第一幕 双子の夢
真理恵(まりえ)と加奈恵(かなえ)は、双子の姉妹。
一卵性双生児の真理恵と加奈恵は、それは、とても良く似ていた。
しかし、双子とはいえ、別々の人間。
性格も考え方も、そして、夢も違う。
姉の真理恵は、はっきりとした性格で、細かい事には拘らない、そんな性格である。
真理恵の夢は、キャリアウーマン。
仕事をバリバリとして、それを生き甲斐にしたいという。
妹の加奈恵は、おっとりとした性格で、ちょっとした事も気にする、そんな性格である。
加奈恵の夢は、ごく普通の『可愛いお嫁さん』である。
そんな二人が街中を歩いていると、ある館を見つけた。
そこには、【夢占い師】と書かれてあった。
気になった二人は、その館の中へ入る。
中は、壁に何本もの蝋燭の明かりが灯る、薄暗い部屋だった。
その部屋の奥……ガラステーブルと椅子の置かれた前に、一人の男が座っている。
男は、絹で出来た服を身につけ、顔には、鼻の下程まであるレースを付けていた。
部屋の雰囲気と、男の異様さに、二人は、一瞬、戸惑う。
そんな二人に、男は、声を掛ける。
「ようこそ、夢占いの館へ。私は、夢占い師の妖鬼と申します。あなたの夢を叶えて差し上げましょうぞ。」
妖鬼の言葉に、二人は、少しホッとしたように、近付く。
「本当に、夢を叶えてくれるの?」
真理恵が少し疑ったような目で、そう言った。
「はい。どのような夢でも、叶えましょう。それが私の仕事ですから。」
「でも、高い料金を取るんじゃない?」
真理恵が言うと、妖鬼は、フフフと静かに笑った。
「お金は、一切、頂きません。」
それを聞き、加奈恵が口を開く。
「無料って事?」
「はい。お金は、頂きませんが……報酬は、頂きます。」
「報酬?……真理恵、何だか怪しいわ。やめましょうよ。」
加奈恵は、そう言ったが真理恵は、クスッと笑う。
「いいじゃない。面白そう。お金は、いらないのだし、ちょっと、占ってもらいましょうよ。」
「でも……。」
「いいから。」
戸惑う加奈恵の腕を引っ張ると、真理恵は、椅子に腰掛けた。
「では、あなた方の夢を教えて頂きたいのですが……。」
妖鬼の言葉に、真理恵は、クスッと笑う。
「ねぇー、あなた、占い師よね?だったら、私達の夢を当ててご覧なさいよ。もし、それが当たっていたら、夢占いをしてもらうわ。」
少し、馬鹿にしたように、そう言った真理恵を妖鬼は、レースの向こう側の瞳で、じっと、見つめる。
その瞳の輝きが少し、冷たく見え、真理恵は、ギクッとなる。
妖鬼は、フッと笑うと、二人の前に、手をかざす。
「よろしいでしょう。では……。」
瞳を閉じ、妖鬼は、何かブツブツと唱え、しばらくすると、こう言った。
「真理恵様。あなたの夢は、キャリアウーマン。そして、加奈恵様。あなたの夢は、結婚ですな。」
「えーっ!凄い!!当たってるわ!ねぇ、加奈恵。」
「ええ……。」
「じゃあ、その夢は、叶うの?」
真理恵の言葉に、妖鬼は、ニィーッと、不気味に笑う。
「お二人の夢は……。残念ながら、叶いません。」
「はぁ?どういう事よ!あなた、夢を叶えると言ったじゃない!!やっぱり、インチキだったのね!あなた、占い師じゃなくて、詐欺師よ。帰りましょ!加奈恵。」
そう怒鳴ると、真理恵は、加奈恵の手を引いて、そこを去ろうとした。
それを妖鬼は、止める。
「一つだけ……夢が叶う方法がございます。」
「何よ?」
「お二人共、空を飛ぶ物に御注意下さい。」
「空を飛ぶ物……?何、それ。」
真理恵は、フンと顔を背け、加奈恵と一緒に、館を出て行った。
「とんだ時間の無駄だったわね。」
真理恵の言葉に、加奈恵は、ただ黙って頷いた。
それから、一週間が過ぎた頃。
二人は、両親と共に、海外へ旅行に出掛ける事になった。
大空を飛び立つ飛行機。
飛行機の中、加奈恵がこんな事を言った。
「ねぇ、真理恵……。」
「んっ?なぁーに?」
「あの占い師……どうして、私達の名前を知ってたのかしら?」
「……えっ?」
二人がそんな事を話していると、突然、飛行機が激しく揺れだした。
「何?!」
「怖い……!!」
二人は、抱き合い、目を閉じる。
飛行機は、操縦不能になり、海へと墜落していった。
乗客……全員、死亡。
その頃、夢占いの館では……。
「それでは、報酬を頂きましょうか。」
フワフワと浮かぶ、二つの光をサッと掴むと、妖鬼は、それを口の中へと入れる。
ゴクリと飲み込んだ妖鬼は、呟く。
「もう、死んでしまう者の夢は、叶えられませんからね。……だから、言ったのですよ。空を飛ぶ物に、御注意下さい……と。私の占いは、当たるのですから。」
そう言うと、妖鬼は、ニヤリと笑った。
ー第一幕 双子の夢 【完】ー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます