第19話 リハビリがてら不良狩り

――――【哪吒目線】


「ふう……これでいいだろう」


 かつて俺の両腕があった場所にセットされた銀色に鈍く輝く新たなる金属の腕。志麻姉ちゃんはひと仕事終えたとばかりにため息を漏らした。


 子どもの俺からすれば、志麻姉ちゃんの漏らす吐息すら色っぽく感じてしまう。


「じゃあ、軽く動かしてみてくれ」


 志麻姉ちゃんに従い、ベッドに横たわったまま指を動かそうと念じた。指に練り込まれたたヒヒイロカネが蛍光グリーンの光を放つ。国民的SFロボットアニメで思念に反応するフレームを組み込んだ機体があった。それを彷彿させる。


 ピクピクと指が震える。


「流石、哪吒だな。驚いたよ、つけて直ぐに動かせるような代物ではないのに」


 そうなの? と驚いてしまう。


 動かし方が【神の見えざる手】とほぼ同じだったからだ。


 指を強く握り拳を作ると感覚的にはリンゴなんて簡単に握り潰せそうなくらい握力は出せそうに感じた。


 俺は上半身を起こすと腕の重みで実感が湧いてくる。これが新しい腕なんだって……。重みとは言ったものの、チタン合金のように軽くて頑丈に作られているようだった。


「どうだ? 新しい腕『アルマダ』の使い心地は」


 ただ【神の見えざる手】に比べ、繊細に制御するにはリハビリが必要なようだ。胸の前で手をグー、パーと閉じたり開いたりしていると志麻姉ちゃんが訊ねてくる。


「ああ、最高としか言えないね。なんたって俺のために志麻姉ちゃんが作ってくれたんだ。悪い訳がない」

「哪吒……」


 志麻姉ちゃんはひしと俺を抱き締めていた。彼女の鼓動が皮膚から伝わってしまうほど強く……。  


「哪吒が両腕を失ったと聞いたときは気が気でなかった……。おまけに冤罪を背負い放校されるなんて心配で心配で……。どれだけ私が狂いそうになったか、知っているのか?」

「ごめん、志麻姉ちゃん……」


 俺は志麻姉ちゃんの背に手をやり、着衣越しで肌に触れた。


「だがもうそんなことは終わったんだ。アルマダにより私と哪吒は更に強い絆で結ばれるようになった。だから結婚しよう」

「何でそうなるの、志麻姉ちゃん……」


 それにしてもメタルフレームなのに志麻姉ちゃんの柔らかさや体温が感じられるとかどうなってるんだ?


「ふふ、私に触れて私を抱きたくなったな? なったんだな、素直になっていいんだぞ」

「違うって。志麻姉ちゃんの柔らかさとか体温が義手なのに感じられたから……だから志麻姉ちゃんはヒヒイロカネを……」


「ああ、よく気づいたな。東都が推しているAI制御の義肢は確かに悪くない。だがあれは人の温もりを感じることができないからな。だから私はヒヒイロカネを使った義肢製作に拘った」


「もしかして、それが原因で志麻姉ちゃんは東都を追い出されてしまったんじゃ……」


 俺と同じく無実の罪を着せられ、追放された天才技術者。


「終わったことだ。私はこうやって哪吒と過ごせるだけで幸せなんだ。そういう意味では奴らに感謝しないいけないくらい」

「でも……」


「子どもが大人のことを気にするな。ただの利権絡みだ。AIなどの機器を用いた方が金が動く。奴らはそれが欲しかったんだ。あまり突っ込むと哪吒まで余計なことに巻き込まれてしまう」


 網代家の人間に関わってしまったら、巻き込まれているのと同然のような気がする……。


「哪吒に新しい腕が備わった記念だ。シよう!」

「志麻姉ちゃん、ストレート過ぎん?」

「嫌ならいいんだぞ。私は無理強いしない。しかし

哪吒も溜まってるみたいだが?」


「いや、だ、大丈夫だからっ。これ以上志麻姉ちゃんの手を煩わせる訳には……って、なんで俺のベルトを緩めて……」

「私は哪吒のお姉ちゃんなんだ。遠慮せずに欲望に身を委ねるといい」


「お姉ちゃんに誰もそんなことさせね……うっ!」

「ふふふ、色々言っても身体は素直でよろしい。おお、硬くなってきたな。アルマダにも劣らない硬さで素晴らしい」

「ちょっ、ちょっ! 志麻姉ちゃんっ!!!」


 両腕がなく、流石に【神の見えざる手】で処理する訳にもいかなかった俺はこのあと溜まりに溜まっていた欲望を志麻姉ちゃんに吸い取られた……。



 志麻姉ちゃんはベッドの縁に腰掛けて黒のレースつきブラジャーを着けてたあと、口元をハンカチで拭う。


「先ほどは探索科は廃止されたと言ったな。実はある。科としてはなくなってしまったが、部活でやっている生徒たちがいるんだ。ただ開店休業状態で……」

「迷探協には加入してる?」


「ああ、もちろんだ」


 迷探協ってのは迷宮探索協会の略称で内閣府の外郭団体。そこがダンジョン探索に関わる許可申請を担っており、無認可の団体はダンジョンに潜ることを許されていない。



 放課後、俺は迷宮部と書かれたネームプレートが掲げられた部室の前にいた。外の壁やドアにはセンスのないスプレーアートが施され、タイヤや冷蔵庫や電子レンジなどの不法投棄のゴミが散乱している。


 比較的民度の高い学校だと思ったが、探索部の周りだけ終末世界ポストアポカリプス感が漂ってくる。


 せっかくダンジョン探索にまつわる部活があるなら、と思い覚悟を決めて門を叩いたのだが……。


「あ? 何? 部員なんて募集してねえ。帰れ、カス」


 いかにもと不良です、と言わんばかりの関係者が出てくる。


「待て待て! うっは! こいつ有名人じゃん!」

「ああ、ダンジョン配信で見た見た! レイドボスを単独パーティーで倒すとかイキって両腕を失って奴だろ!」


「バカがまたダンジョンに潜りに来たんだ。ホントバカは治らねえんだな」

「「「はははははははははははは!!!」」」


 俺はドアの中から出てきた不良三人に囲まれていたが……。


「ど、どうぞ……いらっしゃいませぇぇ……」


 中からか細い声がしたので無視して部室に入ることにした。


「無視すっ、うげっ!」

「なっ! ふごっ!」

「一体なにがっ!」


 バカそうな不良を【神の見えざる手】で押さえつけ、これからの道を切り開くようにして……。

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