バイトをすれば無敵になる男
矢印ノ介
第1話 気になる人
スマホを見てみると時刻は朝の7時4分。
私が乗る電車の出発時刻は7時28分だが、実際には7時14分に来る。
こんな早い時間から待っている理由は単純で--人が少ない、座りたい、目に入った人の心の声が聞こえてくる、この3点だ。目的の駅までの27分間は私の至福であり、「小説タイム」。
その27分の為だけに早起きしていた。そう、つい先日に気になる人がデキるまでは--
私は常に一番最後の車両に乗っている。
一番後ろのため、人に気を遣わずにゆっくりと登校できるからだ。
そんな中、右側に立っている私の隣、つまり左側に偏差値50の男子大学生と検索したら出てきそうな青年が並んだ。
大学ってこんな早く行くものなのか、些か疑問だ。
朝からいったいどんなエロい妄想でもしてるかと思い、罪悪感を中2で捨てた卑しい気持ちでチラッと横目を向ける。
(あいつ等ぶkkkk.....っ殺してやるよ!!)
私はそっと焦点を線路に向けた。
いやまぁ、朝から物騒なことを考えている人珍しくない。
会社の上司や親や教師への愚痴、政治批判など聞いてきたのだが、この純朴そうであり、反抗期がなく育ったであろう見た目をした青年から、喉が潰れたプロレスラーのようなドスが効いた野太い殺害予告が聞こえてきたことに面を食らった。
でも、みんなそういう部分は抱えているものだ。気にしない気にしない、ドントマインド。
私にはマイルールがあり、一度心の声を聞いた人からは自分から聞きにいかないというものだ。12回破っているが、このルールを大切にしている。
男子大学生がスマホを取り出すのを周辺視野で確認した。怒りの原動力はなにか、その野蛮な脳内で何を見ているのか、好奇心が疼いてまた横目でチラッと心の声に聞き耳を立てる。
13度目の掟破り。
(Dogかわいい。やっぱDogのお尻かわいいよな~ふりふりしたしっぽとか超キュート♡)
私はそっと焦点を線路に向けた。
あの怒りはもう収まっていた。さっきまでのドスが効いた野太い声とは裏腹に爽やかな声であった。
あそこまでの怒りをかき消すワンちゃんの偉大さとワンちゃんをDogと呼ぶ気色の悪さを同時に感じていると、電車が到着するアナウンスが駅内に響く。
扉が開き、降りる人達の靴を見送ってから一番端の席に座り、鞄から小説を取り出しページを開く。ワンちゃんをDogと呼ぶ男子大学生は私とは対角線を結ぶように端の席に座っている。
また会えるかは知らないが、電車の待つ暇つぶしになるから月1ぐらいで隣に並んでほしいなと考えながら電車は目的地に進んでいった。
--翌日
昨日と同じ靴を履いている青年が隣に並んでいた。
あぁ、間違いなくDogだ。
昨日のインパンクは凄かった。深い衝撃だった、ディープインパクトだった。私の隣に来てしまったのが運の尽きだと同情しながら横目をチラッと向ける。
(あいつ等の顔面で便器掃除してやるよ!!後悔させてやるよ、僕の睡眠を妨げた糞どもを便器に戻して——)
私はそっと焦点を線路に向けた。
怒りのボルテージがテン上げ過ぎる。怒りの矛先は夜中に騒いでいる連中なんだろうなーと薄っすら想像できる。
確かに、睡眠を妨げられるのは不快であり不愉快快だ。それにしても表現が過激すぎる。
だがちょっと癖になっている自分もいる。次はもうちょっと長く聞こうと横目を向ける。きっと今ブス。
(ずっとうるせーだよ!!あの糞野郎ども...一輪車で暴れやがって)
乗り物が女子小学生かな...
(気持ちわりー金髪男、キノコ男、蛍光男)
蛍光男の一輪車はおもろそう。
(でもバイトしてるんだろうなー。僕は仕送りで親のスネかじって生きている...僕の方が立場は下だ。
バイトしなきゃいけないよな、、、でも怖いな…)
私は天井を見上げる。
なるほど、どんなに迷惑な連中でも労働してお金を稼ぐことを偉いと考えている。
物事を区別して良し悪しを決めれるタイプか…全然悪い人じゃないな。心に思うことなんて自由だし、それで怒りを収められて人に当たらなきゃ何も問題ない。
あなたは大丈夫大丈夫ドントマインドだよ…そう思いながら顔を横に向ける。
(僕がバイトすれば同じ立場た゛よ゛な゛!!対等た゛よ゛な゛!!
そうすればお前ら殺してもい゛い゛よ゛な゛ーーーーーー。犬の餌にしてやるぜ!!はっは——)
…………そこDog foodじゃないんだ...
「まもなく電車が到着します〜お体を黄色い線の—」
--現在
下を向いている視界の左側にいつもよく見る靴を見かける。いつもの大学生だ。
電車が来る10分の暇つぶしにできる--バイトをすれば人を殺すかもしれない犯罪者予備軍、、、
そうバイトをすれば無敵になる男だ。
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