ネタバレ小説

嗚呼烏

認められにくい恋

この世には、あまり認められていない恋というものがある気がする。

軽い恋愛とか、依存度の高い恋愛。

ネット恋愛とか。

それらには、当たり前に危険性がある。

軽い恋愛や依存度の高い恋愛は、自分や相手を傷つけるし。

ネット恋愛は、素性が深く分からないというデメリットがある。

そんなことを考えた時。

だけど、という一言が頭に浮かんで。

同時に、よく鳴っている扉の音を意識する。

「おはよう、はい。」

ご丁寧にこちらまで来た上、一つ声をかけてくれる彼に。

この通り、はいと言うと。

彼はいつも、少し躊躇いながら。

私に身体を預ける。

「今日も、中川さんは可愛いね。」

彼がそういうことを言う理由は。

もちろん、本当に思っているのもあるだろうが。

照れさせたいからだ。

それは分かっている。

どれだけ好きだと思っているんだ。

性格から、想像できる。

だけど。

抱擁されて、そんなことを言われて。

照れないわけがないだろ、という。

幸せでありながらも、そんな馬鹿馬鹿しいことを繰り広げているこの場所は。

実は、人の多い教室だったりする。

「お盛んだ!」

最初は、そんな言葉があって。

盛り上がっていた。

自覚はある。

教室で恋人らしいことをするのは、珍しいこと。

そして、嫌な人はいること。

「惚気か知らないけど、流石に鬱陶しくない?」

次第に、そんな声が多くなった。

友達ばっかな場所だとしても。

ここは、公共の場で。

だらしないところを見せられたら、嫌だという意識はあるらしい。

「お前ら、いい加減にしろよ。俺らのクラスの風紀を乱すな。」

終いには、そんなことを言われて。

同じ空間にいながらも、壁が出来てしまった。

今の私、いや。

今の私達は、その表現の通りの気持ちだ。

私達の周りには、壁が沢山。

狭い空間だから、より邪魔に感じる壁。

私達からしたら、鬱陶しいのは貴方達だ。

沢山の壁がある現状に、私は問いたいことができた。

私達は、風紀を乱したのか。

これは、彼も思っているだろう。

周りの壁に悪口を吐いても、意味は無いが。

鬱陶しいというのは主観だし、愛情表現は秩序を崩すような行為ではない。

授業になれば、大人しく席に座るし。

迷惑になっているとは、少しも思えない。

貴方達にとって、気味が悪いからと。

風紀を乱しているということにしたようにしかみえない。

私の言い分が正当ならば、愚行もいいところだ。

そもそも、完璧な秩序は生き物の居ない自然だ。

人がいなければ、世界は自然の流れそのものである。

自然災害が起ころうが、困惑する人間が居ない以上は。

存在の途絶えない自然が、ただそこにあるような佇まいをするだけだ。

逆を言えば。

人がいれば、居る分だけ人工の世界に染まる。

その分だけ、わがままが出る。

友達の話におおらかに笑っている奴も。

そこにただ、存在しているだけの奴も。

みんな、みんな。

わがままなんだ。

声を抑えろという話だし、人間は大人数が嫌いなのだからという話だし。

要は。

人間が居て、環境が左右される。

それは、もはや必然だということ。

私達が居て、教室という環境の空気が揺らぐのは当たり前。

唯一、違うところがあるとするならば。

その揺らぎの大小だけだろう。

貴方達が教室で笑っている、その不愉快な声。

私達に風紀について語るのならば、その発言は跳ね返っている。

もちろん、不愉快でない者も。

どんな強度であれ、教室の空気は揺るがしている。

周りより、少し目立っていただけ。

私達に向けなくていい目を、わざわざ向けている分際で。

鬱陶しいとほざくには、早すぎる。

私達は幸せで、貴方たちには危害を加えていない。

なのに。

私達の、永遠の愛を邪魔するな。

「中川さん、そろそろ離れるね。」

その声が意識に入った時に、私の心の声は煩くなくなっていく。

「……嗚呼、ごめん。外川くん。」

そう言いながら、私の大きい体を後ろに引く。

ちょっと、取り乱してしまったが。

私は、常にこんな様子ではない。

腹が立つことには、腹が立つ。

それだけの話だ。

満足していることには、素直に喜べる。

そういうことでもある。

少なくとも、彼には。

こんなにも、腹は立たない。

私は、性格に難がある女ではないから。

自分の思い通りにいかないことに、嫌悪感は無い。

外川くんは、私を癒してくれる男だ。

横に居てくれるだけで、私の幸せになる。

でも、喧嘩はする。

でも、というか。

私は、だからと言いたい。

性格に難がない。

だから、隠さずに嫌なことは言う。

良好な関係に、我慢は無い。

このマインドのおかげで、関係は健全に担保できている。

そして。

こんなに良い恋人がいる、幸せな日常の中で。

私は、彼との結婚を視野に入れている。

これは、独りよがりではなく。

実は、彼も同じである。

「私、外川くんと結婚を視野に入れているんだけど。外川くんも同じ?」

と、私が聞いた時。

「……うん。」

と恥ずかしさを抱えながら、告白してくれた。

この時は、本当に吃驚した。

はいかいいえの二択な筈。

でも、きっと。

この質問を投げかける事前練習までして。

むしろ、結婚の為に料理を勉強したりして。

そして、その背景を思い出してしまいながら。

勇気を出して、聞いたから。

嬉しい答えが、達成感になったんだと思う。

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