第2話 村の畑を耕す補助術師

 辺境の村は、王都と比べて驚くほど静かだった。

 馬車が通ることもほとんどなく、聞こえてくるのは鳥のさえずりと風の音ばかり。

 けれどカイルにとっては、騒がしい冒険者ギルドよりも、ずっと居心地が良かった。


「……さて、今日も畑仕事か」


 村の空き地を借りて始めた小さな畑。最初は土が固くて苦労したが、〈支援魔法〉を使えば、驚くほど早く耕せることが分かった。

 鍬を振り下ろしながら、カイルは呟く。


「〈活性〉!」


 ふわりと光が広がり、土がほぐれる。水分や栄養が整えられるのか、雑草まで青々と元気になる。

 王都では「戦闘向きじゃない」と笑われたスキルも、ここでは立派な“農業チート”だ。


「おお、カイル! また土が柔らかくなってるじゃねぇか!」


 声をかけてきたのは、隣の畑で麦を育てている老農夫のゴドンだ。

 ごつごつとした手で鍬を握り、にこにこと笑っている。


「なんだってそんなに早く畑が仕上がるんだ? わしなんざ、一日かけても半分が限界だぞ」


「ちょっとしたコツですよ」


 カイルは曖昧に笑った。支援魔法のことを話しても、信じてもらえないかもしれない。だが実際、ゴドンの畑まで手伝ったとき、作物の育ちが格段に良くなり、村人たちは目を丸くした。


「カイルさん、こっちの畑にも手を貸してくださらない?」


「うちの家畜が最近元気でねぇんだが……」


「パン焼きも頼めるかい? この前のは子どもたちが大喜びでな!」


 気がつけば、村人たちの“なんでも屋”のようになっていた。

 だがそれは、カイルにとって悪いことではなかった。むしろ――


「必要とされてるって、いいな」


 心の底からそう思えた。

 王都では「不要」と言われた力が、ここでは誰かの役に立つ。それだけで胸が温かくなる。


     ◇


 夕暮れ時。

 小さなパン窯から香ばしい匂いが立ち上り、子どもたちが列を作って待っていた。


「カイル兄ちゃんのパンだー!」


「ふかふかだ! 美味しい!」


 はしゃぐ子どもたちを見て、カイルは苦笑しつつも、自然と笑みが浮かぶ。

 冒険の輝きはないかもしれない。けれど、こんな日常も悪くない。


     ◇


 その夜。

 窓の外で月が昇り始めた頃、不意に扉が叩かれた。


 ――コン、コン。


「こんな時間に?」


 扉を開けると、そこには昼間畑で見かけた銀鎧の女騎士が立っていた。

 月明かりに照らされた横顔は、疲れを隠しきれず、それでも毅然とした気配を漂わせている。


「……やはり、あなたがカイルですね。〈万能補助術〉の使い手」


 低く、真剣な声。

 その瞳に射抜かれ、カイルは思わず息をのんだ。


「お願いがあります。――どうか、私の仲間を救ってください」


 辺境の穏やかな日々に、最初の“試練”が訪れた。

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