くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件

高領 つかさ (TSUKASA・T)

1 くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件 持ち帰ったら宰相な弟に怒られそうなんだけど

某氷華国掲示板

なんでも相談伝言板

※注意 この掲示板は匿名利用が可能ですが、常に国が監視しています。

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相談

くたびれたおっさんが酒場に落ちていたのでひろったら王だった件 

持ち帰ったら宰相な弟に怒られそうなんだけど

どうしたらいい?

―――――――――――――――――――――――――――


阿華 何これ?


亜深 …宰相が弟さんって一人しかいないんですが


吾千 えええっ、…―――まさか、まさかの○○将!?

   すててっていいです!そんなもの!王なんてひろっちゃいけません!


五得 確か、○○国なら、王が家出して数千年経ってね?

   もうひろわなくていいんじゃ…



千歳 まとめると王なんてばっちいもの、すててらっしゃい、

   てとこでしょうかね?


阿華 うんうん


亜深 だよなあ… しかし、この掲示板、適当に仮名振り当てるのやめてほしい


阿華 まあまあ 一応それで匿名になってるんだからいいでしょ?


亜深 書き込みすると全部国に誰が書いたかばれてるけどな?

   ていうか、微妙に本人がわかる仮名になってるんだが?


阿華 まあほら、運用してるの宰相だから


亜深 …――よし、まとめよう

   総意としては、相談された方に衷心で申し上げますが、

   そんなもん宰相に黙って勝手にひろってきちゃいけません!

   後で世話をする部下の身にもなってください!

   …でいいか?


阿華 別に、うちらはいいけどねー 直接世話はしないし!


五得 いや、王なんて拾ったら連絡してほしい…外交部へ直でいいからしらせて?

   

阿華 あ、五得さん隣国の方ですもんね


五得 …―――――


亜深 まあここ、管理されてる掲示板だから

   それにしても、…○○将…たのみますから、仕事ふやさないでください…



亜深 よし!まとめよう!


亜深 王なんてすててらっしゃい!

阿華 王なんてすててらっしゃい! 

吾千 王なんてすててらっしゃい! 

千歳 王なんてすててらっしゃい!


 

五得 …他国だけど、…いいのかこれ、…




相談は締め切られました

解答へお礼


相談者 ありがとな!わかった!うちへひろって帰らずに、えさだけあげておく!

    みんな、ありがとな!!!

―――――――――――――――――――――――――――


亜深 おい、ちょっとまて、…

阿華 えさあげてるんですか?

吾千 …悪い予感がする… 

千歳 ――――――…いや、捨て犬、じゃなくて捨て王なんて

   ひろっちゃいけませんって、…宰相にしらせないと…宰相――――!


吾千 あ、緊急連絡おした

阿華 まあ、連絡しないでおくよりはいいのでは?

   いつみられるかわかりませんしね、宰相

亜深 …まあな、…この掲示板、匿名の意味あるのか?



―――――――――――――――――――――――――――


 かくして。

「…そうですか」

宰相宛の緊急連絡――執務にかかりきりでいつこの掲示板をみるともわからない為に、執務室には宰相宛の緊急連絡鏡が隅の柱に飾られているのだが。

 書類に向き合う手を止め、宰相が淡い灰蒼の眸で無感情に警告赤に染まる鏡をみて。鏡に指先を向けて、宙に文字を掲示させ内容を確認してつぶやく。

ちなみに、宙に浮き上がらせた透明な板に文字が連ねられていくようにみえる為、この装置は掲示板と呼ばれているのだが。

 淡い水色の髪が豊かに背に流れ、美貌に鋭く冷たい気配が常に纏う宰相だが。

 にっこり、と微笑んでみせる姿に、もし執務室に他に誰かいたなら寒さに震え上がっていたことだろう。

 ちなみに、物理に寒さは発生している。

 氷華国宰相に相応しく、その力は氷華を天より降らせ世界を氷奥にすべて沈めてもいまだ余るとまでいわれている途方もない力を持つ宰相である。

 微笑とともに、ゆったりと掲示板の内容を確認した宰相が席を立つ。

「…兄上、…――」

氷洋熊も、氷蒼狼の怪我をした個体を拾ってきたときも。どれだけ危険な獣であっても、怪我をして弱り庇護を求めてきた相手にはとても弱い兄だと知っている。

「…今度は、王ですか」

低くつぶやく声が昏い。冥く幽界に落ちていきそうなほどに昏い。

 王を名乗っているというからには、おそらくは人型だろう。であれば、これまでの獣と異なり、生息域に戻すというこれまでの手は使いにくい。

 ちなみに、掲示板でもいわれていたが。

 この氷華国では、王はとうの昔に去り戻ってきてはいない。

 確か、先の王が記録されているのは神話時代の数千年前だ。

 殆ど伝説といっていいのだが。

「…一応、神話時代に神より王が国を建てることをゆるされたのが経緯ではありますからね?」

 しかし、王が去って数千年。何を根拠に王などと名乗っているというのか?

 しかも。

「兄上を、――――…謀るとは、…」

そっと宰相が微笑み、視線を執務室の足長窓へと向ける。

そのまま外見台へと出られるように作られた足長窓は、格子に硝子を填めて天井近くに曲線を描き、両開きとなるように造られている。

 足長窓の外へと視線を向け歩み寄る。硝子扉をあけて、外見台へと足を踏み入れる。石造りの半円をした外見台の手摺りに手を置き、鈍色の空を見上げる。

 氷華国は常に鈍色の空と氷雪を降らせる天のもとに広がる国だ。

 常に寒さと、あるいは雪と氷に閉ざされることの多いこの土地に、好んで攻め入る国もなく。ましてや、去りし王を名乗ってまでこの氷華国を手中にしようとする物好きなど殆どいない。

 人の移動すら気候により難しくなることが多く。その為、他国のように手紙といった連絡手段がうまく使えないために、掲示板は伝送技術を駆使して開発したものになるのだが。だから、それを利用して普段は連絡ひとつ寄越さずに好きに移動しては騒動を巻き起こしている兄が、こうして一応は報せを寄越したというだけでも重畳なのだろうが。

「兄上、…」

淡い水色をした髪がゆるやかに背をおりる。天を見上げる横貌は美しく御使いをおもわせる。淡灰蒼の眸で鈍色の空をみあげて。

 ―――王宮に拾ってこなかったからといって、野良に餌をあげてはいけませんからね?

 宰相の足許までを隠す宰衣が緩やかに風にゆれる。

 宰相の力が及んだ為か。

 天より、白華が―――。

 白く舞い降りる華とも呼ばれる雪が舞い降りてくる。


 氷華に雪が今宵は降り積もりそうである。――――




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