涼風に乗せて

白湯の氷漬け

雨に傘に

【夜】

 篠突く雨に打たれた氷輪。一点、零れた傘の向こう、静寂に溺れた君が見えた。

 手が、酷く黒ずんでいた。


【朝】

 縄の跡、欠けた爪、曇天を写す黒い瞳。

 彼は此方に気がつくと、風を味方に、苦しいそぶりを一つも見せず、陽気に、陽気に、笑ってみせた。

 俺も必死にそれに応える。

「やあ、元気そうだな」

 どうだろうか。稚拙なこの嘘くらいは、隠せただろうか。


【夕】

 日が、影を浮き彫りにしている。青天井に朱が迫る。白雨、梢を傘にしていた。 

 悴む指を折れば、彼らの足音が擦り抜ける。

 刹那、水音、鳴りを潜める。

「酔い語らった、狂う様な日々を、ただ、通っていたかった。」

 跳ねて脚にかかる雫、夕の雨すら長かった。

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