第17話 久々の傭兵
「ふう~。二回目の討伐完了っと。好きな装備で倒してくださいって言われてもな。一回倒しちゃったから、戦略・戦術を考える必要がなかった。でも短剣二刀流よりも、両手斧の方が効率良いのは理解した……かな。時間的にだけど」
武器固定は、効率が悪いことが分かった。
俺も、両手武器を習得する時がきたみたいだ。
「そういえば、妹には録音の仕事がこなかったらしいな。昨日撮影した動画は、配信に適さない動画だったのかな? それで今日は二回目? 理由を聞きたいよ」
誰も教えてくれないけどね。
メールの指示に従うだけだ。
それと、今日はボス
そうなると、俺はセカンドキャラで資金集めをするくらいしかない。
毎日熟していたルーティーンを、失いたくないのもある。
感覚が鈍ると、ログインしても何もせずに時間を溶かすことになる。
「さて、まずは募集を聞くか。二週間程度だけど、久々な気がする」
とりあえず、広場で座って待つことにした。
そんな時だった。
「おう、ハイエナじゃないか。 今日は、セカンドキャラか? 傭兵を集めているんだが、久々にどうだ?」
いきなり声をかけられる。
なじみのあるパーティーリーダーだ。二週間ぶりくらいなんだけど、『久々』になるんだな。
ゲームでも人付き合いが希薄な俺に話しかけてくれる、良い奴なんだよな。
こいつの名前は、アイクだ。
1年以上の付き合いがある。
俺が付き合える、数少ない奴でもある。
「久々だね、アイク。このキャラだと、装備も
「おう、盾なしの荷物持ちだな。それでも頼みたい。走り回って、ポーションで味方を回復してくれるだけでも生存率が大分違うんだしな」
今日は、薬品を使った回復役になりそうだな。
「それでは、詳細を教えてくれ」
◇
(よりにもよって、
俺が倒して、公式として配信した魔物だった。
口には出せない。何を言われるか分かったもんじゃない。
それと、順番待ちだな。聞いてみるか。
「いいのか? 倒されちゃうと、一定時間POPしないぞ? 再POPは、三日から一週間とかのはずだし」
「どうせ、倒せないって。それよりもさ、攻略動画をネットにあげると、
なるほどね。少しずつ攻略情報を集めて、確実に倒せる戦略・戦術を確立させる訳か。
そうなると、他のパーティーも何かしらのアイディアを持って挑むんだろうな。
することもないので、他のパーティーの戦いを覗く。
(戦略・戦術は、パーティー毎に違うけど、ちょっとズレてんだよな。近づくメンバーが、二人以上いると、崩れるんだけどな)
俺が前面に出て勝たせてもいいけど、面白くないな。
知識を披露しても、自己満足にしかならない。
俺は口を閉ざして、
「そろそろだな。行こうか」
今戦っているパーティーが、撤退を始めた。
次は、俺達の番だ。
アイクが、準備を始める。
メンバーは、俺を含めて六人。さて、どうなるか……。
「魔物の左側だ! 俺達から見て右側に回れ!」
アイクの指示が飛ぶ。
う~ん。安全地帯は、一人分しかないのに、三人そのスペースに入ろうとしている。
それと、弓兵が一人いる。
(遠隔攻撃すると、ターゲットが移って、移動しちゃうんだよな……)
案の定、弓兵にターゲットが移って、逃げ惑うことになる。
その隙に、前衛にポーションなどの回復薬を渡す。
今のうちに回復しないと、ジリ貧だ。
ここで弓兵が倒れた。ドラゴンの魔法だね。
あれは、射程が長い。発動に入ったら止めないと、死者が出る。
アイク達が、再度攻撃に入った。
ターゲットが動く。
俺はその間に、弓兵を蘇生する。
「すまない。逃げられなかったよ」
弓兵の人からお礼を言われた。
そんな仕様なんですよ。トップランカーでさえ、倒せないんだし。
「前衛と弓兵でターゲットを取り合って、その間に回復ですか……。どっちかが死亡しますね」
悪くもなく、良くもない。
倒せなくはないけど、アイテム消費が激しいし、時間がかかる。
逃げている時間が長くなると、タイムアップだ。
「残り、5分ですね」
「こりゃ、タイムアップだね」
次の瞬間、ドラゴンの尻尾による薙ぎ払いが起きた。
アイクだけが生き残っている。
「どうします? 撤退します?」
「アイテムを使って蘇生してくれ」
「アイテム代の無駄じゃないですか? 倒せないのが確定してるし」
「タイムアップまで粘るよ。そんな動画を作りたいんだ」
まあ、今までで一番HPを削っていると思う。
悪くはないんだろう。
ここで、弓兵がターゲットを取りに行った。
アイクが俺に近づいてくる。
「ほい、ポーション」
「助かるよ」
「でも、もう時間切れだね……。惜しかった」
「くぅ~。倒したかったぜ」
まあ、アドバイスしてもいいか。会社からも文句は言われないだろう。
「近接アタッカーを減らしてさ、弓兵や銃兵、魔法使いを入れた方がいいんじゃないか? ターゲットを分散して、逃げながら削って行く。今の戦術だと、近接アタッカーが攻撃できない時間が多いだろう?」
「それも意見の一つだな。覚えておくよ」
ここで、30分が経過して、
俺の仕事は終わりだな。
「今回の代金だ」
「まいど……」
「なあ、パーティーは組まないのか?」
ん? なんだ?
「俺は、現金化が目的だからね。傭兵程度ならいいけど、常時組むとなると、悪評が立つぞ?」
「現金化が目的の奴は、少なからずいるさ。考え過ぎじゃないか?」
嫌な奴は、何処にでもいる。
トップランカーは課金するから、俺の行動が余計に邪魔に感じるんだろうな。
「悪いがパーティーは組めないな。今後も気楽に、傭兵家業でもするさ。職人でもいいし。軽装備系の防具なら作れる程度には、
生産系スキルもあるんだよね。
「そうか……。また時間があったらよろしく頼むよ。ハイエナほど動けるサポーターは少ないんだ」
まあ、そうなるだろうな。
今は、飽和攻撃主流の時代だ。支援系の動きをする人は少なくなっているらしい。
ゲームなんだし、攻撃力の高さを競い合うのが楽しいんだろうな。
「またな、アイク」
俺は、そこでログアウトした。
「ふう~。俺がゲーム会社と契約してることを知ったら、アイクも態度が変わるのかな……」
俺は、ゴーグルを外して、ため息を吐いた。
会社から支給品をもらって、ボス魔物を倒してんだし。
その素材はまだ売ってないけど、現金化もできる。
配信を仕事にしてしまうと、色々と後ろめたいことが出てくるな。
バレないように、しないといけないと思う。
「今日は……、もういいか」
時計を見る。もうすぐ夕飯の時間だ。
妹は、何しているんだ?
さっき、仕事部屋に入って来た気配があったんだけど。
それに、もうすぐ夕食の時間なのに、連絡がない。
夕飯を作っていない?
「ちょっと、妹がいるか確認するか」
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