第14話

 このままでは部屋に入ることも出来ない。そう思ったリーズは、書類の山を崩さないように廊下に出し始めた。奥に机があるので、まずはそこまでの道を作りたい。時折廊下を通る職員には同情の目で見てくるが、手伝いを申し出てくる者はいなかった。リーズが通れるだけの道を作ると、リーズはそこへ向かった。ここの整理をしていた人はそれまでこの部屋を管理出来ていたのだ。おそらく自分がいなくなった後の事を考えて何か書き残しているはずだ。

 リーズの予想通り、机の上にその手紙はあった。『上に書類をのせないこと!』とわざわざ書いてあったので、さすがにそこに書類を置く者はいなかったようだ。

 そこには部屋の見取り図と、書類の分類方法が書いてあった。

 机の後ろには、棚が並んでおり、そこには木箱がたくさん置かれている。そこに書類を入れていくのが正解のようだ。棚がいっぱいになった場合、古い書類を処分しなければならないのだが、その際何年のどんな書類を廃棄したのか記録するようになっていた。おそらくそれが面倒で、とりあえず書類を置いているうちに書類の山ができてしまったのだろう。

 廃棄用の書類を確認すると、責任者のサインが最後必要で、それをもらってから廃棄するようになっていた。

「しょうがない。やりますか。」

 リーズは声に出して自分に気合を入れると、古い書類が入っている木箱を探し始めた。

 どのくらい古いものがあるのだろうとちょっと期待をしていたが、二十年前のものが一番古いようだ。木箱の中身は完了した依頼書だった。ついパラパラと見てしまう。

「へえ。薬草採取の値段が今よりも高い。護衛の仕事は逆に安いかな。魔物討伐は、そんなに変わらないと。」

 その中にギルド長リッテルの名前を見つける。パーティーを組んで魔物の討伐をしていたようだ。その中にシェリルの名前も見つけてリーズは驚いた。

「あの二人、一緒に冒険者やってたんだ。」

 ランクはA。『紅蓮の獅子』という名前でパーティーを組んでいたようだ。どのくらい活躍していたのだろう、と思わず依頼書を確認しかけて、リーズはハッとする。

「いやいや、整理しないと。」

 そこからは中身を読まないようにしながら、記録をとることに専念した。止まったら抜け出せなくなりそうな気がしたからだ。

 すでにかなりの時間が経っていたが、とりあえず10箱ほど確認をすると、書類を持ってシェリルのところに行く。シェリルはちょうど自分の机で書類を眺めていた。

「シェリルさん、すみません。書類を廃棄したいのでサインをお願いします。」

「ああ、そういえば彼女もそんなことをしていたわね。ご苦労様。」

 サインをするシェリルをみて、思わず依頼書を思い出してしまう。

「『紅蓮の獅子』」

 リーズが呟いた言葉に、シェリルの筆が止まった。

「今、何か言ったかしら?」

 妖艶なほどの笑みに、リーズはどうやら自分が言ってはいけない言葉を発してしまったことを察した。慌てて首を横に振る。

「いえ、何も言ってません!何も見てません!」

「そう?それならよかったわ。古い書類はさっさと廃棄するのが大事よね。」

「そういえば、廃棄する書類はどこに持って行けばいいですか?」

「ああ、そうよね。魔術課の近くに廃棄用の倉庫があるからそこに持っていってくれるかしら。」

 ギルドの隣にある二階建ての別館が、魔術課だ。リーズは頷いて、廃棄する書類を取りに行った。



「やっと少し片付いた…かな。」

 リーズが一息ついたのは、昼を少し過ぎた頃だった。部屋の床に積まれていた書類はあらかた木箱に入れて整理することができた。

 明日の仕事もあるので、今日はここまでにしよう。リーズがそう思って棚を見ながら入り口へと戻る時だった。片隅にある棚が目についた。そこだけなぜか木箱ではなく書類をまとめた束が無造作に積まれている。何気なく一冊とって表紙をみると、『ギルド受付職員便利帳』と書いてあった。

「なんだろ、これ。」

 ぱらりと中をみてみると、どうやら受付にきた冒険者がどんな仕事を受けていくのかまとめたものだった。採取、護衛、魔物討伐と分けられているところもなかなか便利そうだ。ただ、残念ながら古いもののようだ。それでも仕事に熱心に取り組んでいた職員の様子が見えるようで、リーズは嬉しくなった。

 次の冊子は、王都近郊で採れる薬草一覧。どの場所で採れやすいのかまとめてある。冒険者に見せたらきっと欲しがるだろう。

 次は、とめくって、リーズはお目当てのものが出てきたのがわかった。スキルについてまとめてある資料だ。

 リーズはそれを机まで持っていくと座って目を通す。スキル名が名前順に並べられており、どのようにすれば習得できるのかが書いてあった。相続スキル?と書いてあるものには、方法は書いていない。推測しながらこの資料を書いていたのだろう。

「ええっと、『糸使い』はと……」

 探してみたが、その名前のスキルは見当たらなかった。やはり珍しいスキルなのだろうか。ちょっと考えて、『使い』という言葉がつくスキルを探してみる。

「あ、あった。『人形使い』。えっと、魔力によって人形を生きているかのように操ることができる。人形は布の人形からゴーレムまで多岐に及ぶが、魔力の量によって、動かせる人形の大きさが変わる。なるほど。」

『人形使い』が人形を動かせるスキル、と言うことは、『糸使い』は、糸を動かせるスキルということになる。

「そういえば、麻痺スキルにも『束縛の糸』っていう言葉が入ってた。そのことと関係があるのかなあ。」

 結局それ以上のことは分からず、そのままリーズはその資料を戻して帰ることにした。

「明日の冒険で確認するのが一番だよね。」

 それがリーズの新たな決意だった。















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