第6.5章 著作権侵害のケース(アメリカの場合)
前項で日本の法律に則って微妙なケースについて違法か、そうではないか、と論じました。
では、アメリカのフェアユースの考え方で、とりあえず2025年10月時点の(つまり機械学習はフェアユースで肯定されてる)状態で、判定した場合を並べてみました。
アメリカの場合は、それぞれのケース別にフェアユースの四つの基準によって裁判所が判断しますが、記載のそれぞれについて逐一裁判所が判断した判例は、ほとんどありません(ごくわずかにあるようですが)
なので、フェアユースの四つの基準で適法(フェアユースと認められる)かどうか、という推測交じりの判定が主になります。
日本法の項より不確実なので、参考程度にご覧ください。
なお、判定として、第二と第三はすべてフェアユースでは否定的という前提で行きます。
そしてファイル共有をメインとしているので、第一要素も非変容性(著作物の表現、性質などがほぼ同一で、ただ複製して利用しているだけ)のため、否定的、つまりフェアユースと裁判所が認めない、という判定となります。
なお、以下の事例に出てくる『著作物』は全て行為者が著作権を持っていない、他者が著作権を持つ著作物を、正当な方法で手に入れたものとします(違法ダウンロードなどではない)。
【ネットワークストレージ(Googleドライブ等)へのアップロード】
●著作物を非公開フォルダにアップロードする。
⇒ 違法の可能性はある(複製権の侵害)
ただし市場影響が極めて小さいためフェアユースと認める可能性もある。
●著作物を同居する家族の共有フォルダにアップロードする。
⇒ 違法(複製権の侵害)
ただし市場影響が極めて小さいためフェアユースとなる可能性が高い
●著作物を遠方の家族の共有フォルダにアップロードする。
⇒ 違法(配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
●著作物を(物理的に会える)友人の共有フォルダにアップロードする。
⇒ 違法(配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
●著作物を友人との共有フォルダにアップロードする。
⇒ 違法(配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
市場を不当に代替するとみられる可能性もある
日本と異なり、『私的利用』という概念自体がありません。
そのため、個人利用と認められず、違法と判断されるケースがほとんどです。
【メッセージアプリ(LINE、GoogleChat等)へのアップロード】
●著作物を家族に共有する。
⇒ 違法(複製権、配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
●著作物を少数の友人(物理的に会える)のグループチャットで共有する。
⇒ 違法(複製権、配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
●著作物を学校のクラスチャット(30人と仮定)で共有する。
⇒ 違法(配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
市場を不当に代替するとみられる可能性もある
●著作物を少数の友人(遠隔地にいる)のグループチャットで共有する。
⇒ 違法(複製権、配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
市場を不当に代替するとみられる可能性もある
アメリカでは、たとえ個人的なメッセージアプリでも厳密に解釈されると違法(フェアユースが否定的)になります。
ほとんどのケースで、基本的に複製権、あるいは配布または公衆へ伝達する権利の侵害とみなされます。
【SNS(X、Facebook等)へのアップロード】
●著作物を公開設定でアップロードし共有する。
⇒ 違法(複製権、配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
市場を不当に代替するとみられる可能性もある
●著作物を特定範囲の公開設定でアップロードする。
⇒ 違法の可能性あり
●著作物のURLを貼りつける。
⇒ 適法
アメリカも日本と同じでSNSで、他者の著作物を勝手に頒布することは、ことごとく違法の可能性があります。
特にその著作物をそのまま公開する行為は『非変容的』と判断され、第一要素は確実に否定。
そして市場への影響はネットワークストレージどころではないので、第四要素も否定的となります。
【生成AI】
●生成AIに指示を出してイラスト・文章を生成させる。
⇒ 適法
現時点ではAIの学習・生成行為はフェアユース肯定の判例が多いため
ただしこれは2025年時点の解釈
裁判所の判断次第では今後覆る可能性もある
●生成AIに生成させた(類似ではない)イラスト・文章を公開する
⇒ 適法(学習データとの類似性などがないため)
●生成AIに他者著作物に類似したものを作る(公開しない)
⇒ 違法(複製権、派生的著作物作成権の侵害)
●生成AIに生成させた他者著作物に類似した文章・イラストを公開する
⇒ 違法(複製権、派生的著作物作成権の侵害、さらに市場影響も判断される)
●著作物をアップロードし、加工(翻案)し、自分だけで楽しむ。
⇒ 違法(複製権、派生的著作物作成権の侵害)
たとえ個人利用であっても、市場への影響が皆無ではないなら
フェアユースは否定的となる
●著作物をアップロードし、その内容の解析を行う(本来の享受目的と違う)
⇒ 適法(現時点ではAIに取り込むこと自体がフェアユースで肯定のため)
●著作物のURLを提示し、その内容の解析を行う(本来の享受目的と違う)
⇒ 適法(現時点ではAIに取り込むこと自体がフェアユースで肯定のため)
アメリカで隆盛の生成AI。
AIに他者の著作物に類似したものを作らせて、それを頒布したら、ほぼ確実に違法です。
また、生成AIに読み込ませる行為は学習とみなされるため適法ですが、それを翻案する行為は確実に違法。
そして読み込ませる行為が適法なのは、あくまで2025年時点の判断です。
今後、この判断が変わる可能性があるということは、覚えておいてください(詳しくは後述します)
【その他】
●スマホなどの直接通信(赤外線やBluetooth等)で著作物を共有する。
⇒ 違法(複製権、配布または公衆へ伝達する権利の侵害)
●ローカルでコピーして改変(翻案)する。
⇒ 違法(複製権、派生的著作物作成権の侵害)
非頒布の私的利用であっても、翻案行為は法的には侵害にあたる
そのためフェアユースに否定的になりやすい
●著作物をそれと分からないくらい加工する。
⇒ 適法
●著作物のファイル形式を変更する
⇒ 違法(複製権の侵害)
ファイルの複製が必ず行われるためだが、ごくわずか(デ・ミニミス)と
して法的責任が免除される可能性が高い
●著作物をごくわずかに加工する(トリミング等)
⇒ 適法
正しくは、これは著作物としての要素『以外』に対して手を加えること
なので、著作権侵害自体が発生していない、または複製・翻案でもごく
わずか(デ・ミニミス)であり、法的責任が免除される可能性が高い
●著作物のほんの一部(もとが分からない程度)だけ利用する
⇒ 適法
●著作物をそのままに、スマホ背景用に空白領域は自分で描く
⇒ 違法の可能性はある(複製権、派生的著作物作成権の侵害)
ただし市場影響が極めて小さいためフェアユースと認める可能性もある。
アメリカの場合は結局『フェアユース』という考え方がある代わりに、日本の『私的利用』という考え方がないので、たとえ友人同士、あるいは家族同士であってすら、「個人の利用だからいいだろう」という考えは通用せず、複製権の侵害や配布または公衆へ伝達する権利の侵害に該当してしまうのです。
もちろん、実際にはそれらが発覚する可能性はほとんどないので、少なくとも自分自身の利用、またはせいぜい家族友人の間でこっそり共有している分には訴訟リスクは低いでしょうが、違法なことには変わりありません。
ちなみにこれらはデジタルデータまたは物理的なコピー、あるいは写真での共有などは、ことごとく『変容性が低い』と判断され、そうすると市場への影響(たとえ少数でも)が非常に重く見られます。
そのため、日本よりはるかに厳しい判断がされるようです。
また、ここに書かれてない行為であっても、法律に定められた内容ではなく、『その行為が適法かどうか』は実際に訴えられてから判定されます。
そして、もしそれが違法だと(つまりフェアユースに該当しないと)判定された場合、その行為は遡及的に追及され『最初から違法状態だった』というリスクを抱えています。
日本のように法律で明確に定義された『私的利用』という安全圏がないため、このようなことが起こるのです。
そのため、アメリカにおける著作物の扱いというのは、実は日本以上に慎重に行わなければならない側面もあります。
『あれがいいならこれもいいだろう』と思ってやっていたら、実はダメだった、なんてことが起こりうるわけですね。
まあ、このエッセイを読んでいる人はほぼ日本在住でしょうから、その場合は前項の日本法が適用されますので、こちらは参考程度にご覧ください。
著作権侵害などは『属地主義』、つまりその侵害が発生した国の法律で裁くのが基本ですから、とくに生成時などの一ユーザとしての法判断は、住んでいる場所(国)によります。
ただし、アメリカにあるサーバを使っている場合などでは、『どの国で侵害が発生したか』がまず議論になることもあり、利用者が日本にいてもアメリカ法で裁かれるということもあり得ます。
結局、危険な行為(少なくとも発覚の可能性の高い公衆送信するなどの、不特定多数に共有する行為)は、どんな場合でも、避けるのが無難といえるでしょう。
あと一つ補足。
日本では著作権侵害(刑事罰)は基本的に親告罪です。
大規模な商用による侵害以外は、著作権者自身が訴えない限り、問題にはなりません。
ですが、アメリカは違います。
アメリカでは著作権侵害は連邦犯罪となり、司法省管轄の元、FBI(連邦捜査局)等の捜査の対象となりえます。無論、軽微な著作権侵害で動くことはそうそうありませんが、悪質または大規模な侵害行為であると判断された場合は、著作権者の訴えなしでも捜査当局が動くことがあります。
その点でも、アメリカの方が著作物の取り扱いには注意が必要……なのですが。
一方で日本のコンテンツに対する脇の甘さはちょっと不思議にもなりますね。
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