【青い青い空】藍星 良介-ryosuke aibOSHI-
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朝のホームルーム前。
窓の外の渡り廊下に担任の姿を確認した僕は、ダンッと大きな音を立てて立ち上がった。
「おい。いい加減にしろよ」
向かった先は、全ての元凶。
彼女の机に、ボロボロになった本を叩き付ける。案の定彼女やその周りの女子たちは、びくりと大袈裟に肩を震わせた。
「君のせいでこんなんになってんだけど。直せよ。直さなかったらマジで許さねえ」
それだけ言って立ち去ろうとする僕にクラス中が噛み付いた。いろいろと言いたい放題言っていたが、結局一つにまとめると、言いたいのは『僕が悪い』ということ。
無論、ただ黙って悪口を聞いてあげるほど、僕はできた人間ではない。
「じゃあお前らがすんのか? 今まで散々ダメにしてきた本も、教科書も、体操着も。締めて五万以上の弁償を。言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろ。口で勝てねえからって寄って集って卑怯なことしてんじゃねえ。自分が悪くねえってんなら堂々としてろや」
その時、タイミング悪く「誰だ騒いでいるのは!」と担任が教室に入ってくる。担任の視線は、勿論立っていた僕に向いた。
「お前か窪谷! 騒いでいたのは!」
「まあ、発端は」
「廊下に立っていろ!」
「はい」
今時そんなことを言う教師がいるんだなと、ため息を落としてクラス中を見渡した。けれど誰一人として、堂々と立ち向かってくる者はいなかった。
ただ、一人を除いて。
「頭どうかしてるんじゃないのか」
「え? ……へへ。そうかな」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「だって、嬉しかったから」
元凶の彼女は、自分にも責任があると言って、今は一緒に廊下に立っている。僕が叩き付けた、あのボロボロの本を大事そうに抱えながら。
「やっぱり頭がおかしいんだな。あんな風に言われて喜んで、僕みたいな奴に話しかけてくるぐらいだ」
「やさしいね」
「は?」
「興味がない振りをして、いろんなことちゃんと見てる。気付いてたんでしょ?」
そう言って彼女は、そのボロボロの本――の形をした箱の中から、一冊の本を取り出した。
その本の表紙には【虹の探求者】と書かれている。
「よくわかったね。この本が一番気になってたって」
「…………」
「……私、何かおかしなこと言った?」
「今まで挨拶ぐらいしかしなかったのに、途端によく話すようになったなって」
「だって、今は本読んでないから、喋っても大丈夫かなって」
「は?」
どうやら彼女は、僕が最初に怒った時のことをずっと守ってくれていたらしい。
気付けば僕は、盛大に噴き出していた。
「何のために廊下に立たされてると思ってんだよ」
「だって、そもそもの発端は私が原因だし」
「自分から進んで廊下に出てくることないだろうに」
「いいじゃん。一緒に仲良く怒られようよ」
「仲良くは勘弁」
「恥ずかしがり屋? それとも照れ屋?」
「っ、誰が」
「君が」
「お前ら何を廊下でぺちゃくちゃ喋っとるか!」
「「すみませーん」」
全く反省の色のない僕たちに、担任は暫くの間放課後の教室掃除を命じた。それでも、あまり効果はなかったが。
「どうしてくれるんだ。僕の読書の時間が君のせいでまた潰れたんだけど」
「本、貸してくれてありがとう」
「あのさ、僕と会話する気があるのか?」
「興味はあるんだけど、私すごく読むのが遅くて。その、想像力が欠如しているというか……」
今更になって申し訳なさそうに本を抱える彼女に、思わず目を丸くする。あれだけ図々しく無遠慮に声を掛けてきた彼女にも、意外な一面があったのだなと。
「別に返さなくていい。それは僕なりの詫びだから」
すると彼女は驚きに目を瞠った後、嬉しそうに顔を綻ばせた。
その後もずっと二人で喋り続けていたから担任にはこっぴどく怒られたけれど、その日を境にクラスの嫌がらせもすっかりなくなったのだった。
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