ムーンライトマジック

暗黒星雲

第1話 月あかりと青い岬

 はい、そうなんです。真夜中に呼び出されました。ママの目を盗んでコッソリと外出……したわけではありませんけれども。


 今夜は満月。ちょうど、中秋の名月と言われている美しい姿を見ることができます。月を眺めていると、何故か神秘的な気持ちになってきます。不思議ですね。


 さて、月は大きいですか? それとも小さいですか?


 実はですね。月の大きさって、五円玉の穴と大体同じなんですよ。


 え?

 そんなに小さいはずがないだろうって?


 いえいえ、そんなもんなのです。


 右手で五円玉をつまんで前に突き出します。そのままその五円玉を月に向けてください。


 ほら、満月がちょうど五円玉の穴に収まったでしょ。

 そう、それが視直径と言われているものです。大体0.5度ね。


 実は太陽の視直径もほぼ同じなのです。だから、日食という天体現象が起きるわけ。視直径が同じだからこそ、あのドラマチックな演出になるって事よね。


 さて、他の天体だとどの位でしょうか?


 銀河鉄道999などで有名なアンドロメダ銀河は1.9度で月の五倍くらいとなります。案外大きいの。肉眼でも観測できますが、条件の良い場所でないと見えません。


 宇宙戦艦ヤマトで有名になった大マゼラン雲ですが、こちらは10.75度です。月の二十倍くらいですね。ぼんやりと雲状の天体が肉眼でもはっきり見えるらしいのですが、実は私、見た事が無いのです。私もいい加減長生きしているのですが、南半球には行った事が無い。そもそも、あちら側は魔術の系統が全く違うので、全く興味がないというのが正直なところだったりします。


 さて、千年以上生きている魔女であるこのワタクシを呼び出す不届き者はどこの誰なのでしょうか? ハンサムなイケメンさんだったら許してあげますけど、不細工なカエルとかカメだったら踏みつぶして差し上げますわよ。


 月の光が降り注ぐ砂浜。その先はこじんまりとした半島になっております。


 私は愛車550FXのエンジンを切ります。ドルルル……と響いていた排気音がピタリと止まり、周囲は静寂に包まれます。


 穏やかな波の音がよく聞こえますし、遠くから鈴虫の鳴く音も聞こえてきます。


 淡い月の光が凝集して人の姿となりました。男の人です。ジーンズにポロシャツという地味な格好ですが、黒い髪を肩まで伸ばしているのは少しセクシーかもしれません。彼も魔法使いなのでしょうか?


「やあ、イランからの留学生、シファー・マラクさんですね。僕は千堂尊せんどうたける、長門の国の陰陽師に連なる者です」

陰陽師おんみょうじですか?」

「長門の国の陰陽師、機装院流です」


 その流派は聞いたことがある。鎌倉時代にウラジオストク方面より来襲した巨大怪獣を屠ったと言い伝えられているのだが、私が日本に来た室町時代には、既に後継者はいなかったはずだ。


「陰陽師とは平安時代の魔法使いと聞いていますが、現代でもその使い手がいると?」

「ええ、そうです」


 そう答えた彼、千堂は胸ポケットから紙を取り出してそれに息を吹きかけました。するとその紙から何か青白いものがにゅるりと湧き出してきました。それは大男の姿となって私の目の前に立ちすくんでいます。


 それは頭に二本の角が生えた青い大男……鬼そのものでした。


 




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