国家改革
書記長誕生
1954年4月25日 札幌
日本人民党中央委員会
「鳥海勇人外務委員長を、書記長に指名する」
議長が告げた瞬間、会場は拍手とざわめきの2つの音に支配された。
その音の中、新書記長はゆっくりと立ち上がり、周りに向かって軽く礼をする。
ワックスで固めた様な六四分けは礼をしても微動だにせず、何処か気品を感じさせる。
国を大きく変える鳥海書記長が、今この瞬間誕生した。
重苦しい議会を出て、側近と共に書記長室に向かう。
一歩一歩の重みを踏み締めながら、歩いていく。
衛兵がドアを開けると、鳥海は少なからず興奮を抱きながら、中に入っていく。
部屋に一歩入った所で、小さく息を吸って立ち止まる。
その様子に数人の側近は戸惑ったが、特に深くは聞かず、そのまま立ち尽くす。
すると前を向いたまま、
「秘書の遠野だけ残れ。他は帰宅を許可する」
と側近に話す。
側近は始めまたも戸惑っていたが、鳥海が
「早く」
と少しばかり苛立ちを含んだ声を出すと、足音が一つまた一つ遠くなっていき、最後の足音がドアを閉じる音と一緒に消えると、鳥海は
書記長席の側まで歩き、少しばかりの垂れ目を二歩半後ろの遠野に向け、呟いた。
「…ようやくここまで来たな、宗一」
その呟きを広い、遠野が話す。
「…そうだな、書記長閣下」
言葉では軽く聞こえる。
だがしかし、彼等の目の奥にある闘志が、彼等の決意を表していた。
鳥海はフフと微笑んだ後、椅子に深々と座り机に腕を置く。
そして直ぐにまた遠野の方を向き、
「我々が進むべき道は、あの日に決まっている」
と、強い決意を持った声で話す。
「分かってるよ。忘れちゃいないさ」
言葉はまた軽いが遠野もそれに負けない決意で答える。
「…で、最初の仕事は何になる?」
鳥海が急に話すが、遠野は冷静に答える。
「就任の演説だ。お前の決意や能力がどんなものか、人民は知りたがっているだろう」
「…いつだ」
「明日だ。共産主義国家のお偉いさんや国内の有力者が大量に来る」
鳥海の顔面に少し緊張の面持ちが見えるが、何とか威厳を保つ。
「了解。因みに今日他の公務は?」
「今日はもう夜だからな。特には無い。頑張って演説内容を考えてくれ」
鳥海は目を細め、分かったとだけ言うと、遠野にも帰宅を促した。
1人になった部屋で、鳥海は1人静かに笑った。
(この国の改革を始める。まずは明日の演説で、それを頭の硬い奴等に思い知らせる)
この国の改革を夢見る書記長は、ゆっくりペンを取って原稿を書き始めた。
第一話 終
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