第23話

そして今日。エドワルドとアリサのパーティー登録の準備が終わったので、二人をギルドに呼んでいる。リーズは今日も受付の仕事がある。午前中は混むので、午後に来てもらうことになっていた。


 扉が開いて、アリサとエドワルドが入ってきた。


「こんにちは。」


 礼儀正しくアリサが挨拶をする。服を新調したのか、綺麗な青のチュニックを着ている。


「こんにちは。アリサちゃん、服新しくしたの? かわいいね。」


 リーズのほめ言葉にアリサははにかむ。


「エドワルドさんと買いに行ってきたんです。この前の報酬で。これ、エドワルドさんの妹さんと色違いだけどお揃いなんです。」


「俺が選ぶよりアリサに選んでもらったほうが間違いないからね。いい土産ができたよ。」


この前の依頼の報酬は初心者にしては多額だった。糸の値段が思ったよりも高かったのだ。依頼料以外は一緒に行ってくれた冒険者に払わなくてもいいのだが、アリサは糸代ももらってほしいとエドワルドに渡していた。それで妹さんへの土産を買ったのだろう。


 受付をお願いしてアリサとエドワルドを奥の部屋に通す。パーティ登録の手続き開始だ。


「では、パーティー登録をします。ポイントの割り振りは決まりましたか?」


 依頼を受けると、ギルドからその達成度に応じてポイントをもらえる。それを貯めることによってランクが上がっていく仕組みになっている。ソロであれば全部が自分のポイントになるが、パーティーの場合はポイントを人数で分け合うことになる。その割合を事前に決めておくのがポイント割り振りである。


 初心者が一緒のパーティーではランク不足で受けられる依頼が減ってしまう。そのためパーティーを組んで多目に初心者にポイントを割り振り、早目にランクアップさせることもできる。ただ、ランクが上がれば危険度も増す。


「えと、リーズさんはパーティーに入れないんですか?」


「入れないことはないですが、ギルド員にポイントは割り振られないんです。その代わりギルド員としてのランクポイントが入るので二人で分けてください。街の外に行く時は一緒に行きますから。」


 ギルド員も冒険者ランクは持っている。が、ギルド員でいる間はそれを上げることはできない。不正をしようと思えばいくらでもできてしまうからである。ギルド員のランクポイントを元に仕事の異動や給料が決まる、ということを初めて知ったリーズだった。


「それは知らなかったなあ。そしたらアリサが7で俺が3でどうだい?」


「そんなにもらえません!私が3じゃないんですか?」


目を丸くして反論するアリサにエドワルドが苦笑する。


「Gランクの仕事でもらえるポイントなんて、微々たるものだからね。7でも3でも正直変わらない。でもアリサは違う。早目にFランクに上がったほうが仕事が増える。そしたら俺の取り分も増えるから。」


 エドワルドのランクはCだ。アリサと組んでもメリットは少なく、ボランティアと言ってもいい。アリサはしぶしぶ頷いた。


「分かりました。でも報酬はちゃんと半分もらってくださいね。」


「期待してるよ。こまめに依頼をチェックしておこう。」


 二人が納得したところでリーズは書類を取り出す。


「ではアリサさんが7、エドワルドさんが3でポイントを割り振ります。受けられる依頼はアリサさんのランク、Gランクのみになりますがいいですか?」


「ああ。」


 エドワルドが返事をし、アリサが頷く。


 リーズは書類にポイントの割り振りを記入する。


「では書類にサインと、こちらに登録証を。」


 ポイントの割り振りを確認した二人が、サインをする。その間に鉱石版に登録証を乗せてもらった。しばらくすると二人の登録証がピンク色に光った。これで登録完了だ。無事に登録ができて、リーズも内心ほっとする。


「手続きはこれで完了です。で、お願いがあるのですが。」


「お願い?」


 リーズの話にアリサが首をかしげる。


「はい。この前の糸の品質が良かったので、実は採取依頼が入っています。指名したいとのことだったのですが、それはお断りさせていただきました。」


「指名依頼の方がポイントは高いが…。スキルのことが知られると困るからな。」


 エドワルドの言葉にリーズがうなずく。


「そうなんです。なので、採集依頼という形にしてもらいました。糸をあと10巻欲しいそうです。その代わり依頼料は1巻500ライヒ。10巻あれば、あと500ライヒ追加で支払うと。」


「ええっ。そんなにもらっていいんですか?」


 アリサが目を丸くする。


「糸を取れる人が少ないんです。最近は遠くから買い付けてたみたいで、取れる人がいることにすごく喜んでました。今回は採集依頼ということなのでエドワルドさんの取り分が半分になってしまいますけれど。」


「それでもすごいです!エドワルドさん、受けてもいいですか?」


 弾んだ声を出しながら、アリサがエドワルドを見上げる。


「もちろんだ。ただ、10巻ともなると1日じゃ無理だな。野営してみるか。」


「野営…。外で泊まるってことですよね。」


 ほとんど王都から出たことのないアリサにとっては不安しかない。目がオドオドと揺れている。


 今後のことを考えると、野営の経験をしておいた方がいいと考えたエドワルドの提案だ。リーズもエドワルドの後押しをする。


「あの森ならそんなに危険もないですし、野営場所もありますから大丈夫だと思います。いい経験になると思いますよ。もちろん私も一緒にいきます。」

 

 しばらく考えていたアリサがコクンとうなずき、エドワルドを上目遣いに見上げる。


「お父さんに許可をもらうの、一緒にやってもらっていいですか…?」


 一番の難関はそこにありそうだった。

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