ROBOTIC LOVE

有川悠希

第1話


 目を開けると、音が響いた。はじけるような、頭に響く、けれども嫌みのない、高らかな音。


 午前六時。今日も朝が来た。


 のろのろと着替えて髪を整える。身体が鉛のように重かった。毎朝のようなことだから、もうとっくに慣れたけど。


 今日も昨日の繰り返し。学校に行く意味が見いだせない。けれども、母親のことだ、休ませてくれないだろう。


 朝食を口に詰め込み、水で胃に流し込んだ。本当に面倒臭い。食器を軽く水にさらし、もう一度水を飲み下した。


 鏡の前に立ち、頬に手を添える。



 私は、西薗寺さいおんじマナ


 私は、西薗寺愛。


 私は、西薗寺愛。



 そしてそっと口角を持ち上げる。軽く目を細める。あとは細かい微調整で、綺麗な笑みの出来上がり。そのまま十秒キープ。調子は悪くはないだろう。


 顔の表面をつまんで上下左右に動かし、眼球も動かし、眠るたびに凝り固まる表情筋を和らげる。それから一瞬だけ、真顔に戻ってすぐに笑みを浮かべる。


 大丈夫、きっと今日も、大丈夫。


「行ってきます」


 なるべく明るい声で、母親に伝える。母親も、笑顔で「いってらっしゃい」と、そう返す。今日も、昨日も、一昨日も。


 代わり映えのしない通学路。常に子どもが走っている歩道橋。やはり混雑する駅構内。日々は、淡々と過ぎ去る。それが事実なのだ。私はそのことに安堵を覚える。


 電車がホームに入っても、車内に乗り込んでも、降りても、改札を出ても、いつも通り。同じ建物。同じ時間。同じ人混み。同じ道。遭遇する友人だって同じ。


 相も変わらず私の身体は重たい。


 誰かと会話を交わさなければならない。そんな空間に近づくことを、私の身体は拒んでいるのだ。


 それでも私は教室に出向かなければならないし、授業を受けなくてはならない。


 私の親は、そうであることを望んでいて、そして、私の姉が、そのように生きているから。


 辛いと思わなくなったのは、いつからだろう。



 今日も、地獄は繰り返される。

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