第16話

紀江は、今晩は綾子の家に泊まる事になった。明日には一旦、実家に帰るそうだ。

夕飯を囲みながら、紀江は綾子に、昨日の事を改めて謝る。

綾子も、口にはしなかったが、紀江に酷い事を思ったりしたのだ。申し訳ないと思うところもある。

綾子は「気にしてないよ」と返事を返した。

箸を動かす手を止め、紀江は、最近自分に起こった、不可思議な出来事を語り始めた。


ある日、とある奇妙なメールが来た。そのメールは、得たポイントに応じて、運勢が変わるものだった。

もちろん紀江は信じず、最初はイタズラだろうと適当にやっていた。ところが、本当にそのメールで運勢が変わる事に程なく気付く。

このメールを使えば、幸せになれるかもしれない。

紀江は、高いポイントを得る為に躍起になった。

だが、じきに紀江は0点になった。

その直後、家が火事になったのだ。

命は助かったが、紀江の失ったものや感じた恐怖は大きい。

ポイント0点は、命を失う危険すらあるのだ。


…話を聞いているうちに、綾子は気付く。

私と同じだ、と。

だが、なぜ紀江は0点になったのだろう?

紀江は、話の最後に、付け加える。

「私、思ったんだ。」

「何に?」

「自分だけ幸せになる事を願うのって、他の人の不幸を願うのと、同じなんだって事にさ。」

綾子には、紀江の最後の言葉の意味が、わからなかった。



紀江は実家に帰った。

火事で失ったものは、幸い保険で補填できるらしい。

だが、流石に憔悴していた紀江は、口数も少なく、電車に乗って地元に戻っていった。



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