キミと私とあなたで一夫二妻

ストラディ

第1話 3人のはじまり

まずい……まずいわ…… ――どうしてこうなった。

 笑顔の端に涙を浮かべ去り行く親友。

 申し訳なさそうにうつむく青年。

 高校2年の春、心おどる告白イベントというやつがこれであっていいのか!。


 ――運命が動き出す日の朝。

 玄関の姿鏡で長く綺麗な黒髪を解かし、身だしなみを整えたら。

「私はできる!私は完璧!ななみーは最愛!」

 私 天城瑠衣てんじょうるいは鏡に笑顔を残し、学校に向かう。

 

 校門前で朝が弱そうに歩いてるのは私の親友 姫宮ひめみやななみ。

「おはよう!ななみー」

「おはよ!るいちゃん」

「もう……また寝ぐせがついてる」

「お兄ちゃんが先に出ちゃってぇ~」

 モコモコした栗毛。桜の花びらがついた髪。

 手櫛でそっと解かすと、かすかに甘い菓子の匂いがした。


 中学で知り合って仲良くなってからずっと一緒の二人。

 私は親友ななみに特別な感情を抱いている――それは

 ななみの幸せが私の幸せ、ななみの願いが私の願い。

 ――そしていつか天使のような、ななみの子供を抱かしてもらう。

 私にはその願望を実現できる思考と行動力がある。


 新学期が始まって早々の放課後。

 私達は「製菓同好会」で菓子作りをしている。

 高校に入学してすぐ立ち上げたこの同好会。

 ななみのご実家は人気洋菓子店で、ななみはよく手伝っている。

 家庭科調理室の部室で二人きり。

 なにやらモジモジしているななみ。

 ――きたかっ。


「あのね、るいちゃん、私、好きな人がいて」

 グッ、ちょっと嫉妬にも近い憎悪を感じるがスッと昇華し。

「そ、そう――素敵な事ね、誰かを好きになるって!もしかして」

「――うん、白石悠人しらいしゆうとくんなの」


 白石悠人、スペックは平均値以上、性格も誠実・優しいで良し。

 同じ製菓同好会、というかこの会はそもそも3人しかいない。

 製菓技術やセンスも悪くない、ななみの相手には申し分なし。

 将来は二人で支え合いながら洋菓子店を切り盛り、も見えた。

 気になる点はなぜ製菓に興味があるのか、今となっては気にしまい。


 「今朝ね、手紙を渡してて。――このあと屋上で伝えるの。」

 新学期早々だからそんなに人もいないだろうし良いロケーション。

 のほほんとしてるななみー、心配してたけど大丈夫だった。

 「伝えようってすごく勇気がいると思う、絶対両想いだよ!」

 

 ――口ではこう言うが半ば確信犯的なものがある。

 白石とはこの同好会で約1年と一緒に過ごした。

 彼の人柄ならななみーが想いを寄せるのも時間の問題。

 わざと過ぎず二人が打ち解けるよう立ち回った私。

 撒いた種が花を咲かせたのだ。

 白石は良い奴だし大丈夫だろう。


 ガチャ ガラガラ 「――やぁ、天城さん姫野さん遅くなってごめん。」

 相変わらず爽やかな好青年、ななみーも少し照れる。

 ななみーと私の仲を知っているから告白の件もシェアしていると分かっているだろう。

 それでも平穏な雰囲気を纏う白石。

 だが私には刹那の瞬間、白石にかすかな影が落ちたように感じた。


 今日は簡単な打ち合わせ、材料、工程などの確認だけ。

 同好会だからそんなに頻繁には菓子作りはしていない。

 打ち合わせもそこそこに顧問から呼び出される部長のななみー。

 ななみーの告白もあるし、どこで時間を潰そうかと考えているとき。

「天城さん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」

 

 ん?、白石が私に?。

 何の話だろう、これから告白される男が。

 ――そうか、白石め、実は告白されるの初めてか?。

 ななみーの親友である私に相談して精神こころを落ち着かせたいのか、初々しい。

 

 白石に先導されながら菓子の話、2年になってこれからの話、好きな本や映画の話。

 気付けば私達は屋上に来ていた――。


「すぅ――、……実は僕はあなたが好きです、天城瑠衣さんッ!」

「……………………は?」

 何を言われたのか理解できなかった、一瞬世界が止まる。

 加速して走馬灯のように情報が雪崩れ込んでくる。

「まって……まって待って……」

 なぜこれから大好きな、ななみーから告白される白石に私が告られている。

 今、頭は焦りしかない、この状況、不意打ちの奇襲。


「落ち着いて白石くん、あなた何を言っているか分かっているの?」

 徐々に怒りにも似た感情が沸き起こり始めるが。

「1年の頃から君に一目惚れしてずっと一緒に居たくて」

 ――――そうか、この男が製菓同好会に入った理由は。

 ななみーじゃなくて私だった…………。

 全て合点がいくと同時にすでに瑠衣は次の思考を始めていた。


「白石くん、気持ちはすごくうれしいわ」

 全然嬉しくない。

「でもななみの気持ち、あなたなら分かってるはず」

 なんとしてでも説得しないと。

「悪いけど私は気持ちに応えられない、でもななみなら――」

 畳みかけるように次、次と一手を繰り出す。


「それは……姫宮さんで妥協しろってことかな?」

 くっ――チェックメイトにも似た正論。

 告白はされないようにしてきた。男女の恋愛で自分が当事者になるなんて。

 後悔が先行するが悔やんでいても仕方がない。

「妥協だなんて人聞きが悪いわ、私なんかよりななみ」

 ガチャガチャ 屋上への扉を開けようとする音――。


 「あ、白石くん、待っててくれたんだ」

 とっさに隠れた瑠衣。

「う、うん、ちょっとね」

 ちょっと不思議に思うがいよいよ告白モードになるななみ。

 瑠衣ちゃん見当たらなかったけど、きっとどこかで待っててくれてるよね。


「――あのね、白石くん、入学して同好会立ち上げた後」

 告白が始まり青ざめながら息をのむ瑠衣。

「あなたが入ってきてくれて一緒にお菓子作ったりお話したり」

 声にならない声を上げながら必死に口を押さえる瑠衣。


 「あなたのことを考えると心があったかくなるというか」

 ななみーの可愛さにうっとりする瑠衣。

「これが好きって気持ちだと思う、白石くん好きです、私と付き合ってください」

 半分意識が飛びかける瑠衣。


「ありがとう姫宮さん、すごく気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい」

 初めて人を殴ろうとする右手とそれを抑える左手で震える瑠衣。

「――そっか、――やっぱりそれって……」

「うん、実はさっき僕も告白して振られちゃったんだ、だよね、天城さん」


 白石の思いがけない行動で放心状態になる瑠衣とななみ。

 おのれ白石ぃ――――憔悴しながら気まずく出てくる瑠衣。

 ずっと固まったままのななみ。

「あのね、ななみ、白石くんから話があるって、それで気持ちを告げられて……」

 

 我に返るななみ。

「う、うん……でも伝えられてすっきりした、というか」

 徐々に目が潤み始め堪えるのでやっとのななみ。

「明日……部活がんばろうね……それじゃ……」


 まずい……まずいわ…… ――どうしてこうなった。

 笑顔の端に涙を浮かべ去り行く親友。

 申し訳なさそうにうつむく青年。

 高校2年の春、心おどる告白イベントというやつがこれであっていいのか!。

 

 こうなったら――切るしかない……。

 ――この切り札カードをっ!。


 

 去りかけた親友が思わず急いで振り返らざるを得ないくらい。

 うつむいていた青年がその光景に虚を食らわされるくらい。

 そこには小さく震え、はばかりもせず大声で大粒の涙を落とす瑠衣。

 品に満ちた振る舞い、黒く美しい長い髪、歳不相応な均整の取れた躯体。


 中学時代、非凡な才能と見た目で周囲から浮いていた瑠衣。

 意固地になりコミュニケーションを拒絶していた瑠衣。

 中2の春で一緒のクラスになったななみに声を掛けられ。

 救われた。闇の中で光に導いてくれた。家族以外からの愛を初めて感じた。


 あまりの出来事、到底ありえないことが目の前が起こっていた。

 我に返った2人が瑠衣に駆け寄る。

 

「――イヤだよ、ななみとこれで気まずくなるのは――」

「――どうして私なんか、ななみを好きになってれば――」

 

 今まで間を取り持とうと、してくれていたことを感じていた2人。

 ただ瑠衣が落ち着くまで内省しながら待つしかなかった。


 しばらくして落ち着き始めた瑠衣。

「3人……ぐすっ……3人で付き合うってどうかな?」

 またあっけにとられる2人。

「ななみーは白石くんが好きで、白石くんは私が好きで、私はななみーが幸せになってほしい」

「この問題の解決策って3人で付き合ってみる、って案はどうかな?」

 まだ状況が呑み込めない2人。


「ほら高校生の恋愛って所詮は口約束で法的拘束力はないし」

「この3人なら節度ある交際になるからそういう心配もないし」

「なによりこの3人なら上手く行くと思うんだよね!」

 少しテンション高めに口上手くまくし立てる瑠衣。

 

「るいちゃん……」

 明らかに態度を軟化するななみ。

「いや……でも」

 まだ迷いがある白石。すかさず瑠衣。

「人の考えなんて意外と簡単に変わるかもだし」

「もっとお互いを知るって意味でも良いんじゃないかな~」

 頭を抱えていた白石だったが。

「二人がそれでいいなら……」


 瑠衣は二人にばれないよう。こっそり顔を背け。口元を手で隠し。

「っしぁあ~、なんとか乗り切ったぁー!」と手の下でゲスい顔を浮かべる。

 ななみーが悪い男にひっかかった時のため。

 泣き落としの切り札を切らされるとは。

 でもこれでななみと白石がくっ付けば私の苦労も報われる。

 そしたら後は私がフェードアウトすればいいんだし。


 ちょっと打ち解けた。というかスッキリした表情の3人。

「でもさ、るいちゃんと白石くんとわたしで将来一緒になったら一夫多妻になっちゃうね」

「ええ――そんな多妻って――」

「これ以上増えてどうするのよ、一夫二妻がせいぜいね」



※この作品は「カクヨム」「小説家になろう」「Nola」にて投稿・掲載されています。

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