二十六
週明け。いつも通り朝イチで登校する。
「あ、雨天くん。おはよう。」
「おはよう、七咲さん。」
生徒玄関で七咲さんに声をかけられた。彼女は僕よりも少し早く来ていたようだ。
「もうすぐ夏休みだねぇ。雨天くんは何か予定とかあるのかな?海とか山とか、テーマパークとかさ。せっかくだからさ、みんなで遊びに行きたいよねぇ。」
七咲さんは早速自分の世界に入ってしまっているようだ。両手を合わせて、目を輝かせている。
「泊まりでさ、どこか遠くに行っても良いかもね。」
「あ、それいいねぇ。採用したいね。泊まり込みでリゾート地に行ってみたいかも。それでもって、ゾンビなんかに襲われちゃうんだ。」
「急に方向転換したね。」
七咲さんは芝居がかった話し方で寸劇を始める。
「ゾンビに囲まれて、絶体絶命のわたしたち。ここはわたしが時間を稼ぐ。だから二人は先に行って。」
「ひとりどこに行っちゃったの?」
「泣かないで。ここで立ち止まったら、天国の武石くんに顔向けできない。」
「武石が犠牲になったのか。」
不憫な男だ。昼休みにジュースでも奢ってやろう。
「大丈夫。ゾンビたちを片付けたら、わたしもすぐに追いつくから。」
死亡フラグがどんどんと立っていく。もはや彼女が生還することはないだろう。
「思えば、わたしたち知り合ってから色々あったよね。」
「感動的なシーンに入った。」
やめてくれ。僕はそういうのに弱いんだ。
「これが最後かもしれないから、言っておくよ。ありがとうってね。」
「七咲さん。うぅ、できれば一緒に生き延びたかったよ。」
「結局二人は逃げた先でゾンビに囲まれるんだよね。その先頭を歩いているのがゾンビ化したわたし。」
「敵になっちゃったよ。」
「雨天くんと永江ちゃんはわたしに引き金を引くことができずに、その場で泣き崩れちゃうんだ。」
「バッドエンドじゃん。」
不幸な未来が語られたところで、僕たちは教室入る。
鞄から教科書を出しながら、話を戻す。
「夏休みに入ったら、少し遠くに遊びに行こうか。」
「そうだねぇ。泊まるにしても、学生だと引率とか必要かもだよねぇ。やっぱり日帰りで行ける所かな。」
「日帰りとなると、やっぱり海かな。でも人は多そうだよね。都合良く人がいなくて過ごし易い場所があればいいんだけどね。」
「うーん。永江ちゃんと武石くんが来てから、改めて話し合おうか。」
「賛成。」
とりあえず、この話は一旦持ち越しだ。
窓の外は晴天。テスト明け、夏休みに向かうにはうってつけの天気だ。窓越しにも響く蝉の声に耳を傾け、読書をするのも一興だろう。
「と言うかさ、リゾート施設にゾンビが出てきたとして、都合良く銃器なんかあるものかな?一応、法治国家じゃん。」
七咲さんがバッドエンドに向かったはずの話をぶり返してきた。日本は、一応じゃなくとも法治国家なのだが。
「漠然としたイメージだけど海外とかはショットガンくらい持ってそうだよねぇ。それにすごい怪力でジープをひっくり返したり火炎瓶投げたりするんだ。」
かなり野蛮なイメージだ。そんな国のリゾート施設は果たしてまともに経営できるのだろうか。
「どこでそんな知識得たのさ。」
「映画よ。吹き替え版で見たわ。」
だろうとは思ったが。
治安が悪い海外の話はともかく、今週末には終業式があり、夏休みに入る。教師側も、早ければ今日から前もって夏休みの課題を配り始めるだろう。
「夏休みの課題は、早めに終わらせておきたいね。」
「わかるよその気持ち。わたしも夏休みの宿題は七月中にほとんど終わらせてたねぇ。毎日日記も含めてね。」
「未来予知でもしてたの?」
親友のまた新たな一面を見てしまったのかもしれない。
「そんなのじゃないよぉ。前もって予定がある日だけ空けて、それ以外を言葉が被らないように何もなかった事を書くの。その手法をはじめて注意されたこと無いよ。」
「天才だ。七崎さん、賢いね。」
「ふふーん。そうでしょうそうでしょう、褒め称えたまえ。」
その方法は思い付かなかった。僕も真似させてもらおう。まぁ、高校の課題に日記があるかは知らないが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます