第3話
「どうぞ」
凛美空は、身体を起こして迎える。
「じゃーん。防衛おめでとー」
明るい声とともに入ってきたアヤナは、大きな花束を手にしていた。まだ、きらきら光るラウンドガールの衣装のままだ。
「ありがとう……」
凛美空ははにかんだ笑みを見せる。
あまり笑わないので暗く見える彼女だが、時折浮かべる微笑は可愛らしい。
「大丈夫? 打たれたとこ、痛くない?」
目の上の痛々しい傷痕を見て、アヤナは心配そうな顔をする。
「平気。私たちにとっては、普通の、ことだから」
そんなことを気遣われるとは思っていなかった凛美空は、戸惑ったように視線を揺らす。いまだに人見知りみたいな反応をすると、ときどき会長にも言われる彼女だが、確かに、ボクサーとは思えないほど内向的だ。彼女がナチュラルに打ち解けられたのは、後にも先にも、凛だけだった。
「ねぇ、この後、祝勝会する? わたし、いいとこいっぱい知ってるよ」
まるで自分が勝ったかのようにうれしそうに言うアヤナに、凛美空はうつむいて首を振る。
「祝勝会は、しないでくれって言ってるんだ。会長にも。凛と二人で、過ごしたいから。ごめん……」
「あ、そっかぁ……」
凛美空と関わり始めてまだ三ヶ月ほどのアヤナだが、その言葉の意味は分かる。凛美空は、凛の部屋で静かに過ごすつもりなのだろう。
凛美空には、自分が幸せになることを避けようとしているようなところがあった。極端に娯楽を削り、うまいものも口にせず、浮かれたことをしようとしない。よく知らない人間から見れば、ボクシングだけに集中したストイックな人間に見えるのだが、近しい者は、そうではないことに気づいている。要するに、凛への贖罪と自分への罰のために、修行に徹しているのだろうと。
気まずい沈黙が流れたところに、二度目のノックが助け船となった。
「凪砂です」
桧会長もいっしょだ。
「凛美空、じゅうぶん休んだか? そろそろ、帰るぞ」
「はい……」
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