第7話

今から行っても三間坂の記憶は消えているだろう。まずは死ぬ前提の下準備からだ。

 手始めに、三間坂と合流して、面識を持った。

 この段階で確認したがやはり前回の記憶はなく、初対面の反応を示した。

 それから、出来るだけ長い時間を三間坂と過ごして、信頼関係を築き上げたのちに自分が立てた仮説を説明する。

 三間坂は、自分が現実改変能力なんて言う得体の知れない力を持っていた事を最初は「そんなバカな。」と疑っていたが、全てを予言して、その全てを的中させて見せると半信半疑だが、信じてくれた。

 それから出来る限りの情報を伝えて最後の時間を迎える。

 例によってアベルと接敵して、抵抗虚しく追い詰められた。

 両手を切り落とされて、死を悟った俺は最後に残酷な命令を出す。

「時間が巻き戻ったら、出来るだけ息を止めて、屋上へ向かえ!怪物に追い詰められたら自害しろ!俺が駆けつけるまでそれを続けるんだ!」

 これから三間坂を助けるために何度ループする事になるだろう。俺の仮説が正しければ、三間坂は何度も残酷な死を遂げる事になる。

 何とも酷い作戦だ。

 俺がアベルに勝てないからと少女に何度も自殺を強要するなんて狂っている。

 自己嫌悪に苛まれながら振り返ると三間坂はただ黙って頷いた。

「必ず助けに行く!待っていてくれ!」

 胸を貫かれて死亡して、ヘリの中で目を覚ます。

 ここからは時間との戦いだ。

 939を三間坂と接触する前に排除する。

 それは何度か試みたが、失敗したルートだ。

 三間坂の救助に間に合わない度に彼女は自殺を繰り返して、精神をすり減らす事になる。

 モタモタしていれば三間坂は精神を病んでしまって最悪の場合能力を発動しなくなる危険性もある。

 そうなれば本当に何もかも終わりだ。

 自分の足では間に合わないのはループするまでもなくわかり切っている。

 そのため、まず動かせる車両を探すとこから始めた。

 最初に郵便局の小型バイクを発見した。

 局内を捜索して何と鍵を入手したものの道中939の襲撃に合い、側溝に突っ込んで死亡した。

 バイクじゃあダメだ。

 他の使える車両を捜索する。

 もっと防御力があってパワーのある939から襲撃されてもゴリ押しで前進し続けられる車両があればなんとかなるだろう。

 あちこち探し回って発見したのは引越し業者の大型トラックだった。幸いなのは鍵が差しっぱなしで、すぐに動かせる状態だった事だ。

 不幸だったのは、俺は大型の免許なんて持ち合わせてない事である。

 とりあえずエンジンをかけて学校へ向かった。意外にも上手く運転出来てるなと過信した途端にカーブを曲がりきれず、壁に突っ込んで事故死した。

 それから何度か事故死を繰り返して、コツを掴んみ、最終的にはベテランドライバーに負けず劣らずの運転技術を身に付けることができた。

 そこからはあっという間だった。

 トラックに乗り込み校舎へ向かう。そしてグラウンドを徘徊する939をめがけてフルスロットルで突っ込むのだ。

 その結果何度か死ぬ事となったが、根気よく続けた結果、どの角度からどれほどの速度で突っ込めば939を殺しつつ自身が生き残れるかがわかった。

 これで、やっと三間坂を迎えに行ける。

 939の死亡を確認したのちに目的の屋上へ向かう途中、久々に見る女子高生が胸に向かって飛び込んできた。

「…ずっと待ってたんですよ!」

 胸の中で泣く三間坂は震えていて、どれだけ怖く、辛く、不安な思いをさせてしまったのかは想像できなかった。

「ああ…長い事待たせてすまない。」

 もうこんな思いはさせたくないが、現実的に考えて、あと一回でだけアベルに勝てるとは思えない。

 お互いまだまだ死ぬ事になる。そう思うと何と声をかけてやるべきか、わからなくなって来た。

 遠い目をしていると、泣き止んだ三間坂が怪訝そうに顔を覗き込んできた。

「無茶しすぎです。」

「どうせ生き返るだろ?」

「これからは私も記憶を持ったままループする事になるんです!慎重に頼みますよ!」 

「しっかり全部覚えてる様だな。」

「当然ですよ!」

 いつも通り保健室に立て篭もり、食べ飽きたレーション胃に突っ込む。

 以前までは「美味しい!美味しい!」と言っていた  も流石に飽きたらしく、真顔でただ作業のように口へ押し込んで経路保水液で流し込んでいる。

 食べ終えてからはお互いの情報を共有した。

 何度繰り返してもアベルには勝てないし、逃げきれない事、赤い怪物「939」が出す物質が体内に入ると記憶障害を引き起こす事、安定して生き残れるルートを伝える。

 三間坂からは俺が死亡した後の流れを聞くことになった。

「前回のループの時、貴方が死んだ後の1日だけ生き残れたんです。」

「アベルが見逃してくれたのか?」

 サイコパスで戦闘狂で、快楽の為に殺人を繰り返すような奴がわざわざ獲物を逃すとは思えない。

「実はもう一人生存者がいて、その人が助けてくれたんですよ!」

「生存者?嘘だろ?何周探し回ったと思ってるんだ?」

「ただの生存者じゃなくて貴方と同じ軍人?でしたよ。山に入った辺りからずっとつけてきてたらしくて、芽島さんが殺された後続いて殺されそうになっていた私を助け出してくれたんです!」

 もし、財団の機動部隊員が俺の他に生き残っていれば、わざわざ身を隠して尾行なんてしないはずだ。

 共に行動した方が連携が取れて生存率は高くなる。

 そのメリットを捨ててまで監視に徹して付いてきていたとなると別の組織である可能性が高い。

「特徴は?なんか目立つワッペンとかつけてなかったか?」

 三間坂は、「うーん…」と目を閉じて顎を人差し指に置きながらしばらく考え込むと「あっそうだ!」と何かを思い出したように手のひらで作った皿を拳で叩いた。

「たしか肩に青い星が書かれたワッペンが貼られてました!あと!『財団の人間は話せばわかるが基本クソだ。』と言ってましたよ!」

「GOCか…なるほど納得だ。」

「オカルト連合」通称「GOC」

SCP財団と同じく、異常存在が表に出ないように活動する秘密組織である。

 財団と違う事はその手段だ。「確保、収容、保護」によって対処する財団に対し、オカルト連合は「破壊」によって対処するのである。

 何が起きるかわからないオブジェクトをこの世から消す事でこの先ずっと続く平和を確保できる。それがGOCのやり方だ。その考え方は間違ってはいないが、あまりにもリスクがデカすぎるため、財団では特殊な例をのぞいて推奨されていない。

 物理法則の通じないscpオブジェクトはそもそも破壊できない場合が多いのだ。それに、個人の判断で未知数のオブジェクトを破壊してしまい、取り込まれた生存者を救出できなくなってしまったり、オブジェクトが凶暴化したり、さらに強力な特異性を持たせてしまったりとする前例が多く存在している。

 それでもなお「破壊」しようとするオカルト連合と財団の意見が合わず、財団はオカルト連合を「要注意団体」と呼称して警戒している。

 幸いにもお互いに「話せばわかる。」程度の信用はあり、過去に何度か、異常存在や他の要注意団体を制圧するために合同作戦を行っている。

 一職員として接触するのは初めてだが…まぁ…どうせ死んでも生き返るんだし、なんとでもなるだろう。

 今回のオカルト連合側の任務が何なのかはわからないが、今回も「話せばわかる。」内に入れば強力してくれるかもしれない。

 戦力が増えれば、その分、勝機が格段に跳ね上がるだろう。

 久々にいいニュースが聞けて良かった。

 「何人いた?」

「一人です!すごく美人なお姉さんでした!」

「……。」

 当然と言えば当然だ。複数人いれば流石にどっかのタイミングで気づけてただろうし、こんな地獄のような戦場で何人も生き残ってるはずもない。

 こちらの気も知らずに三間坂は笑う。

「あれ?どうしたんですか?緊張してます?大丈夫ですよ!彼女はすごくフレンドリーな人でしたから!」

 

 

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