第17話 清見百合絵は崇める
◆清見の部屋
「ふう。今日も疲れたわね」
清見百合絵は暗い部屋の中でひとり呟くと、セーラー服のリボンをシュルリと解いた。
委員長として、時期生徒会長としての重圧を感じたことはない。自身の能力を思えば、教師やクラスメイト達に信用されることは容易い事だった。
いつもそうだ。清楚な見た目、聖母、優しい理想の女の子……学校だけではなく、家族すらも清見百合絵という人物に対して、自身の理想を重ねた色眼鏡で見ていた。
その期待に応えるのは容易だ。しかし、それらの視線は確かに清見を疲弊させていった。
(私は疲れ切っていた)
そんな時期だった。ふと、興味本位で格闘技を見始めたのは。自分の代わりに、誰かを殴る人間を見れば心が少しは晴れやかになるかもしれないと、後ろめたい思考に陥ったのは。
しかし、結果は失敗だった。他人が他人を傷付けるのを見ても不快感すらしか沸かない。そうして動画を飛ばしていた時、偶々見つけることが出来た。
上桑幸運。彼はまるで、コンピューターが人の皮を被ったような存在だった。他とは根本的に全てが違う。
他の選手達が熱を持って人を殴っているのに対して、彼の試合に無用な熱など皆無だった。全てが緻密で計算され尽くしていて、殴るという行為すら神聖な儀式に思えたのだ。
まるで、美しい幾何学模様みたいな人……。
(知りたい。近付きたい。触れたい!)
彼を思う度に色々なモノが溢れてくる。
ハアハア。呼吸が荒くなるのを止められない。早く!早く!彼を自分だけの存在にしたい。私だけを見詰める存在になって欲しい。
そんな想いが清見を覆い尽くすと、彼女は大きく口角を上げて嗤っていた。
(早く明日にならないかしら。そうすれば彼に会えるのに)
いっそのこと『貴方のファンです』と伝えようかしら?……ううん、それは駄目よ。彼が求めているのはファンではない。取り留めない日常生活を、共に笑ったり泣いたりして共感できる人間だ。まずは、私が彼の日常にならなければ。
(焦っては駄目。彼は絶対に、私を好きになりつつある)
清見は電気を点けてからクローゼットを開く。
そこには、ギッシリと拡大された写真が敷き詰められていた。
「今日はいっぱいお話できたね。幸運君♡」
それらの写真。それは全て上桑を隠し撮りしたものだった。中でも特にお気に入りの1枚に近付いた清見は、チュッと音を立てて口付けをする。
「嗚呼……私の
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