第3話 配信会社といきなりの契約

 ──ピロン


「んっ? メール? ゲーム会社の運営から?」


 規約違反でもしたかな? 覚えがないんだけど。

 メールを開いてみる。


『日々、当社のゲームを遊んでいただき、ありがとうございます。本日は、サンプル配信のテスターについてのご案内になります。AIが全プレイヤーの活動履歴を検索した結果、プレイヤー名:『ハイエナ』様を推薦いたしました。興味がございましたら、ご返信いただきたく。ご連絡を心よりお待ちしております』


 要約すると、こんな感じだ。難しい文章で回りくどく言わなくてもいいと思うんだけど。

 その後、メールの続きを読んで行く。

 要は、上位ランカーでも倒せない魔物モンスターを倒す動画がほしいらしい。

 そのテスターに選ばれたみたいだ。


「謝礼金を出すってあるけど、金額を書いてくれないと判断できないじゃん?」


 メールを作った人にツッコミを入れる。

 まあいいか。断る理由がない。

 時間を取られそうだけど、お金になるのであれば断らない。


『受けます。手続きの方法を教えてください』


 こんな感じのメールを返した。


 ──ピロン


「んっ? メール? 運営から? 早過ぎない?」


 メールを開く。


『今からお伺いいたします』


「えっ?」


 ──ピンポーン


 アパートのインターフォンが鳴った。


「はいはい」


 妹が、玄関に向かった。


(まさか……。本当に?)


「お兄! お客さん!」


 妹が、怒気を含んだ声で俺を呼んだ。

 服装をどうすっかな~。上下ジャージだよ。

 風呂は、昨日入ったけど、髪がボサボサだ。散髪していない。

 少し考えたけど、ウェットテッシュで顔を拭くのみに留めた。

 多少取り繕っても、何も変わらない。時間をかけるだけ無駄だ。


 玄関では、妹と二人の人物が俺を待っていた。

 50歳前後と思われる男性と、20代の秘書っぽい女性だ。

 男性は、白髪があるけど、おしゃれなスーツを着ているな。身長は、190センチメートル近い。それと鍛えているのが分かる。

 すっごい上等な布だと思われる、スーツを着ている。

 女性は、もうモデルって感じだ。170センチメートルくらいかな? 金髪が似合ってます。それと、ドレスともスーツとも取れない服装が印象的だ。金のかかった服と装飾品が『ただ者じゃない』雰囲気を醸し出している。


 妹は、俺を睨んでいる。特に女性の方に視線を向けるなと、眼で語っているよ。


「え~と、闇紅達人です。どちら様ですか?」


「VRゲームのソルヴァリア・ハンティング3の広報担当です。先ほどメールを差し上げたと思うのですが、まだお読みになられていないのですか?」


「室長! 一分も待たずに訪問されています。急ぎたい気持ちも理解できますが、非常識です」


「ははっ。待ちきれなくてね」


 室長と呼ばれた人が笑う。


「えっ? 外で待ってたの?」


「あはは……。確かに非常識だったね。時間が取れなくて近くで待たせてもらったのだよ」


「だから申し上げたのに。警戒されていますよ!」


 笑われてしまった。

 ズレたことを言ったのかな?


「このアパートの空き部屋を3部屋ほど借りて監視していたんですよ。歩いて一分もかかっていませんから」


 監視?

 何それ、怖いんだけど。

 それと、監視対象って俺ってこと?



 ◇



 リビングのダイニングテーブルに4人で座った。

 妹が気を利かせて、お茶を入れてくれた。


「粗茶ですけど、良かったら飲んでください」


 水道水を沸騰させた普通のお茶を出すしかなかった。

 我が家では、ペットボトルのお茶ですら高級品なのだ。

 2人は、嫌な顔をせずに口をつけた。

 俺も飲んでみる。


「薄くね? もうちょっと茶葉を使おうぜ?」


 ──ゴズ


 痛い突っ込みが来た。

 だけど、来客中なのでスルーだ。


「それで、テスターのお話でいいんですよね?」


「君もせっかちだね。まず、自己紹介からだね。後藤と言います」


 男性の方が、後藤さんね。名刺をもらう。総合開発室長兼広報部課長? 肩書が凄いな。


「水樹と言います」


 女性の方は、水樹さんね。名刺をもらって、テーブルに置く。こちらは、秘書課になっている。うん、思った通りだ。

 もちろん俺は持っていないので、名刺を返すことはなかった。


「それでは、本題から入ろうか」


 テーブルに契約書が置かれた。

 目を通して行くけど、一般的な内容だな。

 主要な内容は、個人的にSNSなんかで情報公開しなければいいらしい。運営を通した動画配信で稼ぐのが目的みたいだ。

 それと、最大の問題だけど、賃金だ。


「……月に、2x万円+配信料の20%ですか」


 待遇は、準社員だった。一年間働き続ければ、正社員にすると書かれている。

 受けない理由がなかった。

 この状態を5年程度続けられれば、妹も高校を卒業できる。

 だけど、その妹が待ったをかけた。


「お兄は、どっか行っちゃうの?」


 考える……。契約書には、就業場所の記載がなかった。

 視線を上げて、後藤さんを見る。


「まず、eスポーツ選手としてどれだけの潜在能力を秘めているのかを、検証させていただきます。それに一カ月ほど時間をかけたいので、しばらくはご自宅から離れていただくことになります」


「中学生の妹が、独り暮らしになってしまうのですが」


「受けれないと?」


「せっかくのお話なのですが……」


 ここで後藤さんが、「ふむ」と言い、顎に手を当てた。


「少し失礼する」


 そう言って、後藤さんが玄関で電話を始めた。

 今度は、水樹さんを見る。


「気にしないでください。でも、少し驚くことになりそうですね」


 妹と顔を合わせる。

 妹も首を横に振った。

 ここで、後藤さんが戻って来た。


「ヘリコプターを手配しました。今は、離着陸場所を選定中ですが、毎日送り迎えしましょう。これでどうかな?」


「「えっ!?」」



 ◇



 契約書にサインすると、後藤さんと水樹さんは急いで帰ってしまった。忙しいらしい。


「お兄……、どうすんの? とっても怪しいんだけど?」


「契約したんだし、行くしかないんじゃね?」


「は~、お兄が外で働けると思えないんだけどな~」


 俺は、妹の頭をパシッと叩いた。俺を社会不適合者認定するんじゃない。



 汗をかいたので、シャワーを浴びる。

 シャワーを浴びながら考える。


(スーツと革靴の確認だな。鞄は……、リュックサックでいいや)


 風呂から上がると、妹がスーツにアイロンをかけてくれていた。

 玄関を見ると、革靴が用意されていた。カビないように手入れしていてくれたんだな。


「ありがとな」


「……ほどほどに頑張って、稼いできてね」


 妹の表情に若干の影ができている。心配してくれているみたいだ。


「ついでに嫁探しもしてくるよ。炊事洗濯を任せられる人がいいな~」


 アイロンを投げつけないでください。

 マジで、危険です。


(ふう~。ブラコンもここまで行くと重症だな)



 ◇



 次の日の朝、身支度を整えて待っていると、チャイムが鳴った。

 黒いスーツに、黒いネクタイ。おまけにサングラス。

 180センチメートル以上の長身で、細マッチョだし。

 映画で出てくる、SPセキュリティポリスみたいだな。


「おはようございます。準備はできていますか?」


「この格好しかないので」


 ヨレヨレのスーツと、一本しかない100円ショップで買ったネクタイだ。安物の革靴は、妹が手入れしてくれた。


「……それでは行きましょう」


 妹を見る。


「行って来るね。学校に遅刻しないように」


「……うん。頑張ってね。あーしも頑張るから」


 今生の別れじゃないんだけどな。

 黒色の車に乗せられて、アパートを出発する。これ、外車?


 5分後に、ヘリコプターが見えた。


「ここって、空き地じゃなかったですよね?」


「一晩で、整地しました。それだけご期待されていると考えてください」


 俺のために、離発着場を作ったってこと?

 怖くなってきた。

 俺にいったい何を期待しているんだろう?

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