第20話 シスコン力さえあれば?
「ふう……。準備不足だったな」
朝、討伐依頼がきたけど、6時間かけても倒せなかった。
「中途半端な情報だと、逆に混乱するんだよな。なんか後一手足らない感じだ」
新しい討伐依頼だったけど、かなり難しい。
倒せなくはないんだけど……、現状では無理がある。
情報集めから始めないといけないな。まあ、期間は、3日だったから、のんびり攻略しよう。
「長距離射撃が苦手な俺には、ちと荷が重いな」
俺は、アバターを街に戻して、ログアウトした。
ゴーグルとヘッドフォンを外す。
「だっさ! 何負けてんの? 今日のあーしの仕事ないじゃん」
驚いて横を見ると、妹がいた。
それと……、後2人。
(すっげぇ、綺麗な人だな。アイドル並じゃん)
「なに妹無視して、鼻の下伸ばしてんの!?」
おい、耳を引っ張るな! 痛いんじゃ!
「伸ばしてねぇ。つうか、友達か? 学生っぽいから、社員じゃないよな?」
やべぇ……。顔に出ていたか。クールを装わないと。
つうか自分で言ってて思う。友人の訳がない。大学生くらいだし。
「莉奈さんとコラボ配信している。雪城です」
「同じく、加賀美です」
配信者の先輩ぽい。俺と同じ準社員だと思う。
妹は、何の配信するかが決まらずに、まだ専用チャンネルが開設されていない。
それで、同じ会社の先輩に挨拶回りしてんだったな。
そっか、配信者の先輩か。
妹が、パイセンと呼んでいる人達だ。
正直、『アバターいらなくね?』ってくらいの美少女達だ。
癖なのない黒髪ストレートの和風美人の雪城さん。
金髪ギャルそのままの加賀美さん。
女性としては、背が高い方だろう。
妹が、150センチメートル足らないくらいだから、並ぶと余計目立つ。
「だ・か・ら、なに鼻の下伸ばしてんの?」
「二回言っていない?」
妹の軽蔑の視線が痛い。
俺だって、美人さんを鑑賞したい欲求はあるんですよ。
「うふふっ。莉奈ちゃんのお兄さんって、実在していたんだね~」
「あの神業動画の制作者なんですよね? 今度、一緒にボス戦したいな~」
加賀美さんは、ソルヴァリア・ハンティング3の配信もしているのか?
「お兄に期待するのは止めてね。緊張しいで、ソロじゃないと動けないから」
その通りです。今は美人さんと一緒の部屋で、緊張しています。
汗が止まりません。
「ふ~ん。お兄さんは、素材はいいんじゃない? ちょっと髪型整えてさ、着飾ればモデルくらいはできそうだよ?」
雪城さんが、俺の頬に手を触れる。硬直して、動けないですよ。
無理です。人目に耐えられないんですって。
「甲斐性のない、ダメ人間なんよ? もらってくれる?」
兄を、モノ扱いするんじゃない。
ここで水樹さんが来た。
「休憩終わりです。会議室に戻ってください。今後の配信の方針をご説明いたします」
「「「は~い」」」
「またね、お兄さん」「う~ん、お兄さんとのコラボもいいかな~」
「あーしの友達と親しくなりたかったら、動画制作がんばってね~。甲斐性を少しは見せてよね」
水樹さんと、三人が部屋から出て行った。
香水の匂いが、少し残っているな……。
「アニノイゲンヲミセテヤル……」
なんか……、燃えてた。
なにが甲斐性だ! 今まで食わせてやってたのに!
かっち~ん、来た。(怒)
配信仲間を連れて来て、兄煽りか。上等だ! 受けて立ってやる!
俺は再度、ゴーグルを装着した。
「指示に従った中途半端な装備が、良くなかった。射撃じゃダメだ。何時もの盾スタイルに戻そう! あははははっ……。そうだ、俺の一番戦いやすいスタイルで勝ってこそ意味がある!」
装備が決まった。
今日の失敗を思い出して、戦術を組み立てる。
集中力が増しているのを感じる。
「この魔物の問題点は、回避しきれない攻撃回数だ。2秒以上先の予測を30分間持続して、0.1秒以下で次の行動を思考する。コントローラーの操作を反射で行えば……、勝てる!」
俺は、勝てるイメージを構築した。
思考と反射を並列処理すれば……、勝てる!
──ドカン、ドカン
「爪、牙、ブレス、尻尾の攻撃。弱体魔法……。盾で受けて、シールドバッシュ後に相手の死角に移動して、次の攻撃を回避する! あははははっ! 余裕、余裕!! 楽しくなってきた! とっとと、倒れろよ!」
──カチカチカチカチ……
(指が痺れてきたけど、後少しだ!)
「集中しろ! 俺!」
………
……
…
「はあ、はあ、倒した。時間は29分01秒か……。動画保存を停止して、一度休もう」
ログアウトした後だった。
そこで意識が途切れた。多分、酸欠だと思う。
◇
その日、会議室に開発部の人達が集まっていた。
後藤室長が、議題を上げる。本日の達人の動画だった。
──カチ
大型スクリーンに達人のボス魔物討伐の動画が映され、再生が終わった。
視聴した全員が、頭を抱えている。
後藤室長が口を開いた。
「達人君の操作をどう思うかね? 私は、このゲームだけではなく、今まで見たどんなゲーマーよりも優れていると思うのだが……」
「ゲーム設定は、人間の反射できる限界ギリギリを攻めております。しかも、思考を伴う設定としており、僅かでも迷えば、即死すると思われたのですが……。クリアされてしまいました」
「確認するが、AIではないのだよな? もしくは、不正プログラマムや、外部ツールの確認をお願いしたいのだが」
「本社にてゲーム攻略を行ってもらっています。スマートフォンの電波まで確認していますが、不正の形跡はありません。良い方がアレなのですが……、マニュアルに近い操作方法です。ソフトに頼れる部分まで操作していました」
全員のため息が聞こえた。
「攻略度としては、どれくらいなのか教えてほしい」
「そうですね。攻略度は50%と言ったところです。武器は、最終装備や最高級品ではないですし、まず、盾で防御を行う発想が間違っております。設計では、遠距離からの弓矢や砲撃を行うことを想定していました。それと……、5~6人での討伐を想定していましたし」
今度は、別の社員だ。
「あんな超近接戦闘で完封されては、どんな魔物をデザインしても倒される可能性があります。達人君対策として、麻痺や回避不可能の範囲攻撃を実装しても、どんな行動に出るか……。いえ、それだと、今主流の魔導師が喜んでしまい、本末転倒になるので、達人君対策は熟考しなければならず……」
全員が、こめかみを抑える。
「賃金を出しているとはいえ、何故そこまでのモチベーションを保てるというのだ? 鼻血を出して倒れたのだろう? 脳血管が切れるほどの集中力。その原動力──熱を何処から生み出しているというのか……。私から言わせてもらえれば、他にもっと楽な仕事など多々あるだろうに」
水樹が答える。
「私の知る限りですが、妹さんに煽られた直後に、とてつもないスコアを出す傾向があります。キレた様な表情の後に、
水樹が、達人の『かっちーん』を説明しようとしたが、誰も理解できない。理解できる訳がなかった。
達人が『かっちーん』した場合は、自身のスペックを大幅に超えるステータスを発現するのだが、リアルで体現させる人間がどれだけいるというのだろうか。
「その後、鼻血を出して倒れていたのだろう?
達人は妹に煽られると、寿命を削るほどの集中力を発揮でいるのを、後藤は言い当てている。流石、人事担当だ。
「医者の話では、バイタルは安定しているとのことです。ですが……、現状を続けさせるのは危険かと」
「うむ……。労災認定の方向で動いてくれ。それと、妹の莉奈さんは?」
医者は、CTスキャンで脳にダメージのないことを確認していた。
まだ、達人の意識が戻っていないので、過労の診断を下したのだ。
それを踏まえて、後藤は三日間の入院を指示している。
「看病しております。今日の録音と動画配信は、全てキャンセルにしました。それと学校も休むそうです」
「水樹君。莉奈さんは中学生なんだ、引き続きフォローを頼む」
「心得ております。数年すれば、我が社の看板になりえる人材……。メンタルケアも滞りなく進めます」
達人と莉奈……。
過度な期待をかけられているのを、本人達はまだ知らない。
「今後の、達人君の配信なのだが……。配信部は、大爆笑で作業を進めている。本人の、あの狂気じみた声を乗せて配信したいと言っている。却下したがね」
いっちゃっている時の達人は、傍から見れば狂人でしかない。配信などできる筈がなかったが、配信部は面白ければなんでもいいのだ。配信部は、面白いネタを常に探していて、達人がツボにはまっていた。
世間の評価も、会社の株価も気にしない……。そんな変人が集まり、配信部を作ってしまった。
開発部課長が、口を開いた。
「正直、ゴリ押し過ぎて誰も再現できません。達人君も二度目は無理でしょう。配信しても信じられるか怪しく、我が社の信用問題に発展しかねないほどの神業です。これからは、長年攻略されていない魔物に対し、開発部から適切な装備を渡し、攻略方法を覚えてから、倒してもらいたいと思います。まあ、それでもソロでは、最高難易度なのですが……。配信できない神業よりも、遊ばれる方がマシだと思います」
「その方向で頼む。特に武器だ。射撃系を苦手としているみたいだから、射撃武器を変えない様に指示を出してもらいたい。くれぐれも、近接武器は使わせない様に。それと、達人君にバイタルを測定する装置を身に着けてもらおうか。何か用意を頼む」
「市販品ですが、腕時計型を用意しております。医務室と秘書室に直通で連絡が行く設定としました。異常があれば、即刻達人さんの個室を停電させる工事を行う予定でもおります」
各社員は、会議が始まる前にそれぞれのアイディアを用意しており、後は後藤室長が裁可を降ろすだけで良くなっていた。
「今日の対策は、それで行こうか。問題は……、原因だな。発動条件とも言える。集中力のある青年だとは思ったが、限界を超える
水樹が答える。
「本日の達人さんと関わった人物からの予想となりますが、原因は妹の莉奈さんに煽られたからとしか、言えません……。先ほどの繰り返しになりますが……、それ以外に変わった点が認められないのです」
その言葉を聞いて、周囲がザワザワし出した。
「……ふっ。ゲームの攻略に必要なのは、情報力や戦略・戦術、資金力ではないと言うのかね? 兄弟愛、いや──
──シーン
その場にいた、全ての人間が反論できなかった。
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