第10話
「次はどうする?」
「前回のは俺のミスだ。作戦はこのままでいい。」
「了解!じゃあ準備してくるよ!」
作戦を行うにあたって必要な物資をかき集めて、机に並べた。武器、トラップ、食料、救急品等が乱雑に並べられている。
「あっ!そうだ!これ出し忘れてた!ごめんごめん!」
エリンは、手の平で皿を作り、拳でたたいて、出し忘れていたものを机に並べた。
「頼まれてた薬だ!」
「ありがとう。助かる。」
何度繰り返しても慣れない痛みと苦しみを誤魔化すためだけでなく、狂いそうな精神を保つためにも薬は必要な品だ。
「これでまだやれるよ。」
ものは揃った。
役者も揃った。
後は俺の覚悟だけだ。
「少し時間もらってもいいか?」
「大丈夫ですよ。時間ならあります。」
「…そのな……。」
いざ口にしそうとすると言葉に詰まる。
どう伝えるべきだ?どの言葉を使えばいい?
相手は高校を卒業したばかりの若者だ。下手な説明や慰めは返って三間坂を傷つけることになる。
悩んでいると、三間坂の方から口を開いた。
「話って、私の妹の事ですよね。」
「…」
モタモタしているうちに三間坂に見透かされてしまったようだ。
返事することすらできず黙って頷く。
「実は、芽島さんがアベルに殺された後、エリンさんに守ってもらいながら実家に帰ったんです。」
「……そうか。」
当然と言えば当然の流れだ。疑問に思うまでもない。
俺がどんなに避けていても、死んだ後の事に干渉することなんてできないのだ。
当然、三間坂は妹の安否を確認しに戻るに決まっている。
「すみません。芽島さんを疑ったわけじゃないんです。ただ…どうしても自分の目で確認したかったんです。それで…」
三間坂は、肩をすくめて、床を眺めがら実家の惨状を語った。
そこには妹の姿はなかった。
荒れに荒らされた実家のリビングには、赤く小さなトカゲのような怪物がいて、こちらに気づいた途端に襲いかかってきた。
咄嗟にエリンが割って入り、赤い怪物を射殺した。その後、エリンからscp- 939について教わったそうだ。
939が人の赤子の姿で、生まれて、成長し、ある日、体調不良を起こして苦しみながら自らの体を引き裂いてあの赤い怪物へと姿を変える。そして、人を食らい続けるのだ。
その瞬間理解した。
妹の正体は、島の人々を食い殺した怪物と同じ存在だったのだと。怪物は死ぬ間際まで「お姉ちゃん!」と泣き続けていた。
それは、私を騙すためだったのか?それとも助けを求めていたのか?今となってはその意図すら分からない。
「すまない。俺が…」
俺がなんだ?もっと強ければ良かったのか?単独で、アベルをぶっ殺して、三間坂が妹の真相に気づくことなく新たな人生を歩ませられたら良かったのか?ちがうだろ。
_____俺はただ逃げていただけだ。
何度も逃げて逃げて逃げて逃げ続けて、結局彼女に縋って、いざ真相を話すとなると怖気付いている。なんて無力で情けないんだろう。
「この件は誰も悪くないです。生まれてきた妹も、養子に迎えた私の両親も、隠し通してきたあなただって悪くない!だから_____」
三間坂は、涙を拭い、こちらをまっすぐ見据えて、自己嫌悪に駆られる俺に手を差し伸べてくれた。
「必ず脱出しましょう!三人で!」
三間坂の手を握り握手を交わしながら、俺はまた、彼女に隠し事をした。
「ああ。そうだな。」
三人で脱出する事は何度試しても無理だった。だが、二人だけなら可能だ。
俺が死んでも、アベルさえ排除できれば後はエリンが三間坂を守ってくれる。
俺の役目は明日で終わる。
三間坂が明日を迎えられるならそれだけでここまでの苦労が報われる。それでいい。
そこに俺がいる必要はないのだ。
彼女は18と言う若さでその過酷な運命を受け入れて前へ進んでいる。
だったら俺もそれに応えるべきだ。
死ぬ事がわかっていながら火事場に入った消防士の様に、託された銀の弾丸を恐怖の塊に撃ち込んだDクラス職員の様に、俺も運命を受け入れよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます