『……わかった。私の花を、あなたに預ける』



 莉緒の右手が光に包まれる。

 花守が差し出した手を重ねると、空気が震えた。


 ──霊縁の儀、始動。


 足元に花の文様が広がり、莉緒の腕に緑と桃の刻印が浮かび上がる。

 彼女の髪が風に揺れ、樹と凛が見守る中、花守の身体が淡い光に変わっていく。


 『……ありがとう、莉緒。あなたの中で、私は咲き続ける』


 その瞬間、廃神社に風が吹き抜けた。

 枯れた花々が一斉に咲き誇り、神社全体が命を取り戻したかのようだった。


 莉緒は腕を見つめた。

 刻印が、淡く光を放っている。


 「これが……“契約の刻印”……」


 樹が微笑む。

 「それが霊縁師の証だ。お前は今、花守とひとつの命を共有している」


 凛も腕を組んで言った。

 「悪くねぇな。初仕事にしては上出来だ」


 莉緒は小さく笑った。

 「ありがとう、花守。私、絶対に無駄にしないから」


 その声に呼応するように、刻印が花びらのように輝いた。


 ──それが、莉緒の“最初の契約”だった。



 その夜。

 莉緒の夢の中で、花守が静かに微笑んでいた。


 『次に出会う時、あなたはもっと強くなっている。

  どうか、縁を繋ぎ続けて……霊縁師・橘莉緒』


 夢の中に花の香りが広がり、莉緒の心に“確かな温もり”が刻まれた。

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第三章 ──黒装束の影


 静かな夜。

 莉緒は眠れずにいた。

 花守との契約を結んでから三日。

 刻印が時折、熱を持つように脈打つ。

 その度に、彼女は胸の奥に誰かの声を感じた。


 ──“見つけたぞ、霊縁師”──


 唐突に、窓の外で“ざり”と砂利を踏む音がした。

 気配が……ひとつ、ふたつ、いや──五つ。


 「……来たわね」


 莉緒はゆっくり立ち上がる。

 樹と凛がすでに現れていた。

 「感じるか、莉緒。闇の霊気だ」

 「油断するな。あいつらは“霊を狩る”奴らだ」


 外に出ると、そこには黒装束の一団が立っていた。

 顔を隠す仮面、黒く滲む霊力。

 人間でありながら霊を“武器”に変える、禁忌の術を使う者たち。


 「初めまして、霊縁師。お前が“花の契約者”だな」


 中央の男が口を開いた。

 声は低く冷たい。

 「俺たちは“黒禍(こくか)”──霊を支配し、この世を浄化する組織だ。

  お前のような存在は、我らの“計画”の邪魔だ」


 「……霊を浄化? 違う、あなたたちは“奪ってる”だけ」


 男が指を鳴らすと、周囲の影が蠢いた。

 黒い煙のような霊たちが、一斉に莉緒へ襲いかかる。


 「凛、樹!」


 莉緒の呼び声に応え、二人の守護霊が前へ出る。

 樹が風を操り、凛が光刃を放つ。

 だが敵の霊は数が多く、次々と形を変えて襲いかかってくる。


 「莉緒、後ろ!」

 凛の声に反応するより早く、黒い腕が莉緒を掴んだ。

 霊力を吸い取られる感覚。体が重くなる。


 その瞬間──


 莉緒の右手の刻印が、強く輝いた。

 眩い花の光が闇を裂き、温かな風が吹き抜ける。


 『莉緒、お願い。私を信じて──』


 莉緒の胸の奥から、花守の声が響いた。

 「……行こう、花守!」


 彼女の周囲に花びらが舞う。

 刻印から放たれた光が花の形を描き、その中心から一人の少女が姿を現した。

 純白の衣に花弁の冠、瞳は桃色に輝いている。


 『花縁・顕現(けんげん)──花守、咲命の陣(しょうめいのじん)!』


 莉緒の身体に花守の霊力が流れ込み、髪が風に揺れて緑と桃に染まる。

 空気そのものが柔らかく震え、無数の光の花が敵の霊を包み込んだ。


 「な……これは……!?」

 黒装束の男が叫ぶ。

 光の花に包まれた霊たちは次々に穏やかな表情に変わり、やがて消えていった。

 苦しみから解放されたように。


 『魂は奪うものではなく、還すもの……それが、霊縁師の道』


 花守の声が響く。

 莉緒はその言葉に合わせて手を広げ、祈るように呟いた。


 「──咲いて、そして還れ」


 花の光が夜空に溶け、風が優しく吹き抜けた。


 黒装束の男は舌打ちし、後退する。

 「チッ……やはり“花”は厄介だ。次に会う時は、命はないぞ」


 彼らは闇の霧となり、姿を消した。



 静寂。

 風に舞う花びらが、月光を受けてきらめく。


 莉緒は膝をつき、息を整えながら微笑んだ。

 「……ありがとう、花守」


 『こちらこそ。私を“使ってくれた”のは初めてだった』


 花守は柔らかく笑い、莉緒の背後にふわりと消える。

 その瞬間、莉緒の刻印が淡く光ったまま、静かに鼓動を打った。


 樹が近づき、優しく肩に手を置く。

 「見事だった、莉緒。

  契約霊の力を引き出せる者はそう多くない」


 凛も小さく頷く。

 「黒禍は今後、必ず動く。気を抜くな」


 莉緒は夜空を見上げた。

 月の下、散る花びらが舞う。


 ──まだ始まったばかりだ。

 救える霊がいるなら、私は迷わない。


 そう、胸の奥で静かに誓った。

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第四章 ──守護の炎、癒しの樹


 黒装束の一団が放った怨念の波動は、夜の空気を裂くようにうねっていた。

 瓦礫の散らばる廃神社の境内で、莉緒は息を荒げながら立ち尽くしていた。

 霊縁師としての力を得てから、まだ数日。目の前の“闇”は、彼女にはあまりにも重かった。


「……くっ……っ、凛!」


 声を振り絞ると、倒れかけた凛がかすかに笑った。

 彼の掌からは微かな光が漏れている。癒しの力。しかし、それでは追いつかない。

 闇の怨霊が再び咆哮を上げ、黒い靄が莉緒の足元を飲み込もうとしたその時――


「莉緒!」


 凛の声とほぼ同時に、莉緒の胸の刻印が強く輝いた。

 花弁のように光が舞い、そこから柔らかな声が響く。


『──もう恐れなくていいよ、莉緒。今度は私が守る番。』


 その声は、あの日出会った“花守”のものだった。

 莉緒の背後に立つ光の人影は、薄紅の花びらを纏いながら形を取っていく。

 彼女の髪は風に揺れ、瞳は静かに燃えていた。


「花守……!」


 莉緒が名を呼ぶと同時に、彼女の足元から光の蔦が広がっていく。

 枯れ果てた境内の地面から、一輪、また一輪と花が咲いた。

 その中心で、花守は両手を広げる。


『霊縁の誓いにより──芽吹け、命の環(わ)。』


 大地が震えた。光の蔦が怨霊の影を包み込み、花弁の光が一斉に舞う。

 怨霊たちの叫びが空に消え、闇はやがて淡い光の粒へと還っていった。


 沈黙。

 夜風が吹き抜ける中、莉緒は膝をついた。涙が頬を伝う。

 恐怖ではなかった。胸の奥にある“温かさ”に、自然と涙が溢れていた。


「ありがとう……花守……私、もう逃げない。」


 花守は微笑み、莉緒の肩に手を置いた。

 その指先は光のように柔らかく、優しく震えていた。


『うん。莉緒が願えば、私は何度でも咲く。だって私は──“守護”の花だから。』


 莉緒が微笑み返すと、凛がゆっくりと立ち上がる。

 彼の背後に、淡い緑の光が揺れていた。まるで若木が芽吹くように。


「……見えるかい、莉緒? 僕の“癒しの樹”も、ようやく根を張り始めたみたいだ。」


 凛の言葉に、莉緒は頷いた。

 互いの力が共鳴するのを、確かに感じた。炎と樹。守護と癒し。

 そしてその中心にあるのは、誰かを想う“心”だった。


 花守がふっと笑い、二人の間に風が通り抜けた。


『この絆は、まだ始まったばかり。けれど──もう、寂しくはないね。』


 莉緒は空を見上げた。

 黒い雲が裂け、夜空に光の花が咲く。

 それはまるで、彼女たちの心が一つになった証のように。

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終章 ──芽吹く縁


 夜が明けようとしていた。

 廃神社の境内を包んでいた闇は消え、夜露に濡れた花びらが朝日を受けて光を返す。

 莉緒はその光景を見つめながら、そっと手のひらを握った。

 掌には、淡く輝く花の刻印。──花守との正式な“契約”の証。


「これで、ほんとうに……私たち、ひとつになれたんだね」


 莉緒の声に、花守は柔らかく微笑んだ。

 淡いピンクの衣を揺らしながら、彼女は莉緒の隣に並ぶ。

 その背後で、凛と樹が静かに見守っていた。


「おめでとう、莉緒。これで正式に“霊縁師”として一人前だな」

 凛の声は穏やかだった。昨日までの戦いの傷がまだ癒えていないはずなのに、彼の瞳にはどこか誇らしさが宿っていた。

 樹も頷き、口元を綻ばせる。


「これで四人だね。僕たちは──チームだ」


 樹の言葉に、莉緒は思わず顔を上げた。

 凛、樹、花守、そして自分。

 それぞれ違う“縁”を持ちながらも、今ここで確かに結ばれた。

 この瞬間、彼女たちは“霊縁師チーム”として歩み始めたのだ。


 花守が掌を広げると、風が吹き抜ける。

 境内の中央に咲いた花が、ふわりと空へ舞い上がった。

 その花弁たちは四人の周りを巡り、淡い光の輪を描いてゆく。


『この花が枯れぬ限り、私たちの絆は続く。

 莉緒、あなたの“心の庭”を信じて。どんな闇が訪れても──きっとまた咲けるから。』


 莉緒は静かに頷いた。

 胸の奥に、小さな確信が灯る。

 それは“力”ではなく、“想い”だった。

 誰かの痛みを感じ取れる優しさ。

 誰かを守りたいと願う強さ。

 そのすべてが、霊縁師としての彼女を形作っていた。


「……ありがとう。みんな。これからは私が守る番だよ。」


 朝日が昇り、境内を黄金色に染めた。

 その光の中で、四人の影が一つに重なる。

 彼らの旅は、まだ始まったばかりだった。



そして──


 時は流れ、季節は海風の香る夏へ。

 莉緒たちは新たな拠点を得て、「霊縁会(れいえんかい)」を設立した。

 人と霊を繋ぐ“縁”を守るための小さな組織。

 仲間が増え、契約霊たちがそれぞれの願いと向き合い、笑い、時に涙した。


 だが、その裏で“黒装束”たちは再び動き始める。

 暗い海の底に潜む“主”が、何かを目覚めさせようとしていた。


 そして──莉緒の中で、封じられていた“時空属性”が揺らぎ始める。

 彼女が見た夢の中で、未来と過去が交差し、凛が光の中で消えていく。


『莉緒……君を、守れて……よかった。』


 その声を最後に、凛の姿は霧に溶けた。

 残された莉緒の瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。

◆主要キャラクター


莉緒(主人公)

• 属性:時空・土・雷・光・魂など複合属性

• 役割:霊縁師チームの指揮、全体調整、縁の選択


• 口調:タメ口(「私が行く!」「皆集まってくれる?」等)


• 属性:闘・火

• 役割:前衛・防御・戦闘補助

• 特徴:瞬間的判断力と攻撃力が高い

• 口調:砕けた口調で男勝り


• 属性:木・命・癒し

• 役割:治癒・支援・霊縁の維持

• 特徴:安定感、仲間の精神面サポート


花守

• 属性:水・魂

• 役割:縁の結び手・支援・精神安定

• 特徴:冷静、敬語で仲間をサポート(「莉緒さん」「皆さん大丈夫ですか?」等)



◆契約霊・主要霊縁


かぐや

属性

月霊(げつれい)/静寂・治癒・未来視の象徴

凛たちが扱う霊の中でも最古級に位置する“月の理”を司る存在。


冥花

• 属性:死・美・循環

• 役割:妖華界の王女、死と生の縁を調整

• 特徴:死を芸術として昇華する力、莉緒と共鳴


獄羅

• 属性:死・闇

• 役割:妖魔界の支配者、莉緒に興味を抱く

• 特徴:生者を拒むが、戦いの中で仲間と接触


ベノム

• 属性:毒

• 役割:莉緒が一人で契約した毒霊

• 特徴:絶望・堕落・命の境界の力を持つ


リヴ

• 属性:知・封印・魔法

• 役割:創命の塔に封印されていた魔女

• 特徴:全ての真実の管理者の役割を持つ、契約で覚醒


フロスト

• 属性:氷・冷静

• 役割:戦闘補助・結界形成

• 特徴:氷編で活躍


ガイアリオン

• 属性:大地・防御

• 役割:土の章での守護霊

• 特徴:大地の力を操る


ヴァルヴェシア(王)

• 属性:理・運命

• 役割:理の章で莉緒が契約

• 特徴:運命と法則の鍵、真実の扉を開く


黒の総装束

• 属性:無・虚・暗

• 役割:地獄編以降の対立勢力

• 特徴:世界の秩序や莉緒を手中に収めようとする、個々に下位から中核まで存在


あの方

• 属性:未知・全属性に影響

• 役割:人間界編で登場

• 特徴:正体不明、莉緒を利用して完全体化を目指す



序章 ──声のない声


第一章 ──見える少女


第二章 ──初めての契約


第三章 ──黒装束の影


第四章 ──守護の炎、癒しの樹


終章 ──芽吹く縁

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序章 ──声のない声


 雨が降っていた。

 しとしとと、夜の校庭を濡らす細い糸のような雨。

 街灯の光が滲み、世界の輪郭が曖昧に溶けていく。


 ──助けて。

 ──ねぇ、誰か。


 その声は、耳ではなく“心”に直接響いた。


 橘莉緒(たちばな・りお)は傘を差したまま、校門の前で足を止めた。

 誰もいない。

 聞こえるのは雨の音と、自分の呼吸だけ。

 なのに、確かに聞こえた。泣き声のような、か細い声が。


 「……また、だ。」


 莉緒は静かに息を吐く。

 この現象は小学生の頃から続いていた。

 人の“影”に混ざるようにして、見えてはいけないものが見える。

 誰にも話せない秘密。

 それが、橘莉緒という少女の“日常”だった。


 ──そこに、少女がいた。


 校舎の二階。割れた窓の向こう。

 白いワンピース姿の少女が、ずっとこちらを見ている。

 顔はぼやけ、瞳だけが闇の中で淡く光っていた。


 「……あなた、見えるの?」


 莉緒の喉がひとりでに動いた。

 その瞬間、冷たい風が吹き抜け、雨粒が横殴りに頬を打つ。

 気づけば──白い少女は目の前にいた。


 『やっと……見つけた』


 涙のような光が、少女の頬を伝い落ちた。

 莉緒は震えながらも、差し出した手を止められなかった。

 その手が霊の頬に触れた瞬間──


 胸の奥に、熱いものが流れ込む。

 見知らぬ記憶。途切れた声。消えた想い。

 莉緒の瞳が淡い緑に光った。


 「……あなたの声、聞こえる」


 霊の少女は微笑んだ。

 そして、雨の中に溶けるように消えていった。


 その夜から、莉緒の“霊縁師”としての運命が静かに動き出す。

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第一章 ──見える少女


 朝。

 雨上がりの空はどこまでも澄んでいて、昨日の夜の出来事がまるで夢のようだった。


 橘莉緒は制服の袖を整え、鏡の前でため息をつく。

 目の下には少しだけクマ。

 夜中まで、あの“声”のことを考えて眠れなかった。


 ──あれは確かにいた。

 ──でも、どうして私にだけ見えるの?


 そんな疑問を胸に抱いたまま、彼女は学校へ向かった。



 昼休み。

 校舎裏の桜の木の下、莉緒はひとりで弁当を広げる。

 その木は古く、いつの間にか「幽霊が出る」という噂が流れていた。

 だが莉緒にとっては、唯一“落ち着ける場所”でもあった。


 「……誰もいない、か」


 そう呟いた瞬間。


 ──風もないのに、桜の枝が揺れた。


 莉緒は箸を止め、息を呑む。

 何かが、近づいてくる。

 見えない“気配”が、確かに存在している。


 「……出てきて」


 そう言うと、桜の影がゆらりと形を変えた。


 ひとりの青年が、そこに立っていた。

 淡い木漏れ日のような髪色。深緑の和装。

 目はどこか憂いを帯びて、けれど優しい。


 「……やっと話せたな、莉緒」


 「え……? 私、あなたを知ってるの?」


 青年は微笑んで頷いた。


 「俺は樹(いつき)。

  お前の“守護霊”だ。ずっとお前を見守ってきた」


 莉緒は言葉を失った。

 昨日の出来事、あの光、あの声。すべてが繋がり始める。


 「守護霊……? それって……」


 「お前は“霊縁師(れいえんし)”。

  人と霊を結ぶ存在だ。見えるだけじゃない。話し、触れ、導くことができる。

  だが、その力は諸刃の剣。己を蝕むこともある」


 その時、背後から鋭い声が響いた。


 「説明が長い」


 振り向くと、今度は黒髪の少年が腕を組んで立っていた。

 凛とした空気を纏い、瞳は冷たい蒼。


 「俺は凛(りん)。樹の弟みたいなもんだ。

  守護霊、もう一柱。……お前、随分危なっかしいな」


 「え、二人も!?」


 凛はため息をつき、莉緒の額を軽く突く。


 「昨夜、霊の気配に触れたろ? 本来なら死んでてもおかしくねぇ。

  だが……お前の中に“特別な霊力”が眠ってる」


 樹が穏やかに続ける。


 「霊と縁を結ぶ者──霊縁師は、霊界と人間界の境を歩く存在だ。

  お前は、選ばれたんだよ。莉緒」


 莉緒の胸がざわめいた。

 “選ばれた”──その言葉が、重く響く。


 「……もし、見えることで誰かを救えるなら。

  私は、逃げない」


 その決意を聞いて、樹は静かに目を細めた。

 凛も僅かに口角を上げる。


 「ようやく始まるな」


 ──この瞬間、橘莉緒は「霊縁師」としての最初の一歩を踏み出した。



夜、莉緒の部屋の窓辺。

月の光が差し込む中、彼女の手の甲が一瞬、緑色に光った。


それはまだ、誰も知らない“契約の印”の予兆だった。

•*¨*•.¸¸💜‪꙳⋆🌟•*¨*•.¸¸💜‪꙳⋆🌟•*¨*•.¸¸💜‪꙳⋆

第二章 ──初めての契約


 春が終わりに近づく頃、町は桜色から新緑に変わっていた。

 橘莉緒は放課後、いつものように校舎裏の桜の木へ向かった。

 そこは彼女にとって、樹や凛と会話する“結界のような場所”だった。


 今日も、樹は木漏れ日のような姿で彼女の隣に立っていた。

 「どうした? 顔色がよくない」

 「……最近、ずっと夢を見るの。泣いてる花の夢」


 莉緒は胸に手を当てた。

 夢の中で、白い花畑がゆっくりと枯れていく。

 その中心に、少女の姿をした霊が膝をついて泣いていた。

 “助けて”と何度も繰り返す声──。


 「それは“呼び声”だ」

 凛が言った。

 「霊が、お前を選んだんだ。行こう、莉緒」



 夢に導かれるように、莉緒たちは町外れの廃神社に辿り着いた。

 鳥居は崩れ、境内には花の枯れた痕跡が無数に散っている。


 「……ここ、空気が重い」


 風も吹かないのに、花びらのような光の粒がふわりと舞った。

 そして、その中から現れた。


 白い髪、淡い桃色の瞳──花の精霊のような少女。

 だがその体はひび割れ、花弁が散るように崩れている。


 『……人間? ここに、何の用……?』


 莉緒は息を呑む。

 「あなた、泣いてた。夢で……私に助けを求めたよね?」


 霊は驚いたように目を見開く。

 『……私の声が、届いたの?』


 「うん。私、霊縁師……霊と縁を結ぶ者。あなたを救いたい」


 その言葉に、凛の眉が動く。

 「おい莉緒、まだ契約は──」

 「構わん」

 樹が静かに言った。

 「彼女の“本心”があれば、それでいい」


 少女──花の霊は微笑んだ。

 『私は“花守(はなもり)”。この地に咲く命を護る者……でも、

  人の争いで神社が壊れ、花々が枯れて……私もここに縛られたまま……』


 その声には、深い悲しみと孤独が混ざっていた。


 莉緒は迷わず一歩踏み出す。

 「じゃあ、私と契約して。もうひとりじゃない」


 『……契約?』


 「あなたと私の霊力を繋ぐ。あなたは自由を取り戻せる」


 花守は少し考え、静かに頷いた。

 『……わかった。私の花を、あなたに預ける』



 莉緒の右手が光に包まれる。

 花守が差し出した手を重ねると、空気が震えた。


 ──霊縁の儀、始動。


 足元に花の文様が広がり、莉緒の腕に緑と桃の刻印が浮かび上がる。

 彼女の髪が風に揺れ、樹と凛が見守る中、花守の身体が淡い光に変わっていく。


 『……ありがとう、莉緒。あなたの中で、私は咲き続ける』


 その瞬間、廃神社に風が吹き抜けた。

 枯れた花々が一斉に咲き誇り、神社全体が命を取り戻したかのようだった。


 莉緒は腕を見つめた。

 刻印が、淡く光を放っている。


 「これが……“契約の刻印”……」


 樹が微笑む。

 「それが霊縁師の証だ。お前は今、花守とひとつの命を共有している」


 凛も腕を組んで言った。

 「悪くねぇな。初仕事にしては上出来だ」


 莉緒は小さく笑った。

 「ありがとう、花守。私、絶対に無駄にしないから」


 その声に呼応するように、刻印が花びらのように輝いた。


 ──それが、莉緒の“最初の契約”だった。



 その夜。

 莉緒の夢の中で、花守が静かに微笑んでいた。


 『次に出会う時、あなたはもっと強くなっている。

  どうか、縁を繋ぎ続けて……霊縁師・橘莉緒』


 夢の中に花の香りが広がり、莉緒の心に“確かな温もり”が刻まれた。

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第三章 ──黒装束の影


 静かな夜。

 莉緒は眠れずにいた。

 花守との契約を結んでから三日。

 刻印が時折、熱を持つように脈打つ。

 その度に、彼女は胸の奥に誰かの声を感じた。


 ──“見つけたぞ、霊縁師”──


 唐突に、窓の外で“ざり”と砂利を踏む音がした。

 気配が……ひとつ、ふたつ、いや──五つ。


 「……来たわね」


 莉緒はゆっくり立ち上がる。

 樹と凛がすでに現れていた。

 「感じるか、莉緒。闇の霊気だ」

 「油断するな。あいつらは“霊を狩る”奴らだ」


 外に出ると、そこには黒装束の一団が立っていた。

 顔を隠す仮面、黒く滲む霊力。

 人間でありながら霊を“武器”に変える、禁忌の術を使う者たち。


 「初めまして、霊縁師。お前が“花の契約者”だな」


 中央の男が口を開いた。

 声は低く冷たい。

 「俺たちは“黒禍(こくか)”──霊を支配し、この世を浄化する組織だ。

  お前のような存在は、我らの“計画”の邪魔だ」


 「……霊を浄化? 違う、あなたたちは“奪ってる”だけ」


 男が指を鳴らすと、周囲の影が蠢いた。

 黒い煙のような霊たちが、一斉に莉緒へ襲いかかる。


 「凛、樹!」


 莉緒の呼び声に応え、二人の守護霊が前へ出る。

 樹が風を操り、凛が光刃を放つ。

 だが敵の霊は数が多く、次々と形を変えて襲いかかってくる。


 「莉緒、後ろ!」

 凛の声に反応するより早く、黒い腕が莉緒を掴んだ。

 霊力を吸い取られる感覚。体が重くなる。


 その瞬間──


 莉緒の右手の刻印が、強く輝いた。

 眩い花の光が闇を裂き、温かな風が吹き抜ける。


 『莉緒、お願い。私を信じて──』


 莉緒の胸の奥から、花守の声が響いた。

 「……行こう、花守!」


 彼女の周囲に花びらが舞う。

 刻印から放たれた光が花の形を描き、その中心から一人の少女が姿を現した。

 純白の衣に花弁の冠、瞳は桃色に輝いている。


 『花縁・顕現(けんげん)──花守、咲命の陣(しょうめいのじん)!』


 莉緒の身体に花守の霊力が流れ込み、髪が風に揺れて緑と桃に染まる。

 空気そのものが柔らかく震え、無数の光の花が敵の霊を包み込んだ。


 「な……これは……!?」

 黒装束の男が叫ぶ。

 光の花に包まれた霊たちは次々に穏やかな表情に変わり、やがて消えていった。

 苦しみから解放されたように。


 『魂は奪うものではなく、還すもの……それが、霊縁師の道』


 花守の声が響く。

 莉緒はその言葉に合わせて手を広げ、祈るように呟いた。


 「──咲いて、そして還れ」


 花の光が夜空に溶け、風が優しく吹き抜けた。


 黒装束の男は舌打ちし、後退する。

 「チッ……やはり“花”は厄介だ。次に会う時は、命はないぞ」


 彼らは闇の霧となり、姿を消した。



 静寂。

 風に舞う花びらが、月光を受けてきらめく。


 莉緒は膝をつき、息を整えながら微笑んだ。

 「……ありがとう、花守」


 『こちらこそ。私を“使ってくれた”のは初めてだった』


 花守は柔らかく笑い、莉緒の背後にふわりと消える。

 その瞬間、莉緒の刻印が淡く光ったまま、静かに鼓動を打った。


 樹が近づき、優しく肩に手を置く。

 「見事だった、莉緒。

  契約霊の力を引き出せる者はそう多くない」


 凛も小さく頷く。

 「黒禍は今後、必ず動く。気を抜くな」


 莉緒は夜空を見上げた。

 月の下、散る花びらが舞う。


 ──まだ始まったばかりだ。

 救える霊がいるなら、私は迷わない。


 そう、胸の奥で静かに誓った。

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第四章 ──守護の炎、癒しの樹


 黒装束の一団が放った怨念の波動は、夜の空気を裂くようにうねっていた。

 瓦礫の散らばる廃神社の境内で、莉緒は息を荒げながら立ち尽くしていた。

 霊縁師としての力を得てから、まだ数日。目の前の“闇”は、彼女にはあまりにも重かった。


「……くっ……っ、凛!」


 声を振り絞ると、倒れかけた凛がかすかに笑った。

 彼の掌からは微かな光が漏れている。癒しの力。しかし、それでは追いつかない。

 闇の怨霊が再び咆哮を上げ、黒い靄が莉緒の足元を飲み込もうとしたその時――


「莉緒!」


 凛の声とほぼ同時に、莉緒の胸の刻印が強く輝いた。

 花弁のように光が舞い、そこから柔らかな声が響く。


『──もう恐れなくていいよ、莉緒。今度は私が守る番。』


 その声は、あの日出会った“花守”のものだった。

 莉緒の背後に立つ光の人影は、薄紅の花びらを纏いながら形を取っていく。

 彼女の髪は風に揺れ、瞳は静かに燃えていた。


「花守……!」


 莉緒が名を呼ぶと同時に、彼女の足元から光の蔦が広がっていく。

 枯れ果てた境内の地面から、一輪、また一輪と花が咲いた。

 その中心で、花守は両手を広げる。


『霊縁の誓いにより──芽吹け、命の環(わ)。』


 大地が震えた。光の蔦が怨霊の影を包み込み、花弁の光が一斉に舞う。

 怨霊たちの叫びが空に消え、闇はやがて淡い光の粒へと還っていった。


 沈黙。

 夜風が吹き抜ける中、莉緒は膝をついた。涙が頬を伝う。

 恐怖ではなかった。胸の奥にある“温かさ”に、自然と涙が溢れていた。


「ありがとう……花守……私、もう逃げない。」


 花守は微笑み、莉緒の肩に手を置いた。

 その指先は光のように柔らかく、優しく震えていた。


『うん。莉緒が願えば、私は何度でも咲く。だって私は──“守護”の花だから。』


 莉緒が微笑み返すと、凛がゆっくりと立ち上がる。

 彼の背後に、淡い緑の光が揺れていた。まるで若木が芽吹くように。


「……見えるかい、莉緒? 僕の“癒しの樹”も、ようやく根を張り始めたみたいだ。」


 凛の言葉に、莉緒は頷いた。

 互いの力が共鳴するのを、確かに感じた。炎と樹。守護と癒し。

 そしてその中心にあるのは、誰かを想う“心”だった。


 花守がふっと笑い、二人の間に風が通り抜けた。


『この絆は、まだ始まったばかり。けれど──もう、寂しくはないね。』


 莉緒は空を見上げた。

 黒い雲が裂け、夜空に光の花が咲く。

 それはまるで、彼女たちの心が一つになった証のように。

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最終章 ──芽吹く縁


 夜が明けようとしていた。

 廃神社の境内を包んでいた闇は消え、夜露に濡れた花びらが朝日を受けて光を返す。

 莉緒はその光景を見つめながら、そっと手のひらを握った。

 掌には、淡く輝く花の刻印。──花守との正式な“契約”の証。


「これで、ほんとうに……私たち、ひとつになれたんだね」


 莉緒の声に、花守は柔らかく微笑んだ。

 淡いピンクの衣を揺らしながら、彼女は莉緒の隣に並ぶ。

 その背後で、凛と樹が静かに見守っていた。


「おめでとう、莉緒。これで正式に“霊縁師”として一人前だな」

 凛の声は穏やかだった。昨日までの戦いの傷がまだ癒えていないはずなのに、彼の瞳にはどこか誇らしさが宿っていた。

 樹も頷き、口元を綻ばせる。


「これで四人だね。僕たちは──チームだ」


 樹の言葉に、莉緒は思わず顔を上げた。

 凛、樹、花守、そして自分。

 それぞれ違う“縁”を持ちながらも、今ここで確かに結ばれた。

 この瞬間、彼女たちは“霊縁師チーム”として歩み始めたのだ。


 花守が掌を広げると、風が吹き抜ける。

 境内の中央に咲いた花が、ふわりと空へ舞い上がった。

 その花弁たちは四人の周りを巡り、淡い光の輪を描いてゆく。


『この花が枯れぬ限り、私たちの絆は続く。

 莉緒、あなたの“心の庭”を信じて。どんな闇が訪れても──きっとまた咲けるから。』


 莉緒は静かに頷いた。

 胸の奥に、小さな確信が灯る。

 それは“力”ではなく、“想い”だった。

 誰かの痛みを感じ取れる優しさ。

 誰かを守りたいと願う強さ。

 そのすべてが、霊縁師としての彼女を形作っていた。


「……ありがとう。みんな。これからは私が守る番だよ。」


 朝日が昇り、境内を黄金色に染めた。

 その光の中で、四人の影が一つに重なる。

 彼らの旅は、まだ始まったばかりだった。



そして──


 時は流れ、季節は海風の香る夏へ。

 莉緒たちは新たな拠点を得て、「霊縁会(れいえんかい)」を設立した。

 人と霊を繋ぐ“縁”を守るための小さな組織。

 仲間が増え、契約霊たちがそれぞれの願いと向き合い、笑い、時に涙した。


 だが、その裏で“黒装束”たちは再び動き始める。

 暗い海の底に潜む“主”が、何かを目覚めさせようとしていた。


 そして──莉緒の中で、封じられていた“時空属性”が揺らぎ始める。

 彼女が見た夢の中で、未来と過去が交差し、凛が光の中で消えていく。


『莉緒……君を、守れて……よかった。』


 その声を最後に、凛の姿は霧に溶けた。

 残された莉緒の瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。

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