GAME05 射撃訓練ショー

目の前に広がるただの白い空間。

感覚的に豪華客船が一つ入りそうなくらいの大きさの部屋が目の前に広がっていた。


任務の説明を終えたVに手を握られて、「カンナも手を握るのです!」と途中参加で僕の手を握ったカンナ、その後を何かブツブツと呟きながら着いてくるアカツキと共に来たのは訓練場だという場所だった。


「え、えっと…ここは…?」

何もないその訓練場にて、僕はVに視線を向ける…


「訓練場です。先ほども言いましたけどね。」

言いながら、Vはその腕に着用されている腕時計の画面をワンタップする。


時計からホログラムが表示されると、まるでリモコンのように操作した。

すると、ガコン!と大きな音と振動が床を伝わって、少し離れた場所にあった床が真下へと下がって、さらにその空いた穴から柱が伸びていく。


それは、だんだんと、訓練場全体に響くように広がっていき、気づけば、障害物の溢れる一つのステージとして成り立つ。


「それでは、初回の訓練を始めます。次回の訓練ではちゃんと教官が来ますが、今回は説明だけします。」

Vが淡々と言葉を発すると、今度はすぐ近くの床が正方形の光のラインを描き、そこから棚のようなものが床から押し出された。


地面からモグラのように出てきたそれは、黒く輝く金属に包まれて、次の瞬間、一気に金属の箱が開いて、中からは拳銃やライフル銃などが幾つも出てきた。


「まず、ユミーさんの能力ですが…」

言いながらVさんは腰から銃を取り出すと、僕の腕を掴んで引き金を引いた。

反応する暇も与えられず、その銃弾が僕の皮膚を突き抜けて、血飛沫が舞い散った。


「あだっ!?!?!?!?って…い、痛くない…」

視界の中には弾丸によって赤い血が溢れるという、なんとも痛々しい光景なのに全く痛みを感じない。


しかしながらも一部の感覚が抜けた感覚と、さらにその周りを包む血の暖かが逆に吐き気を催させる。


そして、その穴を埋めるかのように筋肉繊維が湧き上がって、その上から皮膚が形成される。


「な、何これ…」

言葉を失い、現実かどうかも区別がつかないほどの感覚。

気づくと、いつの間にか、その穴が空いていた場所の感覚が戻っている。


「ユミーさんの能力は超回復です。それに伴って痛覚等がありません。基本的に不死身ですが、脳などを破壊された場合、一定時間動けない、火傷の箇所は再生時間が長くなる等、色々な弱点もあります。」


「は、はぁ…」


「ユミー…大丈夫…?」

すると、腕を押さえていた僕をカンナが心配してくれる。

小さい手がその腕に触れて少しくすぐったい感覚を覚えた。


「あ、うん…ありがとう…」

正直、自分が初めて人間じゃないということを叩きつけられてあまり大丈夫じゃないけども…


「………それじゃあ、次は射撃訓練です。射撃訓練では、まず向こうにあるあるような的に向かって銃弾を放っていただきます。

言いながらVは僕に拳銃を渡すと、「どうぞ。」と呟いた。


本物の銃の重さが手にのし掛かる。

金属の重さが、弾丸の重さが、そして何より責任の重さが僕の精神を抉る。


「ぼ、僕が…こんなの持って…大丈夫なの…?」

まだ消えないクラスメイトの感触が蘇る。

銃口が震えて、どうも狙いを定められそうにない。


「大丈夫…ですよ…私たちがいるから…」

僕の言葉よりも震えた声で目元の隠れたアカツキさんが僕の手包んだ。

少し下手な笑顔を浮かべるアカツキさん。


「ユミーさん。これはあなたが人を救うために必要なプロセスなんです。私は…その銃がきっと正義だけに向けられることを…信じてますから。」

言いながらVさんは柔らかい笑みを浮かべる。


あ、あんな顔できるんだ…


「わ…わかった…」

僕が言うと、「が…頑張ってくだ…さい…」と言い残してアカツキさんは手を離す。


僕はそのアカツキさんの温もり、カンナさんの元気な声、Vさんの柔らかい笑みを思い出しながら、銃口をその的に向けた。


「い…いきます!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る