第11話 最後の悪あがき ―失墜する勇者たち

 王城の大広間。

 邪竜の眷属を撃破した翌朝、ルークは国王に呼び出されていた。

 黄金の玉座の前に立つと、群臣や騎士団、各地からの使者たちが列席している。

 人々の視線は、ただ一人に注がれていた。


 「ルーク殿」

 国王は威厳ある声で告げる。

 「卿こそ真の英雄だ。邪竜の完全復活が迫る今、この国を導くのは卿をおいて他にない」


 その言葉に、大広間は歓声と拍手に包まれた。

 だが――そこへ割って入る影があった。


 「待ってください!」


 広間の扉が乱暴に開かれ、勇者エドガーが飛び込んできた。

 その後ろには、疲弊しきったセリナ、リシェル、カインの姿がある。

 群衆のざわめきが広がる。


 「勇者パーティだ……まだ生きていたのか」

 「ルーク殿を追放した連中だろう?」

 「何をしに来た?」


 エドガーは人々の視線を浴びながら、必死に声を張り上げた。

 「我々にも戦わせてください! 邪竜討伐は、一人では危険すぎる! かつての仲間として、共に戦うべきです!」


 その叫びに、広間は一瞬沈黙した。

 だがすぐに冷笑と嘲りの声が響く。

 「かつての仲間?」「追放したくせに?」「厚かましい!」


 セリナが震える声で続けた。

 「私たちは……誤解していたの。ルークの保存庫が、これほどの力を秘めているなんて知らなかった。だから、今度は――」


 リシェルが涙を流し、必死に訴える。

 「お願いします……どうか、私たちに償わせてください……」


 群衆の視線は冷たかった。

 王城の重臣の一人が厳しく言い放つ。

 「卿らは勇者の名を汚し、英雄を追放した。結果、この国は危機に晒された。今さら償いなど、誰が望む?」


 エドガーの顔が蒼白になる。

 だが彼はなおも縋りつこうとした。

 「……だが、俺たちには経験がある! 竜と幾度も戦った! 仲間に加えれば――」


 その瞬間、玉座から低い声が響いた。

 「黙れ」


 王の瞳は冷徹だった。

 「お前たちに与えられていた名誉は、すでに失われた。民はお前たちを英雄と呼ばぬ。国もまた、必要とせぬ」


 広間に重い沈黙が落ちる。

 群衆の誰もが、勇者パーティの末路を目の当たりにしていた。


 「勇者エドガーよ。お前たちの役目は終わった」

 国王は断罪するように言葉を重ねた。

 「これ以上、この国にとどまるな。恥を晒す前に立ち去れ」


 エドガーの唇が震えた。

 セリナは膝をつき、リシェルは嗚咽を漏らし、カインは拳を握りしめた。

 だが、誰一人として反論できなかった。


 * * *


 その場に立つルークは、ただ冷ややかに彼らを見下ろしていた。

 「……お前たちは俺を追放した。その時点で、お前たちと俺の道は決して交わらない。俺の仲間は、もう別にいる」


 彼の隣に立つイリーナとリリィが、毅然とした眼差しで頷く。

 群衆からは歓声が上がった。

 「ルーク殿こそ真の勇者だ!」「いや、勇者を超えた英雄だ!」


 その声に包まれながら、旧勇者パーティは地に崩れ落ちた。

 彼らに向けられるのは嘲笑と蔑み。

 かつて自分たちがルークに浴びせたものが、今や倍返しとなって降り注いでいた。


 「……ざまぁ、だな」

 ルークの胸中にその言葉が浮かぶ。

 口には出さずとも、目の前の惨状がすべてを語っていた。


 * * *


 夜。

 王都の街では、英雄ルークを称える歌が広まっていた。

 子どもたちは「竜を斬った英雄ルーク」と声を揃えて歌い、酒場では男たちが杯を掲げた。


 その片隅で、敗れた勇者パーティは肩を寄せ合い、惨めに座り込んでいた。

 誰も彼らに声をかけない。

 人々の記憶から“勇者”の名は消え去り、“追放者ルーク”が新たな英雄として刻まれたのだ。


 * * *


 その夜、保存庫の奥で再び光が瞬いた。

 ルークはベッドに横たわりながら、意識を沈める。

 奥に眠る光は、さらに強く脈動していた。


 ――決戦は近い。


 邪竜を打ち倒すために、まだ掴まねばならない究極の力がある。

 そして、その時こそ本当の意味で“ざまぁ”を完結させる瞬間になる。

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