第5話

 しばらく芽島の誘導のもと村の中を歩いた。

芽島は、曲がり角から五メートルほど手前で立ち止まると側溝の蓋を開けて指刺した。

「ここに入れ」と言いたいのだろう。口に出さないのは多分あの曲がり角に何かがあるからだ。なぜそれがわかったのかはわからないが、ここは大人しく従うべきだろう。

 黙って頷き側溝に入ってしゃがみ込んだ。

「助けて!殺される!」

 曲がり角から悲鳴が聞こえて来た。

 芽島が感じ取ったのは生存者の気配らしい。怪物と遭遇せずに済んだ事で、安堵するのと同時に二週間ぶりに新たな生存者と会えたと歓喜する。

「良かった!今すぐ助けッ?!」

 芽島の手には安全ピンが抜かれた手榴弾が握られており、次の瞬間にはなんの躊躇いもなく、曲がり角に投げ込んでいた。

 爆風と爆発音が鳴り響き、それに反応して、咄嗟に頭を抱え込み、うずくまる。

 爆発音がおさまると間髪入れず無数の銃声が鳴り響き、数秒後には静まり返る。

「終わった。出て来ていいぞ。」

「何を考えてるんですか!?相手は人間で…え?」

 目の前には人間ではなく赤い怪物の死体が横たわっていた。意味がわからず困惑する私に芽島は説明してくれた。

「コイツらは人間の声を真似ることができる。だから、視界に入った俺以外の声は信用するな。」

「そうだったんですね…。」

 それでも腑に落ちない。芽島は視界に入る前には怪物の存在気づいていたし、それも目で確認する前にだ。村中を捜索し終わっているとして、人である可能性をあんな一瞬で捨て切れるものなのか?その上最初から全部わかっていたかのような動きだった。どんな仕掛けがあるのだろうか?

「妙に出際がいいですね。何か仕掛けがあるんですか?」

「まぁ34回目だからな。いやでも覚えるよ。」

 34回目?覚える?ますますわけがわからない。まるでゲームを何周もクリアしたような言動だ。彼は一体何者なんだろう?

 

 島を脱出するためには村から浜辺へつながる橋を渡る必要がある。まともに整備された唯一の道がその橋だ。

 正確には他にも選択肢はあるのだが、赤い怪物がどこに潜んでいるかわからない上に資源も限られているため回り道したり、道なき道を進むわけにもいかない。そのため橋を渡る事となった。

 しかし橋に差し掛かった所でそれが姿を現した。

 橋の前に立ちはだかったのは、黒い肌に黒い何かしらの模様の刺青が彫られている筋肉質な肉体を持つ青年だった。

 その手には黒い剣が握られていて、不気味な笑みを浮かべながら鋭い視線を向けてくる。

「要注意団体も赤いトカゲも弱すぎて話にならない。やはり財団の戦士が一番歯応えがある。なぁ?そうだろ?」

 聞いたことのない言語だったが、芽島は開戦の合図だと捉えた様で、青年向けて発砲した。青年は当たり前の様に銃弾を剣で切り落とす。

「今度こそ殺してやるよ!サイコ野郎!」

 そこからは素人には理解できない凄まじい攻防だった。黒い刃をとんでもない速度で繰り出す青年とそれをすんでのところで避ける  の攻防は30秒ほど続いた。

 じわじわと傷つけられていく芽島に対して青年は無傷だ。

 何度か銃弾を受けていたと言うのにおかしな話だが、青年の肉体には傷がない様に見える。

 その攻防の決着はあまりにもあっけなく着いてしまった。

 刃に気を取られている芽島の腹部に青年の膝蹴りが炸裂した。

 勢いよく体をくの字に曲げながら飛ばされた芽島は向かい側に生えていた木に叩きつけられて口と鼻から血を吹き出した。

 明らかに重症だ。

「18手か…まぁ耐えた方だな。」

「なに?」

「ほら!さっさと殺せよ!」

 黒い刃が芽島の首を跳ね飛ばした。

 足元に転がって来た生首を見て絶望し、絶叫する。

 ありえない。あんなに強かった芽島がこんなとこで死ぬはずがない。これは何かの間違えだ。

 泣き叫ぶ私に「哀れだな」とアベルは言い放ちつ。まるで蟻の巣でも見下ろす様な冷めた視線だ。

 絶望は憎悪へと変わる。

「ふざけんな!!」

 芽島から護身用にと渡されていた拳銃を構えた時には、すでにアベルの姿は無くなっていた。

 全く気づかないうちに両腕が綺麗に切断されていて肩から下が嘘みたいに軽くなる感覚を覚えた。

 痛みなんて感じるまもなく、首を刎ねらる。 首だけになり、宙を舞いながら意識が途切れるその瞬間に見えたのはあの忌々しいサイコパスの笑顔だった。

「お前なんか…」

 

 

 

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