第22話 (第三部:四聖雷獣編)第三話:満貫組手 in 広島

緊急招集で呼ばれたのは、鎌田軟骨だった。青龍派の道場で、雀悟と軟骨が面談をしていた。

「天下の青龍派が、人手不足だべか? 天才のおらを辞めさせるからだ」

「その節は悪かった。前師範代の考えがあっての破門だ。許してくれ。しかし今回ばかりは、君の力を貸してくれ」雀悟が頭を下げた。

「どうしようかな~」ゴネているところに、一馬が現れた。

「君の噂は、色々聞いている。数々の記録を残した逸材だそうじゃないか」

「まぁね。だけんど、おらは剣が苦手だ」

「今回君には、『満貫組手』に参加してもらいたい。安芸(広島)まで来てもらえばいい。旅費も日当も出すよ。そして、敵味方問わず、一人撃破するごとに三万円出そう。その代わり、この撃破報酬に関しては秘密にして欲しい。これは、天才の君にしか出せない条件だ」

「やる!」こうして、アッサリ軟骨の参加が決まった。表向きには日当と旅費だけを支払う約束で親善試合に参加した。雀悟と一馬の思惑は一致した。揃いも揃って、青龍派の門弟が信用できないから苦肉の策だった。軟骨を投入することにより、間者(スパイ)を何人か炙り出す作戦だった。そして、これが功を奏した。


安芸へ向かう道中のことだった。青龍派の一同は、備中(岡山県の西部)の茶屋で休憩をしていた。疋田が、鎌田と積もる話をしていた。進之介派、二人の話を何となく聞いていた。

「軟骨は、いいな~。富くじが当たって、悠々自適の生活か。おれも富くじ買おうかな~」

「止めておけ、負債の蓄積になるだけだ」

「当たった奴に言われても、説得力無いよな」

「おらは、引きの天才だ。前世の恩恵は太いだでよ」

「(まだ、前世自慢をしているんだな~)」懐かしく思いつつも、疋田は何も言い返せなかった。

「軟骨の兄ちゃんは、今何をしてるの?」進之介が尋ねた。

「おらは今、勉強してるだ」

「何の?」

「今に鉄の時代が来るだ。鉄は金になる!」

「ふ~ん」進之介は、興味がなさそうに頷いた。

「ちょっと厠(かわや)(べんじょ)に行ってくる」といって席を外した時に、黒い着物の女とすれ違った。着物には、黄色い筋が何本か入っていた。黒い髪の毛に何本かのメッシュが入っていた。一目見れば、とても印象的な姿形だったが進之介は何の反応も見せなかった。


白虎流派の道場がある安芸に着くと、雀悟たちは道場へ案内された。師範代の太刀風八刀斎(たちかぜばっとうさい)が出迎えた。

「これは、これは、遠路はるばる、ようこそおいでくださいました」

「よろしくお願いします」雀悟が応えた。

「一馬君の方は、副師範が対応します」

「承知致しました」そこに、不破輝雷美が親衛隊を数名引き連れて現れた。

「白虎流派のみなさ~ん、青龍派のみなさ~ん、こんなところでみんな揃って、何用ですか~? 怪しいですね~。白虎流派と青龍派がお揃いで~。何の密談ですか~?」

「!」

「あ~! 今度こそ!」輝雷美は、雀悟の顔を見るなり、手を掴んで胸を触らせた。

「もにゅもにゅもにゅ・・・。これで、ど~う?」雀悟は、反応しなかった。

「一馬と間違えてますか?」

「!」輝雷美は赤面した。

「や~だ! 間違えちゃった~!」輝雷美の【情報漏洩(ハッカー)】は、またも不発した。そこに、軟骨が乱入した。

「何だ、何だ? 綺麗なお姉ちゃんが触らせてくれるだか?」輝雷美は、手を伸ばして胸を触ろうとした軟骨の手を跳ね除けた。

「ちょっと、汚い手で触らない・・・」輝雷美に電撃が走った。

「!!!」何この性能(スペック)。

「間違いじゃないかしら?」参考までに、疋田の手も握ってみた。

「あれ? コイツは、ふつー」と、言うことは、

「間違いじゃ、な、い! すっご~い! 見つけちゃった~」輝雷美は小躍りしつづけた。興奮が止まらない様子だった。


性能(スペック)   軟骨  疋田  平均

常識        -2   18   20

他者へのリスペクト -5   21   20

運        150   25   20

潜在能力     220   35   20

計算力       8   52   20

【情報漏洩(ハッカー)】輝雷美の忍術。相手が、金銭欲・性欲・出世欲などのあらゆる欲を出した時に体に触れていると、その人の本心・才能・限界・潜在能力(せんざいのうりょく)の全てを読み取れる。【意志伝達】の発展版。


一馬たちは、別動隊で厳島神社へ向かっていた。白虎流派の副師範である蠣崎潤之介(かきざきじゅんのすけ)が出迎えた。

「この度は、ようこそおいでくださいました」

「その節は、お世話さまでした」そこに伝令が飛んできた。

「道場に、不破輝雷美が現れたそうです」

「ゲッ、あの爆弾雷娘(ばくだんかみなりむすめ)か! 何しに来たんだ? 雀悟たちは、厄介なのを相手にしたな」同情した。


その頃、白虎流派の道場では、

「え~っと。我々は、青龍派と月見でもしようかと思っておりました」八刀斎は、必死に胡麻化そうとした。しかし、上機嫌の輝雷美は、

「構わないわよ~。もう、何でも好きにしちゃて~」

「輝雷美さま、我々は任務が・・・」

「あんたたち、休んでてい~わよ~」白虎流派と青龍派を監視しに来たはずだが、任務はどうでもよくなった様子だった。そして、やたらと軟骨へのアプローチが始まった。

「兄さん、強いの~?」軟骨の頬をさらりと触った。

「おらは、こん中じゃ一番強いど」

「あら~、すご~い。見せて~」軟骨の耳元で囁いた。

「い~ど~」周りは、少しずつドン引きし始めた。そして、輝雷美を引きはがし、ようやく満貫組手が始まった。


人数の都合で、軟骨と征二が卓に入った。

[一回戦]

「俺が一番強いだと~」白虎流派の敵意は露骨だった。

「あの野郎、ふざけやがって」

「あいつは、青龍派を首になった奴なんだろ?」

「そういう話だ」陰口と罵詈雑言は、三巡目で止まった。

「自摸! 役満! 四暗刻!」軟骨以外が吹き飛んだ!

「開局早々役満か?」

「何だ! アイツは!」

「気のせいだろ、偶然だろ」

「征二の野郎、何やってんだよ!」征二が飛んだ瞬間に、征二に対して舌打ちや陰口が叩かれた。征二が白虎流派と通じていたのが丸分かりだった。

「きゃ~、つっよ~い!」輝雷美だけが騒いでいた。

「やはり、アイツは通じていたか」雀悟は、胸をなでおろした。

「これで、また一人炙り出されたな」疋田も、鎌田が味方で安心した。続いて征二の代わりに清野潤吾が卓に入った。

[二回戦]

「これで、アイツには、しばらく手が入らないだろう」

「集中砲火で、丸焦げにしてやよ」しかし、同卓の不幸は軟骨が親だったことだった。

「和了ってるだ! 天和!」軟骨以外が吹き飛んだ!

「何だ! コイツ!」

「こんなのアリか?」

「青龍派も、何も出来ていないぞ。味方も全員倒すつもりか? そんなの無茶苦茶だ!」

「すっご~い! すっご~い!」輝雷美の興奮は、止まらなかった。潤吾の代わりに海東進之介が卓に入った。輝雷美をチラリとみたが、輝雷美は目を合わせなかった。

[三回戦]

「自摸! 三倍満! 足りねぇだ!」鎌田は、仕方なさそうに和了した。

「ちっ」

「何で、毎回アイツだけに手が入るんだよ!」

「また連荘か?」そして、次局に役満を自模った。

「すっご~い! アナタ素敵~!!」

「おらは、天才だ! 輝雷美、もっと褒めろ!」

「天才よあなたは! すてき~!」軟骨と輝雷美だけが盛り上がっていた。白虎流派はお通夜状態だった。

「青龍派の面子がいねぇだ。疲れたから、休むだ。師範代、い~よね?」

「あぁ、ご苦労様でした」といって、軟骨を労った。

「九人飛ばしただ。二十七万だ」

「えっ? 何それ~、貰えるの~?」

「秘密だで」

「あっちで、聞かせて~」

「役目が終わったで、いいだ~」二人は、物陰に消えた。

「何という、凄い逸材だ! 三連続で役満を和了るとは・・・」八刀斎は、軟骨の才能に震えた。


傍らで見ていた雀悟と疋田は嘆息した。

「征二が白虎流派と通じていたか」

「清野の進之介も飛ばされたけど、まだ信用できねえな。雀武帝親衛隊の登場も誤算だ。しかし、鎌田を連れて来たのは大正解だ」

「あんなのが、敵にいると厄介だからな。仲間として囲い込んでおこう」

「同感だ。次は『封印戦』か? どんなルールなんだ? やっと俺たちの出番だ」


満貫組手の結果は即座に一馬たちに伝えられた。

「! その結果はまことか!」蠣崎の冷汗と脇汗が止まらなかった。

「なんて奴だ・・・。天才だ」一馬は、驚いた。そこにまたしても伝令が飛んできた。

「不破輝雷美が鎌田軟骨と消えたそうです」

「蓼食う虫も好き・・・もごもご・・」氷月の発言は、止められた。

「それ以上、おっしゃってはいけません」碧竜が、氷月の発言をとめた。

一馬は、蠣崎に向き直ると言った。

「あちらは、カタが着いたようだ。こちらはこちらで、始めよう!」

「・・・そうしましょう。こちらで行うのは初心者接待用の『漂流麻雀』です。お三方のうちで、麻雀が得意でない方を接待します」氷月と碧竜は自分が指名されたことを悟った。


もとより白虎流派は、伊賀や甲賀、風魔などの忍者組織とは違っていた。白虎流派は、玄武龍派と同様に前向きに同盟を考えていた。表立った同盟は周囲の大名に不信感をもたらすので、どちらも水面下での同盟を希望していた。厳島神社の大鳥居を背に、麻雀を知らなくても楽しめる、ゆる~い『接待麻雀』が始まった。


〔接待麻雀 in 厳島神社 漂流中〕

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