第4話 夜な夜な訪れるヒロイン
――――【アリシア目線】
日向くんがダンジョンから救出されたと聞いてお見舞いに駆けつけてみたら、両腕を失ってなんて……。彼の目の前では泣くまいと決めていたけど、痛ましい姿に涙が溢れて止まらない。
日向くんはいつもそうだった。
いつもいつも颯真が無茶ばかり言って彼を困らせる。颯真が私たちのことなんて気にせず、前に進んでいくものだから、体力に劣る女子メンバーがいつダンジョン内で遭難してもおかしくなかった。
そんな私たちがはぐれないように日向くんは常にフォローしてくれた上に優しい言葉を掛けてくれた。お礼を伝えると、ちょっと照れながらこめかみを掻く彼の仕草が私の母性をくすぐってくる……。
なのに、なのに、颯真と言えば!!!
颯真自身も責任が問われるところを日向くんに助けてもらったのに、両腕を失った彼をまるで使い捨てるような言葉を吐き捨てるのが許せなかった。
生まれて初めて人を
それも私の婚約者を……。と言っても親が決めただけの関係で、私に颯真へ寄せる特別な感情はまったくない。
許婚がいると両親から聞かされていたけど、初めて颯真と顔を合わせたときに彼から最低の言葉が出た。
『どうせオレたちは結婚するんだし、それまではお互いに遊ぼうぜ』
なのに颯真は母の血を色濃く継いだ私は人の目を引く容姿なようでクラスの男子の前ではしきりに自分の彼女だと吹聴していたけど。
この人は結婚してからも必ず浮気するタイプだと確信した。そんな人を好きになれるはずもなく、ただ義務として婚約者を演じているだけなのに……。
そんなことより今は日向くんのことが気になって仕方がない。れもんが過呼吸を起こして、お見舞いが中途半端になってしまったけど、今頃彼はどう過ごしているんだろう?
【21:47】
時計に目をやるが、会いに行こうにも面会時間はすっかり終わってしまっている……。
それならとスマホを取り出し、メッセージだけでも送ろうとした。
……。
自分の愚かさに今更気づいた。
病室内は携帯電話の使用が制限されている。それどころか、彼は両腕がなくてスマホすら持てないのだ。
何か良い方法はないかと考えた結果、御門家の嫡流にだけ許された秘術【
かしこみかしこみ いざなみのおおかみ
はなれがたきをはなれ かのひとのもとへ
ゆきてはかえす はるのさざなみ
祝詞を捧げるとベッドに横たわり意識を失ったかのように眠る私の身体を見ていた。
まさか成功してしまうなんて!?
肉体と魂を分離し、幽体となって宙に浮かんで壁などをすり抜け様子を探るもの……。
だけど一度も成功したことがなかった。
だって私は嫡流ではなく、網代家への貢ぎ物なのだから……。
不思議なことに今晩は何故か成功してしまった。
もちろん父から【幽離魂魄】について多くのことを聞かされ、やり方は誰よりも知っていた。父は母との交際を禁じられ、こっそり会いに行くために使っていたそうだから……。
考えられるのは、何としても日向くんと会いたい……。会って助けてもらった感謝と彼を置いて私たちだけで逃げ出したことの謝罪がしたかった。その気持ちが私に秘められた力を開放してくれたんだと思う。
身体から開放された私はそれこそ飛ぶように日向くんの下へ向かった。
ものの数分で付属病院に着いたが、はめ殺しの大きな窓ガラスを見ると私の姿は映っていない。夜にも拘らず、夜間診療の窓口には外来の患者が訪れていたが私の存在に気づく人はいなかった。
幽霊のように浮遊と壁などの障害物をすり抜けできるというのに、いつもの癖が抜けずに律儀にも階段を昇り、病棟にあるナースステーションの前を横切る。病棟の照明はすでに消え、ナースステーションの明かりとモニターの光だけが外に漏れていた。
あと少しで日向くんの病室……。
逸る気持ちで彼の病室のドアをすり抜けた。目を閉じ、静かに眠る彼と対面する。あまりにも静かなので気になって、彼の傍に寄り呼吸を確認した。
良かった……ちゃんと息をしてくれてる。
もし日向くんが生還しなかったら私は彼の墓前で命を絶っていたと思う、それくらい私は罪深いことを彼にしたのだ……。
彼が両腕を失ったのは私の罪……。
婚約者なのに颯真の暴走を止められなかった。日向くんは逃げろと言ってくれたけど、パーティーの仲間になったからには日向くんと一蓮托生のつもりでいたはずなのに我が身かわいさから彼を一人にして逃げてしまった。
気づくと私は日向くんの肩口に触れていた。父が強い想いを抱くものには物理的な干渉も可能と言っていた。そのとき、私は小さくて意味が分からなかったけど、今なら痛いほど分かる。
いや痛い想いをしたのは日向くんだろう。
両腕が切断されたというのに包帯やガーゼの類はなく、彼の傷はすでに塞がっていた。 日向くんが生きて戻ってくれたうれしさと、彼が負った深い傷を見て、激しい後悔が私を襲う。
あ……あれ……?
日向くんの頬に水滴がどんどん落ちていく。顔だから点滴が漏れてるとは考えにくいと思ったら、私の涙が彼に当たっていた。
そんなまさか幽離体から涙がこぼれて、生身の身体に当たってしまうなんて……。
私はそれほど日向くんに想いを寄せていたの?
気づけば彼への想いを口にしていた。
「こんなことになってしまって、私はどうすればいいの?」
静かに息を立て眠る日向くんを見ていると張り裂けそうな気持ちから彼の胸に飛び込みたくなる。仮にも婚約者がいる身で……。
「颯真との関係を断って、私が一生日向くんの面倒を……」
あと数センチで彼の肌と触れると思ったときだった。
「ひゃっ!?」
私の手が掴まれ、予期せぬ事態に声が出てしまう。
幽離体であるはずの私にいったい誰が触れれるというの!?
まさか日向くんが? そう思って彼の肩口を見てもやっぱり腕はなかった。
私の声にびっくりしたのか、掴まれた感触はすぐなくなったけど、私は気が動転して彼の病室を出てきてしまった。
もし彼に変なものが憑いているなら、私が払わないと!!! 私は試されているのだ、日向くんに対する想いが本物かどうかを……。
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