第5話
そんなわけでゲームの世界に召喚されてしまったこの俺、常葉直太。事態は、トントン拍子で進んでいった。
俺とメイを含めて勇者パーティーは4人。それぞれに伝説の武器と十分な旅費を与える代わりに、4人で魔王城まで行かなければならない。全軍を率いて正面から戦うと、魔王側が有利らしく、少数で姿を隠しながら行くのがベストらしい。
この辺の理屈はゲームでは語られなかったから、目から鱗な感じ。
そうそう、俺は転移直後に羽根の耳飾りをつけられた。何でも、魔術を使って翻訳を行う道具らしい。これのおかげで日本語しかしゃべれない俺でも、この国の言語を理解することができるようだ。っていうか、国王と何の違和感もなく会話したけど、実は国王、日本語しゃべってなかったんだな。この耳飾り凄い……
「直太さん、メイさん、今日からよろしくお願いします。」
笑顔で挨拶してきたのは、青いシャツを着たさわやかな青年。彼は太多進太郎たいたしんたろうくん。聖剣に選ばれた勇者らしい。俺たち勇者パーティーの中心人物。ゲームで言ったら主人公。元の世界では警官をやっていたらしい。サラサラとした黒い髪に、眼鏡。真面目そうで清潔感のある好青年だ。
進太郎君が現れるなり、メイは上目遣いで彼にすり寄る。
「メイね、魔王退治とか怖~い。進くん、守ってくれる?」
誰だこのぶりっ子は?声のトーンが明らかに高い。イケメンを前にした途端、態度をかえる尻軽アンドロイドめ。
「おい、やめろ。進太郎君困ってるだろ。」
「悔しいですか?僻んでも虚しいだけですよ。陰キャニートの直太様。」
「お前こそ虚しい奴だな。進太郎君はお前みたいな無機物になんか興味もねえよ。」
「顔が良ければ、需要はありますう。いまいちパッとしない顔の直太様は、引っ込んでいてください。」
「おい、表出ろや。立場をわからせてやる。」
「や~ん、怖~い。進くん助けて……」
相変わらず生意気なメイ。寛大な俺も、流石に我慢の限界というものだ。今にも、殴り掛かろうとしたその時、なぜか進太郎君が楽し気に笑い出した。
「あはは、二人は仲がいいですね。」
「おい、今のやり取りをどう切り取れば仲が良く見えるんだ。」
進太郎くんは独特の感性をお持ちのようだ。困惑の中、後ろから強く俺の肩を叩く巨漢が一人。
「はははっ、直太殿は、自分のメイドが進太郎殿に取られそうで、気が気でないのだろう。」
「いや、別に。こんな毒舌メイド喜んで差し上げますよ。」
彼は騎士団長のガルドさん。身長2メートル超えの大男。逆立った髪赤毛に、頬には傷の跡。鎧越しでも逆三角形の屈強な体が、強い存在感を放つ。勇者パーティーにおける案内役でもある。そしてこちらの御仁も、独特の感性をお持ちのようだ。
「魔王退治か。やるのは構わんが、そこに至るまでの雑魚狩りとか面倒そうだな。」
「ちょうどいいでしょう。魔王を倒せれば、人の役に立てますし、負けても社会不適合者が一人減るだけ。どっちに転んでもよいことしかありません」
「てめえ、俺の人権はどこ行った?」
「直太様は、自分に人権があるといつから錯覚していたのですか?」
「そんなメイドは修正してやる。」
俺は、メイに殴りかかる。一回ばらしてギアの一つまで俺の恐ろしさを叩き込んでやる。
が、気づけば俺はメイに羽交い絞めにされていた
「何で?」
「つくづく直太様は愚かですね。何度やっても結果は同じですよ。」
メイの腕が俺の首元を締め上げる。相変わらずのバカ力で俺は手も足も出ない。
「ぐ、苦しい。助けて、コロサレル!」
「大丈夫ですか!直太さん。」
「これが大丈夫に見えるかい?」
「メイさん、離してあげてください。」
「……進くんがおっしゃるのなら。」
メイは物凄く、不満そうに俺を離した。そんなに俺をしばきたいか、このアンドロイドは。進太郎はメイの両肩を掴むと、真剣な様子で彼女を見つめた。
「ふぇ?」
「メイさん、じゃれ合いの範囲内にしても、やりすぎです。人間はそんなに丈夫にはできていないんです。下手をしたら、直太さんが寝たきりになってしまいます。」
「は、はい……」
「わかってくれますか?」」
「もちろんです。進くんの言うことは絶対聞きます。」
メイは、俺には見せたこともない満面の笑みで頷いた。
「おい、今アンドロイドの癖に今デレやがったな。やっぱあれか、お前イケメンの言うことなら聞くんだな。」
「ふ、万年ぼっちの僻みはみっともないですよ。」
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼっちじゃねえし!」
人の気にしていることを良くも言いやがって。進太郎くんは相変わらずニコニコしている。彼的には、口で言い争っているうちは仲良しの扱いなの?一回仲良しという言葉の意味を辞書で引いてこい。
こんな中、ガルドさんが急に神妙な表情で俺たちに近づいてきた。ただでさえ、存在感がすごいのに、真顔で迫ってきたらちょっと委縮してしまう。
「直太殿、メイ殿。先ほど、進太郎殿には問うたのだが、君たちにも同じ問いを投げかけたい。」
ガルドの声のトーンがこれまでより低い。俺は唾をのんだ。
「問おう、そなたたちに魔王を倒す、その覚悟はあるか?」
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