第4話

ドンドンドン

太鼓の音がなる

ピーッヒュロロ〜

笛の音が聞こえる

大人や子供が山車(だし)を声を合わせながら活気を出しているんだろう

笑い声も子供がはしゃいでいる声もアベックたちが楽しそうにしているのも微かだが見える

今日は一年の最後に行われる冬のお祭り

祭りは日本人の心が集うのを感じる日

儂はその日を毎年毎年楽しみにしておった

だが

老人 「これを見るのも最後かのぉ。」

老人は縁側からかすかに見える祭りの様子を見てそうつぶやく

昔は祭りの中心にいた彼が悲しそうにそれを見つめゆっくりと呼吸をしていく


老人は今年で87歳になる

もう足腰も弱く外を出るのも一苦労で数年前から眺めることしかできていなかった

が、今日は何か違う起き上がるにも辛かったのに何故か活力が溢れ外に出たいと感じられる

老人 「久々に行ってみるかのぉ。だがその前に」

そういうと老人は後ろを振り返り笑顔で声をかける

老人 「お前さんも行かんかね?」

電気が付いていない畳の部屋の影からビクッという驚いた気配を感じる

そこから何かを決めたのか窓から縁側を通り部屋に輝く月明かりの元にその者は出る


それは送り人だった。絹のような白い髪に月と同じ光の瞳。全体を見て美しいという言葉が出る者

その者はとても驚いた顔をしていた

送り人「私が見えるんですか?」

老人 「おお見えるぞ。それよりべっぴんさんが来ておったんか何も準備しておらんくてすまんのぉ」

送り人「あっいえ。何も言わずに来たのはこちらですから…」

老人 「あっはっは!そうだもんな死は人間にとってはいつ来るかわからん。だが儂は今日な気がしておったんじゃ」

送り人は初めてのことに驚いていたがハッとした顔になりこういう

送り人「あ、あの私の名前は送り人です。私は死後の世界へと送るものです。本当はあなたが眠った後になるはずだったのですが…何故でしょうか」

送り人は3回手を叩き本を紹介しペラペラと対処法を調べようとしている

その姿を見て老人は笑顔になりながらこう言う


老人 「昔なぁ死が近い人は死神が見えるって言われてたんだ。だから儂は珍しいんじゃろ」

送り人「そうだったんですか、すみません知識不足でした。」

老人 「あぁいいんだいいんだ。誰しも完璧に覚えているものなんていないんだからなぁ」

老人は優しい口調で言葉を続ける

老人 「さっき死ぬのは寝たあとと言ったな」

送り人「はい。寝たあと寿命でなくなる予定です」

老人 「ならすこしは時間はあるな?」

送り人は不思議そうに「えぇ。あと数時間ほどですが」という

老人 「なら祭りを見たい」

送り人「祭りって外のですか?とても寒いですよ?」

老人 「いやいいんだ。ちゃんと暖かくしていくからな。だからお主も付き合っとくれ」

送り人「ですが…」

老人 「お金なら心配ない老後全然使っとらんくてな今日は久々に財布の紐を緩めたい」

送り人「……わかりました」

老人は「少し準備をする」といい自室のタンスから裏起毛の服と昔妻があんでくれた帽子とマフラーを準備する。

その後仏壇のとこへ向かい

老人 「それじゃあ婆さん少し行ってくるでな」と線香をあげる

その間送り人は縁側から見える提灯のあかりを見ていた


老人 「遅くなってしまったな。」

送り人「いえ。もう準備は大丈夫ですか?」

老人 「あぁ。では行こう」

老人は杖をつきながら玄関を出る

その瞬間違う世界に来たかのような感覚になる

たくさんの提灯


出た瞬間に美味しそうなご飯の匂いがする屋台


笑い会う人々


そして山車を引く小さい可愛らしい子供から頼りがいのある男たちがいた


それに仮面をつけ踊るひと

太鼓や笛、鐘を叩くもの


数年ぶりに見る景色に老人は「懐かしい…」と口からこぼす


老人 「さて回ろうか」

送り人「はい」


2人はゆっくりと回っていく。射的、小物細工、りんご飴、焼きそば、豚汁

老人は見つけたものをすぐにかい後ろに並んでいる近所の子供たちにプレゼントしていた


送り人「いいんですか?」

老人 「あぁいいんだ。この歳になると食が細くなってしまってね。小さい子たちが食べるのを見ているのが幸せなんだ」

送り人は貰った人々が笑顔になっていくのを見ていたし近所の方から信頼されているんだなと感じた

送り人「皆さんおじいさんのこと大好きなようですね」

老人 「昔はこの祭りを企画していてな。ほんと10数年前までなほらあそこの山車の屋根のとこでな大工方(だいぐうかた)って言って調子を取っていたんじゃ」

送り人「あれとっても高いとこいますけど怖くないんですか?」

老人 「最初の頃は怖かったがの。なれたらみんなと声を合わせて神様を送るのが楽しかったわ」

老人は昔の思い出を一つ一つ思い出す

老人 「あそこにいる赤ん坊を抱っこしている子はな50年前くらいに確か8歳だったかな太鼓叩いてくれたんだ。あそこの坊主は37年前に儂が落ちてくれた時に治療してくれた先生の息子さんだな。元気に育っとる」

このひとはずっと覚えていたんだと思う。

毎年おなじ掛け声と、ほとんど同じ屋台。

それでも毎年毎年違う思い出はできていく。それをまるで日記を読んでいるかのようにスラスラと言えるこの人は本当に祭りを愛していたんだと送り花は感じた?

その時1人の中年の男性が小走りに近づく


男  「山下さん!お久しぶりです。おひとりですか?」

老人 「あっいや。…あーそうだ1人でな今日は久々に体調が良くてな祭りを楽しんでいたんだ」

男  「そうなんですか!いやぁ山下さんが来てくれてみんなとても喜んでますよ」

老人 「あっはっは!そりゃあ良かった。これからもこの祭りを頼むよ?」

男  「もちろんですよ!これをやらないと年越せません!」

2人は楽しげに笑いその後別れ老人は少し離れた送り人の元へ向かった

老人 「すまんな1人にさせてもうて」

送り人「いえいえ。こうなってしまうのはわかっていたので」

送り人は生者には見えない。死が近づいているものにしか見えないから会話に混ざることも料理を買うことも出来なかったのだ

老人 「これ食べな」

そう言って老人が渡してくれたのはひとつのりんご飴だった

送り人「えっいいんですか?」

老人 「あぁゆっくりお食べ」

送り人「…いただきます」

送り人はひと口かじる甘く赤く少し硬い飴の甘みとシャクっとみずみずしいりんごの甘みが均等になり送り人は「美味しい」と呟いた


老人「良かったよ。若いものはいっぱい食べなきゃだ」

送り人「モゴ、ありがとうございます。」

老人 「昔は婆さんと二人で回っとったんだ。でも婆さんが亡くなったあと1人でまわっていてな。足も腰も弱くなってから死ぬまで行けないと思っとったんだ」

老人は送り人の方へ向き頭を優しく撫でながら言う

老人 「ありがとうな。とても楽しい思い出を最後にくれて。」

送り人は少し黙ったあと食べ終わったりんご飴を片し

送り人「私は送り人。死者の未練を払い死後の国へ送るもの。それを叶えられ私は嬉しいです」

送り人は優しく微笑むのであった


その後老人は地域の子と話し大人たちと少しのお酒をかわしとても充実した時間を過ごした

家へ帰り

少しの片付けをし

お風呂へ入り

髪をかわかし

テレビを見て

仏壇がある部屋で線香を上げ

寝室へ向かい

読み終わっていなかった小説を読み切り

その後永遠に覚めない眠りについた

送り人は魂だけになった老人の手を取り部屋へ向かう


送り人は紅茶ではなく日本の緑茶を準備し老人の前へ置く。

老人 「ありがとうな。…うん。死んでもお茶の美味しさは変わらないな」

送り人「良かったです」

しばしの暖かい空気が流れる

送り人「では。そろそろよろしいですか?」

老人 「お願いするよ」

送り人は本を用意する

送り人「はい。では山下 清(やました きよし)さん。あなたはこの87年間小さい頃から祭りを見て過ごし祭りのため、みんなのために生きていきました。その中で出会い、別れ、愛情、友情、その中にあった不安などたくさんのものに囲まれていきました。あなたの死因は寿命です。ほんとうにお疲れ様でした。」

清 「ありがとうなぁ」

送り人「この後は扉をくぐってもらい審査の後死後の世界で過ごしていただきます。」

清 「婆さんもこの先にいるかな?」

送り人はにっこりと笑って「ゆっくりと待っていたそうです」と伝えた。


ドアの前送り人は清に1本の黄色の可愛らしい花を贈る

清  「これはとても綺麗な花だね」

送り人「お礼でもあります。りんご飴美味しかったです。ありがとうございました」

清  「これからも寒いから風邪には気をつけるんだよ」

送り人「はいありがとうございます。それでは行ってらっしゃい」

送り人は清を深々とお辞儀をしながら送る

清はにこやかに笑うとゆっくり1歩1歩を踏み出して行った


扉がしまったあと送り人は椅子に座り目を瞑り食べたりんご飴の味祭りのことを思い出し

送り人「とても懐かしかった。楽しかったですね。」と呟いた


そこから数時間は暇だったが新たにドアベルがチリンっとなったすぐに準備をし死者の元へと向かう


「私は送り人。あなたをお迎えに上がりました。」



フリージナ

花言葉

「親愛の情」

「感謝」

など



誰かのためを思って優しさの行動。誰からでも愛されるとてもいいひとでしたね


おしまい

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